How Science, Collaboration, and Innovation are Driving Corning’s Future

今回のQ&Aでは、コーニング ライフサイエンス(CLS)のライフサイエンステクノロジー担当バイスプレジデント兼最高商務責任者、John Tobinと、同じくCLSのグローバルサイエンティフィックアプリケーション担当ディレクター、John “Yoshi” Shyuの両氏を迎え、ライフサイエンス業界向けに製品を提供してきた同社の長い歴史について聞きます。また、研究段階から新規治療薬の開発段階まで、顧客のイノベーションの支援と迅速化を担うCLS独自のポジションについても見解をうかがいます。聞き手は、Pharma’s AlmanacのDavid Alvaro編集長(Ph.D)。

David Alvaro(以下DA):コーニングは、間違いなく米国を代表する有力ブランドであり、ライフサイエンスの世界で長きにわたって素晴らしい足跡を残してきました。歴史を振り返るだけでインタビュー時間がなくなってしまいそうですが、手短に紹介していただけますか。

John Tobin氏(以下JT):ライフサイエンス事業部は、コーニングの中で最も歴史のある事業部です。コーニングは1915年に研究の世界に進出し、研究者向けのイノベーションやツールを提供し、人々の生活を一変させる発見、多くの場合は命を救う発見を支えてきました。当社は細胞生物学や材料科学の分野で深い専門知識を持ち、研究室からバイオプロダクション施設、さらに最近では医薬品保存・配送に至るまで、幅広くお客様を支援しています。

イノベーションの長い歴史があり、特に顕著な出来事としては、1930年代のペニシリン製造や1950年代のポリオワクチン製造の際に、当社のPYREX®ブランドのガラス製品が使われました。今も変わることなく、細胞培養・製造のための新しい材料基質や設備プラットフォームに重点を置き、がん研究や細胞・遺伝子治療薬開発などの領域でお客様が取り組む最先端研究を支えています。

CLSが提供する製品を最適化するために外部から取得した技術もあります。ガラス製品メーカーを振り出しに発展を遂げてきた当社は、多彩な細胞培養プラットフォームや表面化学製品を提供し、幅広いライフサイエンスアプリケーションを支援しています。

DA:長い歴史の中で、CLSの使命とビジョンはどのように進化してきたのでしょうか。また、現在の使命とビジョンにはどのような特徴がありますか。

JT:当社の製品構成はライフサイエンス業界に合わせて絶えず進化していますが、「科学界が細胞の力を生かすために」という使命とビジョンは一貫しており、研究室で解決できない問題を解決し、長寿と健康増進に向けて確かな進歩をもたらすことをめざしています。

一貫した性能を発揮する培養用品や定番実験用品、プレシジョンメディシン(精密医療)研究向けオルガノイドモデル作製用のCorning マトリゲル基底膜マトリックスなどのツール、細胞・遺伝子治療薬アプリケーション向けの高収率で省スペース型のCorning® HYPERStack® セルカルチャー容器など高品質の革新的なツールの供給を通じて、研究者の活躍を支援しています。また、世界中のあらゆる地域の研究現場にこうした製品を供給する体制も整えています。この体制は独自のもので、コーニングならではのグローバルなサプライチェーン機能と圧倒的な物流網で可能にしています。

現在、お客様の問題解決の支援に向け、お客様との協力関係はかつてないほど緊密になっています。単なるサプライヤーの立場を脱却し、真のパートナーとして、高度な連携強化とコラボレーションに熱心に取り組んでいます。

John “Yoshi” Shyu博士(以下JS):私からもひとつ加えておきましょう。CLSが提供しているツールは、革新的で高品質であるだけでなく、多くの場合、信頼性と一貫性に優れた性能を発揮します。

DA:この領域でのイノベーションに取り組むうえで、CLSのように頼り甲斐のあるパートナーの存在が以前にも増して重要になっているのはなぜでしょうか。

JS:研究の世界を見ていると、さまざまな組織が同じ課題を抱えるようになっていることがわかります。特に細胞・遺伝子治療薬の領域で顕著です。このような課題に関して、まだベストプラクティスが確立していないものもあり、科学界はアイデアや解決策を組織内だけでなく外部にも求める必要が出てきました。例えば、業界イベントでの情報共有とか、ライフサイエンス領域全体を広く見ているサプライヤーとの協業です。お客様から課題のご相談があれば、私たちが蓄積している知識を提供します。そして協力関係を基にイノベーションを通じて、新しいプロトコールの開発や問題の解決を迅速化します。

つまり、CLSのイノベーションは、文字どおりお客様の声で実現しているのです。当社は、研究活動のスピードアップや新規治療薬開発の効率化につながるより良い製品づくりのため、お客様の課題について時間をかけて理解を深めます。

JT:コーニングのビジネスは、お客様とのコラボレーションが不可欠です。私たちはまずお客様に学び、そして今度はYoshiが率いるサイエンティフィックフィールドアプリケーションチームを始めとする当社の技術専門家を通じて、お客様に学びの場を提供します。これこそ、科学を前進させる真のエコシステムです。

3D細胞培養の領域での例を挙げてみましょう。この領域では、当社は毎年開催している3D Cell Culture Summitのような場を通じた濃密な情報共有により、連帯感を生み出しています。このサミットは、優れた研究者に人材交流や新たな出会いの場を提供し、サミット終了後もさらにこうした関係を発展させていただこうという狙いがあります。実際、このサミットをきっかけに生まれたトレンドがたくさんあります。まさしく科学の進歩を目的としたお客様の交流を支援しているのです。

DA:コーニング ライフサイエンスというブランドには、どのような特徴や個性があるとお考えですか。また、それは創業からのコーニングブランドとどの程度重なっているのでしょうか。CLSの独自性はありますか。

JT:CLSの中核をなす特徴は3つあり、これはコーニング本体の中核でもあります。

まずイノベーションです。継続的な技術革新と進化なくして、100年以上にわたって成果を上げ続けることはできません。この急速に変化する環境の中で、古びることなく時代の変化に合わせていくことが大切です。

第2はコラボレーションです。私たちは、お客様に寄り添いながら、お客様が掲げる目的と、克服すべき課題について理解を深めるようにしています。これが私たちのイノベーションの原動力になります。また、物流パートナーなどのサプライヤー各社とのコラボレーションを確立することも大切です。繰り返しになりますが、科学を進歩させ続けるためには、このグローバルな科学界で私たちがお互いにペースを落とさないことが大切です。

そして第3は、中核を担う科学です。私たちは、得意分野である材料科学と細胞生物学に注力します。コーニングとCLSは、この領域に精通しており、その知識が製品として実を結んでいます。この2つの領域に対する深い理解があるからこそ、研究でもバイオプロダクションでもお客様に価値を提供し続けられるのです。実際、材料科学の専門ノウハウを求めて多くのお客様から何度もご相談をいただきます。これは当社独自のノウハウであり、進化するニーズに応える差別化された製品の開発を可能にするからです。

JS:科学の進歩に伴うCLSの適応力の重要性を改めて強調しておきたいと思います。例えば、細胞株が変わり、研究現場で幹細胞や他の細胞種が使われるようになると、CLSは即座に対応して、改良型のプラットフォームや先進的な表面を開発し、こうした細胞培養系が可能性を確実に発揮できるようにしています。

DA:CLSが事業展開する各領域の既存顧客・潜在顧客の間で、ブランドのイメージや認知度はいかがですか。

JS:当社が実験用品市場に進出したのは100年以上も前のことですから、最初に出会った製品がPYREXガラス製品だったという研究者がたくさんいます。もっと後になると、初めて使った製品がプラスチック製のピペットやチューブ、細胞培養フラスコなどの当社の培養用品だったという方も多いですね。何しろコーニングの培養用品は、世界中の主なライフサイエンス研究室に必ずあるので、もっともな話です。

また、がん研究などの領域や細胞・遺伝子治療薬用のバイオプロダクション施設で、3D細胞培養モデル向けのマトリゲル基底膜マトリックスといった先端的なツールが、当社を知るきっかけになった方もいます。

当社は世界最大級の実験用品サプライヤーですが、最先端ソリューションに関する認知度向上に常に取り組んでいます。私はサイエンティフィックチームの責任者を務めており、チームとして、研究室やイベントに出向き、あるいはデジタルツールを利用し、お客様と一対一でじっくり時間をかけた説明を心がけています。顧客サポートでのシステムやツールに関する情報提供だけでなく、日々の業務に役立つトレンド情報、ベストプラクティス、運用面・生物学的側面の最適化に関する情報共有にも取り組んでいます。

JT:当社のツールや製品に関連するプロトコールについてお客様に理解を深めていただくため、CLSではこの数年間に渡り、フィールドアプリケーショングループを始め、他のサイエンティフィックサポートの部署に極めて優秀な人材を拡充しています。

DA:ここで、研究開発戦略について詳しくうかがいたいと思います。顧客ニーズを予測するには、有力企業だけでなく、最先端分野に関わるアカデミアのグループなどとも緊密な関係が求められるのではないでしょうか。

JS:コーニングは、多くのアカデミア研究室とパートナー関係にあります。バイオテック企業や低分子医薬品メーカーともパートナー関係にあります。このような緊密な関係がなければ、それぞれの重要セクターが直面している様々な課題も見えてきません。1つの組織がすべてに精通していることはありませんし、1つの組織から提供される情報には、どうしても限界があります。ですから、今挙げたようなさまざまなグループとの対話が最良のソリューションづくりに役立つのです。

CLSは、お客様とのコラボレーションを通じて、提供された情報を総合し、広範な課題に対処する革新的な製品を開発しています。プラットフォームや消耗品の提供にとどまらず、技術的なアドバイスや科学的知識も提供し、お客様のプロセスの強化や改善を支援しています。

お客様とのつながりに加え、業界の会議や科学論文のレビューを通じて業界動向にも絶えず関心を払っています。この結果、市場の今後の動きや将来的に求められるインフラを見極め、こうした将来のニーズに応えるソリューションをお届けできるのです。

DA:CLSにとって、同業の大手や競合他社との最大の差別化ポイントはどこにありますか。

JT:何よりもこの領域で長きにわたって事業を展開してきました。しかも、どの競合よりも長く携わっています。Corningしかり、Falcon®しかり、PYREXしかり、Axygen®しかりで、業界で最も信頼あるブランドを擁しています。また、実に幅広い製品を取りそろえており、その数は30,000点に上ります。むろん、単に製品数が多いだけではなく、製品の品質や一貫性に優れており、プラットフォームの直線的なスケーラビリティも備えています。研究者は、使用するツールが毎回期待どおりに機能するかどうか把握しておく必要があります。

長年にわたる業界再編が続く中、当社はしっかりとした世界規模の製造・物流体制があり、十分な事業規模を持つ一方、現場の最前線でお客様に寄り添いながら問題解決に取り組むという面では、コンパクトで機動力に長けた組織でもあり、実にユニークな立場にあると言えます。

DA:今後、先端治療薬領域で上流のバイオプロダクションのサポートを強化する計画だそうですが、詳しくうかがえますか。

JS:すでに何十年も前からバイオプロダクション領域で事業を展開しているのですが、細胞・遺伝子治療薬市場が急拡大する中、コーニングにとっては、細胞生物学と材料科学に関する独自の専門ノウハウを以ってこの業界を支援し、開発上の課題解決に役立てるというとてつもなく大きな機会と言えます。

当社は、研究室のベンチからバイオプロダクション施設まで、一貫性のあるモジュール式のプラットフォームを提供しており、スタートアップからスケールアップまでプラットフォームの正確性を維持しています。この継続性があるために、お客様の時間節約や効率化につながり、さまざまな細胞・遺伝子治療薬を対象に、最適な成果(高収率など)を一貫してサポートします。私が率いるチームは、お客様と緊密に協力してプロセスを決定し、確かな成果につながる適切なツール選びを支援します。

当社は、接着細胞向けに細胞培養プラットフォームの強化を通じて高収率化と省スペース化に取り組んできた確固たる歴史があります。HYPERFlask®やHYPERStack容器を支えるHYPERテクノロジーは、平面プラットフォームでの効率的な生産性という点で他の追随を許しません。当社の新製品であるAscent® Fixed Bed Reactorシステム(日本未発売)は、かつては浮遊培養槽でしか確保できなかったスケーラビリティが実現するとあって、接着細胞培養環境のメリットが見込めるアプリケーションでの常識を覆す革新的な技術です。Ascentは、プロセス開発スケールから製造スケールまで(1 m2から1,000 m2まで)直線的なスケーラビリティを備えています。これは、CLSの勢力範囲を製造施設にも拡大する大きなチャンスとなります。

DA:CLSが特に手厚くサポートできそうなセクターやモダリティ(例えば幹細胞治療薬やエクソソーム、細胞外小胞など)はありますか。

JS:細胞・遺伝子治療薬全体に言えることですが、コーニングがお客様をサポートできる共通の分野がいくつかあります。スケール変更の際にプラットフォームの正確性を確保することは非常に重要で、これが確保されていれば橋渡しの研究は縮小可能または不要となり、時間も費用も節約できます。また、何にでも対応できる万能アプローチというものが存在しない以上、培養系のプラットフォームに柔軟性やモジュール性を持たせることが極めて重要です。しかも、省スペース性が高く、細胞収率が上がるとなればなおさらです。もう1つ共通の関心事は経済性です。その意味では、閉鎖系は、クリーンルーム空間での実験に取って代わる費用対効果の高い代替策になります。最後に、技術を迅速に見つけ出して採用できるかどうかも、重要な要素となります。

特に先端治療薬の場合、組織工学やがん免疫療法、希少疾患といった領域で幹細胞に並外れた有望性があることはわかっていますが、増殖環境での最適化に手こずる可能性があります。幹細胞は、接着培養プラットフォームのほうが良好な振る舞いを見せる傾向があり、コーニングは、まさにこの領域で独自の製品やノウハウを生かし、有望な治療薬の開発をサポートできます。

とてつもない可能性を秘めたもう1つの領域として、in vivo様疾患モデルから予測薬剤スクリーニング、さらにはプレシジョンメディシンまで、がん研究での3D細胞培養が挙げられます。コーニングは、3D技術の推進派として、いち早くこの技術を採用してきました。採用やニーズの拡大に合わせ、ハイスループットスクリーニングソリューションからバイオプリンティングまで、常にイノベーションに取り組んでいます。

DA:コロナ禍でサプライチェーンの問題が発生しましたが、CLSが単体として、あるいは業界ぐるみで、この難局を乗り切ったエピソードがありましたらご紹介ください。完全に解決した事例でも、取り組みを通じて得られた教訓でも構いません。

JT:コロナ禍では多くの学びがありました。ライフサイエンス領域のほぼすべての企業がそうだったと思います。一部の製品に関しては記録的な需要超過となり、全面的に原料不足に陥りました。ワクチン研究、バイオプロダクション、診断の需要に対応し、患者にワクチンを届けるため(10億回分以上のワクチンがコーニングのガラス製バイアルで出荷)、コロナ関連製品の大幅な増産へと舵を切る必要に迫られました。当然、多くのライフサイエンス系のサプライヤーや他業界と同じように、当社もサプライチェーン混乱の影響を受けました。

しかし、当社としては、こうした混乱や難局を経験する中で、高品質な製品づくりに始まり、お客様にできる限り素早く効率的にお届けする体制構築に至るまで、業務のほぼすべての面で投資や最適化に乗り出すチャンスと考えました。全体的には過去数年で5億ドル以上を投じて製造能力を増強しました。当社が長期にわたって需要に対応し、お客様が寸断なく事業を継続できるように供給を保証するうえで、こうした投資は不可欠です。

もう1つコロナ禍で得られた重要な教訓があります。それは「人が第一」という考え方です。私たちは、従業員を守り、コーニングの社風を維持するとともに、コロナ禍に関わる多くの課題の克服にたゆまず努力することを優先しました。また、コロナ禍では、発想の転換を余儀なくされました。当社が強靭な回復力を発揮できたことは大きな誇りです。

DA:CLSが扱う全製品の中で、今回まだ取り上げていない重要な面やここまでに話題に上った製品以外で触れておきたい重要なことはありますか。

JT:1つ触れておきたいのは、当社のサステナビリティへの取り組みのコミットメントです。当社が消耗品を製造している以上、お客様から問い合わせの多い大きなテーマの1つです。これはますます重要になる一方で、当社としても現在はもちろん、将来にわたって取り組みを進めています。現時点では、当社のあらゆる活動に関してサステナビリティを考慮し、気候問題への取り組みサステナビリティを重視した製品・プロセスの設計スチュワードシップという3つの重要分野で前進することを意味します。米国では、コーニングは、太陽光発電能力のランキングで上位25社に入ります。当社には、サステナビリティ目標達成の一助となる再生可能エネルギー証書(グリーン電力証書)の対象製品がSKUで3,000点以上あります。製品包装材については、リサイクル・引き取りプログラムを実施しています。また、さらなる改善の機会を見つけ出そうと、組織内の機能的な垣根を越えて、また、競合他社やお客様、学術機関とも連携しています。今や、製品設計から製造プロセス、さらにはそれ以外の分野まで、当社では日常業務にサステナビリティの考えが織り込まれつつあります。今後も一層の改善を進めるため、お客様との協力を続けていきたいと思います。

DA:今後数年間において、業界を待ち受けている特に注目すべき変化や抜本的な変化としては、どのようなことを予想していますか。また、そうした変化や新たな機会を生かすために、CLSではどのような戦略を練っていますか。

JS:細胞・遺伝子治療薬など、生物学的なワクチンや治療薬への注目が高まっています。こうした需要の高まりを受け、バイオテック企業やバイオ医薬品メーカーは、どのようなアプリケーションにおいても、柔軟性に優れていて、しかもそのような治療薬の上市に必要な細胞収率やスケールを実現できるプラットフォームを求めています。ソリューションはいくつか存在するものの、現行の技術を刷新・改善し、新たなイノベーションを導入する機会はまだたくさんあります。

JT:ライフサイエンスの動向を100年以上にわたって経験してきたCLSの視点から言えば、これはまさしく当社がぜひ対処したい課題であり、喜んで真正面から取り組み、この領域の進歩に貢献し続けていきたいと思います。