Small But Mighty: High-Yield Cell Culture with A Minimal Footprint

細胞培養技術の向上が最新の研究に従事する研究室の実験効率に多大な効果をもたらす

細胞治療や遺伝子治療、診断、ワクチン開発など、多様な研究領域に不可欠な細胞培養。コンタミネーションの管理や一貫性の向上、コストの最小化など、培養手法に関わる既知の課題に加え、最新の研究に従事する研究室では細胞収量が重要視され、収率最大化のプレッシャーにさらされています。細胞培養のスペースやプロトコールを決定したり刷新したりする際に、細心の注意を払っておけば、こうした課題を克服し、確実な効率化につながります。また、拡張や変更の計画も考慮しておくと、将来的に時間や費用を節約できます。

切り詰めながらスケールアップに挑む

接着細胞培養は、どうしても広いスペースが必要です。それなりの表面積を確保するために、研究室のベンチ上は多数の従来型フラスコでいっぱいになったり、インキュベーター内がフラスコだらけになったりすることもあります。製造数のニーズが増えてくると、すぐさま、一貫性を保ちながらタイムリーに培養を維持できるかどうかが大きな問題になります。そこで研究室スタッフとしては、適切なガス交換を徹底し、培地の追加・除去に伴う細胞への負担を最小限に抑えなければなりません。こうした作業は自動化に馴染みやすいですが、臨床の場や他の大規模研究アプリケーションにふさわしい設計とスケーラビリティを考慮しておかなければなりません。スペースをあまり占有することなく、細胞増殖の能力や生産性を最大化できるかどうかに重点を置くのが得策です。その点、多層型培養容器は、処理時間と占有面積を劇的に削減できることから人気が高まっています。また、その分、研究室の貴重なリソースを研究範囲の拡大や他のアプリケーションに振り向けることができます。

細胞培養のスペースやプロトコールの計画立案で考慮しておきたいポイント

  • 現時点での収率条件を決定し、これがニーズやアプリケーションの進展に伴って今後どのように変わっていくのか検討します。将来のニーズを想定しておけば、無駄のない移行を促進し、総コストを抑えることができます。
  • またワークフローの理解を深めておくことも、効率化に役立ちます。このプロセスの一環として、現時点から将来に渡ってワークフローにインキュベーターやベンチのスペースをどの程度利用できるのか考慮します。
  • 現在や将来のアプリケーションを前提に、培養に必要なものの条件を検討し、それに付随するコストを算定します。例えば、表面処理済みフラスコ、表面処理なしフラスコ、専用の増殖因子などです。
  • 必要な消耗品・備品、試薬、機器を研究室に整えておくことも大切ですが、不可欠なのは人員です。細胞培養の作業にどのくらいの時間を確保できるのか。必要なスキルやトレーニングを受けている人員は何人いるのか。追加のトレーニングや再トレーニングは必要か。こうした点を確認します。
  • ワークフローがマニュアルの場合と自動の場合とで、どのようなサポートが必要か。プロトコールとワークフローの採用に当たり、技術的な注意事項に関してどのようなリソースとサポートが必要か。これらを明らかにします。

新しい技術であれば、こうした注意事項を念頭に開発されており、研究室のニーズに合わせ、適応性に優れたカスタマイズ対応のソリューションが確保できます。例えば、Corning® HYPERFlask® セルカルチャー容器は、最小限の占有スペースで増殖能力を最大限に引き出せるよう設計されています。従来の175 cm2のフラスコと同じ占有スペースでありながら、1,720 cm2の培養面積が利用できます。この高収率のフラスコは、多層構造でガス透過性のある培養表面を使用して、効率的なガス交換を実現します。以下のケーススタディで、Corning HYPER(High Yield PERformance)テクノロジーを利用した高収率化と手軽なスケールアップの例をご紹介します。

効率化と生産性アップを実現

Cer Groupeの免疫生物学研究所(ベルギー)では、研究チームが診断キットに使用するウイルスの収率向上策を検討するに当たって、多層型培養容器の性能比較を実施しました。同チームが開発した診断キットは、ウシパラインフルエンザ3型ウイルス(PI3V)の有無を検査するもので、再現性のある大量のPI3Vのバッチを生産する必要があります。

同チームは、従来の大容量(6,320 cm2の表面積)の10層構造培養容器と、もっとコンパクト(1,720 cm2)でありながらCorning HYPER テクノロジーを駆使して10層構造を実現した培養容器を比較しました。その結果、性能でも使いやすさの面でも後者が上回っていました。

Corning HYPER テクノロジーを使った場合のウイルス産生数は、従来型の細胞培養容器と同等でしたが、シード培養と占有スペースは1/3で済みました。また、Corning HYPERFlask セルカルチャー容器も、表面積1 cm2当たり2倍のウイルスを産生しました。こうした実験の結果、研究チームでは、HYPER テクノロジーの方が省スペースでありながら優れた生産性を備えており、インキュベーター内に収容できるウイルス培養も多いと結論づけました。

研究技術者の間では、小型のフラスコの方が取り扱いやメンテナンス、液体交換、ドラフト内での作業性に優れていることから、作業時間も短縮でき、コンタミネーションのリスクも抑えられると評価されています。総合的には、Corning HYPERFlask セルカルチャー容器を使うと、経済的なソリューションで、ウイルス診断キットに必要な試薬の生産が簡素化されると同チームは判断しました。

治験の相移行の成功率向上

Ottawa Hospital Research Institute(OHRI)も、管理のしやすさや一貫性、スケール変更の課題を抱えていましたが、解決策にたどり着きました。OHRIは、がん治療、慢性疾患、臨床疫学、神経科学、再生医療の領域で国際的に卓越した研究プログラムを実施しています。診療変更につながる研究や再生治療・生物学的治療を優先しており、新しい画期的な患者の治療・ケアの旗振り役を担っています。研究室での新規治療薬の研究開発から治験向けの大規模生産まで円滑に移行できる体制づくりは、プロトコール開発の重要な課題となっています。

OHRIでそのようなプロジェクトに相当するのが、敗血症性ショック治療への幹細胞治療の適用です。OHRIでは、死亡率20〜40%の一般的疾患である敗血症性ショックの治療における、同種骨髄由来間葉系幹細胞(MSC)の安全性と有効性を評価する治験を実施しました。

治験の第I相では、安全性と忍容性を評価する際、必要に応じ、新患者用に単一用量を製造しました。その際、通知から6時間以内に総投与量を製造する必要がありました。このような短時間反応を実現するため、同研究所のチームは、Corning HYPERFlask セルカルチャー容器の採用により、ハンドリング時間を削減して収率を最大化しました。この早い段階で独自プロトコールを適用することで、作業環境を変えることなく、同じHYPER テクノロジーで治験第II相用の生産量に難なくスケールアップできるようになりました。

技術的なタイミング

コーニング ライフサイエンスのサイエンティフィックサポートスペシャリスト、Sherwin Zhu氏は、技術移行の際に研究室が直面する課題に対処しています。Zhu氏によれば、新技術導入を検討中の研究室は共通する懸念を抱いています。それは、標準的な実施手順の見直しに伴う時間や手間を考えると、プロトコール変更になかなか踏み切れないというものです。しかし、ひとたび覚悟を決めた研究室は、プロトコールの合理化に加え、細胞の接着性、分化能、生存率が高まって生産性も向上するなど利便性の良さに、大いに満足してくれるそうです。

Zhu氏は、最終的には技術導入の背中を押すのはタイミングとしたうえで、「往々にして、新たな技術の採用は、機が熟すタイミングがある」と言います。顕著な例として、ある細胞バンク企業は、十分な人員とスペースがあるにもかかわらず、技術やプロトコールの変更には難色を示していました。ところが事業成長に伴い、従来の手法やスペースではまたたくまに追いつかなくなり、Zhu氏に支援を求めました。そこで、Corning HYPER テクノロジーを使ったところ、培養の管理がしやすくなったことに加え、凍結保存後の細胞生存率も向上しました。

スペースや時間の節約につながっただけでなく、直接的な利点もあるとZhu氏は言います。まず、研究技術者を対象とした技術やプロトコールのトレーニングが簡単な点が挙げられます。しかも、コンパクトな多層型容器は、ハンドリングが容易で省スペース性にも優れ、操作ミス発生の可能性が小さいうえに、トラブルシューティングのコスト削減にもつながります。

現在の細胞培養アプリケーションでは、バッチ間の再現性を確保しつつ収率を高める必要があります。そのため、幅広い領域で最新研究に従事する研究室にとって、効率的な培養技術の有効性や必要性がさらに高まっています。

効率的でカスタマイズに対応したソリューション

接着細胞培養を扱うほとんどの研究者にとって、ハンドリング時間や処理時間、インキュベータースペースを最小に抑えることは優先課題となっています。高収率で省スペース性に優れた適切な培養容器を選定すれば、手間とスペースの両面で条件の緩和につながります。

Corning HYPER テクノロジーは、独自のガス透過性フィルムを採用し、小さな面積でも生産性と接着性が高まるため、Corning HYPERFlask セルカルチャー容器の培養面積は1,720 cm2に達します。つまり、従来の175 cm2の培養フラスコの設置スペースで、実に10本分相当の培養面積が確保できるのです。

Corning HYPER テクノロジーは、高効率でカスタマイズ可能なソリューションのため、自動化やスケール変更にも対応します。