接着細胞培養研究:着手からスケールアップまで | Corning

接着細胞培養技術を用いた研究は、現代医学の大きな進歩に寄与し、病状に対する理解を深め、安全で効果的な介入法の開発を支えています。2022年に再生医療分野の治験のうち2,000件以上が、細胞療法、細胞ベースのがん免疫療法、遺伝子治療、組織工学のいずれかを使用したものでした。

成人の場合、治療用量には何百個、場合によっては何百万個もの細胞が必要になります。治験では、投与回数が増え、しかも患者数も何百人に上ることから、必要な細胞数は、あっという間に何十億個もの膨大な量に達します。さらに厄介なことに、細胞タイプがとてつもなく多様で、その用途も多数考えられるため、接着細胞を使った研究でどのようなケースにも対応可能なアプローチは存在しないことになります。それでも、既刊文献ですでに確立しているプロトコールが続々と出てきているため、研究開発段階にあるプロジェクトにとってはよい出発点となります。さらに、昨今の細胞培養プラットフォームの進歩を受け、何百万個あるいは何十億個という接着細胞の規模にまでスケールアップするプロセスが簡素化されています。

シードトレインの計画策定

どのような研究プロジェクトでも、一定の患者数に必要となる推定の細胞数を含め、プロセスの早い段階で最終目標を検討しておくことが大切です。そこから逆算して、研究段階からパイロット段階、さらには商用生産段階にまで効率的に移行していく計画を策定します。凍結保存細胞から、患者治療に用いる数十億個規模の細胞数にまで引き上げる道筋は、シードトレインと呼ばれます。細胞自体やめざす細胞製品の品質を損なうことなく、細胞の播種・増殖・回収方法を身につければ、シードトレインは自ずと進化します。

現実的に何が実現可能なのかは、プロセス開発に使える期間、そして生産に充てられる予算、占有面積、人員数にも左右されます。一般に、スピードを重視するソリューションほど、細胞数当たりの占有面積も人員数も消耗品(培地、フラスコを含む)も増加します。しかし、技術革新を背景に、多様な規模のさまざまなアプリケーション向けに魅力的な独創性あふれるソリューションが生まれています。こうしたソリューションは、占有スペースを抑えつつ大きな表面積を確保できる多段型・多層型容器を使用しています。プロセス開発に多くの時間を割ける研究グループの場合、固定床リアクター(FBR)など制御範囲が広がるオプションもあります。また、ディスポーザブルスピナーフラスコや従来のバイオリアクターとともに可溶性マイクロキャリアを使用することで、浮遊培養環境での接着細胞の培養が可能です。

接着細胞培養のスケールアップ:大型容器への移行

多くの研究グループがスケールアップの最初のステップで、一般的なT-150フラスコからCorning® CellSTACK® 培養チャンバーCorning HYPERFlask® セルカルチャー容器Corning HYPERStack® セルカルチャー容器など、大型の容器への移行が必要になります。CellSTACK培養チャンバーは、チャンバー数が1、2、5、10、40のサイズがあり、最大25,440 cm²の培養面積を確保できます。CellSTACK製品はいずれも、コーニングが提供する閉鎖系用のキャップやチューブを利用して閉鎖系に転換できます。閉鎖系に移行することにより、生産段階で不可欠なGMP(医薬品の製造・品質管理に関する基準)管理体制への移行が促進されます。

HYPERFlask容器とHYPERStack容器は、画期的なガス透過性フィルムを使用しており、さらにコンパクトなソリューションを実現しています。どちらの容器も外側は強固なポリスチレン層を採用していますが、培養表面はガス交換に対応した超薄型ポリスチレンフィルムです。HYPERFlask容器は従来のT-175フラスコと全体的なサイズや形状が同じですが、10層構造の超薄型ポリスチレンフィルムを採用しているため、1,720 cm²の培養表面が利用できます。HYPERFlask容器は、手作業にも自動化にも対応しています。

HYPERStack容器は、出荷時から閉鎖系用となっており、12段または36段があり、培養表面積はそれぞれ6,000 cm²、18,000 cm²となっています。HYPERStack容器の設置スペースはCellSTACK培養チャンバーと同様ですが、CellSTACK-40が高さ72 cmであるのに対して、HYPERStack-36は高さがわずか28 cmです。HYPERStack容器同士をシングルユースのマニフォールドで接続することで、ハンドリング時間を短縮することができます。5アーム型マニフォールドを使えば、HYPERStack 36段容器×4個のスタックを結合できます。

Corning 自動マニピュレータープラットフォーム(日本未発売)はHYPERStack 36段容器×6個に対応し、合計108,000 cm²(10.8 m²)の培養面積を提供することで、リキッドハンドリングを効率化し一貫性を向上します。 また、CellSTACK-40容器×3個にも対応し、合計76,320 cm²(7.632 m²)の培養面積を実現します。

接着細胞培養の早期スケールアップの適合性を確保

CellSTACK培養チャンバー、HYPERFlask、HYPERStackの各容器を使用する場合、従来の2D細胞培養手法に比較的簡単な変更を加える程度で済みます。生産スケールが拡大すると、ある程度の検証や変更が必要になりますが、プロセス自体はかなりわかりやすいため、プロセス開発の期間が限られている場合に適した選択肢となります。研究開発段階では、通常、ポリスチレン表面で細胞を2D培養します。こうした表面は組織培養用に処理されていて、細胞接着を促すコーティングがされている場合もあります。研究プロセスの初期に、使用する表面コーティングや細胞、培地、追加要素(培地、血清、添加剤を含む)が、治験など下流のステップに適合するかどうか確認しておく必要があります。また、細胞や細胞製品の回収方法も考慮しておきます。変更が必要な場合には、後回しにせずに早めの実施を検討します。

追加管理機能の確保

CellSTACK培養チャンバー、HYPERFlask、HYPERStackの各容器では、細胞培養培地などの追加や除去が断続的に発生します。継続的な管理のためには、バイオリアクターと適切なガスラインが必要です。2D細胞培養の利便性は維持したいということであれば、Corning CellCube® チャンバーがあります。各種サイズを取りそろえたシングルユースのモジュールで、最大85,000 cm²(8.5 m²)の処理済みポリスチレン培養表面が利用できます。CellCubeのモジュールはバイオリアクターと組み合わせ、灌流型の接着細胞培養を実現します。一定の流速を保つ液体でin vitro条件を模倣し、温度、pH、溶存酸素、養分、代謝産物の継続的なモニタリングと管理が可能です。

もう1つの選択肢として、Corning Ascent® FBRシステム(日本未発売)が挙げられます。専用コントローラーとシングルユースのバイオリアクターが付属し、現在、バイオリアクターは1 m²、2.5 m²、5 m²の各培養表面がそろっています。これより大規模な「Pilot(パイロット)」版や「Production(生産)」版のシステムも開発段階にあり、それぞれ最大100 m²と1,000 m²の培養表面を実現します。培養表面は、特殊処理を施したPET(ポリエチレンテレフタレート)ポリマーメッシュの層を重ねてあり、バイオリアクターのベッドで均一で低せん断の液流となるため、高収率の細胞培養、トランスフェクション効率化、生細胞回収率向上につながります。

接着細胞培養のスケールアップ:生産量の最大化

最後に、マイクロキャリアがあれば、従来のバイオリアクターで接着細胞を培養できます。マイクロキャリアは、定常攪拌により培地に浮遊し続けるビーズ状構造体のため、3D環境でありがなら接着細胞の培養表面が確保できます。標準的なマイクロキャリアは、ポリスチレン製で各種表面処理が用意されています。最近のイノベーションである可溶性マイクロキャリアは、カルシウムイオンで架橋したポリグリコール酸(PGA)ポリマー鎖でできています。細胞の回収に当たっては、カルシウムはEDTAでキレートし、PGAはペクチナーゼで分解させることができます。この穏やかな回収方法は、細胞の健康状態を守り、無限の可能性を提供します。

マイクロキャリアとバイオリアクターを使用する場合、相当なプロセス開発期間が必要ですが、省スペース化に加え、効率化や生産量アップの効果が期待できます。予備実験は、125 mLのディスポーザブルスピナーフラスコから始めて、スケールアップしていきます。

今後の道筋を描く

接着細胞培養のスケールアップでは、多くの優れた選択肢があります。早い段階でシードトレインを綿密に計画しておけば、時間やリソースを最も効率的に活用し、プロジェクトを成功への軌道に乗せることができます。