がん研究

がんの複雑性の解明に向けた戦いに終わりはありません。幸いなことに、がん治療の効果を高めるために新たな優れた治療法を追い求め、がんの原因や挙動を解明しようと、数え切れないほどの研究者が日夜研究に取り組んでいます。

コーニング ライフサイエンスは、一貫性と再現性のある結果をもたらす信頼できる製品で、この重要な研究を支えています。 マトリゲル基底膜マトリックスTranswell® パーミアブルサポートスフェロイドマイクロプレートを始めとするコーニング製品は、最先端のがん研究に用いられるin vivo様3D環境づくりの促進に寄与しています。

今回は、コーニングの専門家を招き、がん研究に関する質問にお答えいただきます。3D細胞培養から、腫瘍形成、血管新生、浸潤・遊走アッセイに至るまで、幅広い領域で皆様を支援する専門家をお招きしました。

 

専門家のご紹介

今回質問に回答するコーニングの専門家は、技術マネージャーのPaula Flaherty氏、シニア開発サイエンティストのJeffrey Partridge氏、アプリケーションサイエンティストのHilary Sherman氏、同Audrey Bergeron氏の4名です。Paula Flaherty氏は、セルベースアッセイ開発に豊富な経験があります。Jeffrey Partridge氏は20年以上に渡ってがん研究に従事し、動物モデルのほか、Corning® BioCoat® マトリゲルインベージョンチャンバーやCorning FluoroBlok™ セルカルチャーインサートなどのin vitro浸潤・遊走システムの使用経験があります。Hilary Sherman氏は、がん細胞の遊走、がん免疫アッセイ、3D細胞培養で豊富な経験があります。 Audrey Bergeron氏は、初代免疫細胞・遺伝子改変免疫細胞の培養やアプリケーション、ハイスループット2D・3Dアッセイを手がけてきました。

 

がんオルガノイドのモデル化については非常に大きな期待が寄せられていますが、Corning Biocoat マトリゲルインベージョンチャンバーで培養したオルガノイドによる免疫療法を、Corning FluoroBlok インサートで追跡するようなアプリケーションはあるでしょうか。つまり、内部コンパートメントでオルガノイドを培養してから、免疫療法の効果を追跡できますか。

Corning FluoroBlok セルカルチャーインサートの頂端側チャンバーでがんオルガノイドを培養して、免疫機能を測定したいということであれば、可能性は非常に高いと言えます。 この領域ではあまり論文が発表されていない印象ですが、メンブレン頂端面の細胞が発する蛍光シグナルを排除したい場合、FluoroBlok インサートはお薦めの選択肢です。主に遊走・浸潤アッセイに使われるものですが、このような用途にも利用できます。また、Corning 96HTSインサートとCorning スフェロイドマイクロプレートを組み合わせ、がんオルガノイドに対する免疫細胞の遊走・浸潤の観察に用いることも可能です。コーニングの研究者は、NK92細胞と肺がん細胞株を使って同様のアッセイを実施しています。

以下の参考リンクをご覧ください。

ウェビナー: Applications of Corning FluoroBlok Permeable Supports

レビュー: Culture and Assay Systems Used for 3D Cell Culture

アプリケーションノート: A Novel Three Dimensional Immune Oncology Model for High Throughput Testing of Tumoricidal Capability

製品情報: FluoroBlok インサート

 

DU145細胞を用いた前立腺がん研究に、信頼性の高いトランスフェクションプロトコールを探しています。何かお薦めはありますか。

コーニングには、DU145に特異的なトランスフェクションプロトコールはありませんが、DU145を始めとする多くの前立腺がん細胞株は、2D環境と3D環境とでは挙動が異なることが知られています。3Dトランスフェクションは、Corning マトリゲル基底膜マトリックスのほか、Corning 超低接着表面容器Corning スフェロイドマイクロプレートで実施できます。3Dトランスフェクションに関しては、文献にいくつかのプロトコールが記載されているほか、市販の3Dトランスフェクションキットもあります。参考になりそうなリンクを以下に挙げておきます。

Influence of Matrices on 3D-Cultured Prostate Cancer Cells' Drug Response and Expression of Drug-Action Associated Proteins

Transfection of human prostate cancer cells (DU145) with the human short prolactin receptor sensitizes the cells to cell cycle regulation by S179D prolactin

DU-145 and PC-3 human prostate cancer cell lines express androgen receptor: Implications for the androgen receptor functions and regulation

Gene transfection to spheroid culture system on micropatterned culture plate by polyplex nanomicelle: a novel platform of genetically-modified cell transplantation

Protein Transfection Study Using Multicellular Tumor Spheroids of Human Hepatoma Huh-7 Cells

 

スフェロイドのスクリーニングに、ハイスループット方式を検討しています。何かアドバイスをいただけますか。

スフェロイドのハイスループットスクリーニングには、数多くの選択肢があります。測定の対象や、ご利用になる実験器具によって、最適な選択肢も変わってきます。生存率評価の優れたホモジニアス法として、PromegaのCellTiter-Glo 3D試薬を使ってATPを測定する方法が挙げられます。スフェロイドの場合、一般に2D単層アッセイよりも強い溶解試薬が必要になるため、3D版の試薬を使うことが重要です。また、位相顕微鏡か蛍光顕微鏡によるハイスループットイメージャーと画像解析ソフトウェアで、スフェロイドのサイズ、代謝活性、蛍光染色の変化を定量化することも可能です。

以下の参考リンクをご覧ください。

Drug screening in 3D in vitro tumor models: overcoming current pitfalls of efficacy read-outs

CAR-T Cell Screening in Tumor Spheroids Using Corning Spheroid Microplates

 

具体的な質問ではないのですが、今後、がん研究の領域で、最も大きなインパクトをもたらしそうな有望ツールは何だとお考えですか。

がん研究領域では、かなり期待できる動きがいくつも見られるのですが、今後数年でがん研究に最大のインパクトをもたらすと見られる分野が2つあります。それはモデリングの改良と高度な画像処理です。興味深い動向としては、こうした技術自体は斬新なものとは言えないものの、研究現場で新しい画期的なアプリケーションに使ってみてはどうかと、まったく新たな視点で見直されているのです。超低接着表面マイクロプレートや、Corning マトリゲル基底膜マトリックスなどのECM(細胞外基質)といったツールを生かすと、複雑な3Dがんモデルを構築できます。しかも、開発しやすく、かつてないほど優れた一貫性を備えています。このような3Dモデルは、従来の2Dモデルと比べて、がん環境の複雑性をはるかに的確に捉えます。また、共焦点機能搭載のイメージャーも、過去の計測手段よりもはるかに充実した情報が得られるため、がん研究や個別化医療で重要な役割を担うことができます。

 

ラミニンの研究に関心があります。コーニングはラミニンも扱っていると思いますが、どのようなタイプの培養にメリットがあるでしょうか。

ラミニンには、いくつかのフォーマットがあります。コーニング取り扱い製品の概要を挙げておきます。バイアル(マウス)、コーティング済み、リコンビナント(ヒト)製品に分かれます。

  • バイアル製品(マウス)
    Corning ラミニン(マウス)は、組織培養表面の薄層コーティングや培地の可溶性添加剤に使われます。ラミニンは基底膜の主成分です。細胞の接着、遊走、走化性、増殖、分化(神経突起成長を含む)の促進など、さまざまな生物学的活性があります。

    コーニング取り扱い製品の詳細については、以下のリンク先をご覧ください。
    ラミニン
    高濃度ラミニン/エンタクチン

  • BioCoat 表面
    Corning ラミニン表面は、組織培養表面の薄層コーティングに用いられるほか、細胞の接着、遊走、走化性、増殖、分化の促進を目的に、培地の可溶性添加剤としても利用されます。高濃度(HC)ラミニン/エンタクチン複合体は、3次元(3D)細胞培養アプリケーション促進用にコーニングが開発した特殊組成です。ラミニン/エンタクチン複合体などのゲル内やゲル表面で細胞を培養すると、細胞の分化や機能性を左右する特異的メカニズムの研究が可能になります。

    アプリケーション例:
    神経突起成長の促進
    神経細胞培養での線維芽細胞遊走の抑制
    神経堤細胞の接着
    ラット皮質ニューロンの遺伝子発現
    未分化多能性幹細胞の維持

    上記のコーニングの各種表面の詳細については、以下のリンク先をご覧ください。
    Corning ラミニンコーティング表面
    Corning BioCoat 表面

  • リコンビナントラミニン(rLaminin)-521(ヒト)
    Corning リコンビナントラミニン(rLaminin)-521(ヒト)は、哺乳類細胞培養系で発現させたα5鎖、β2鎖、γ1鎖で構成されるヘテロ三量体です。リコンビナントラミニン-521(ヒト)は、限定されたゼノフリー(異種由来成分不含)環境でのES細胞(hESC)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)など、ヒト多能性幹細胞(hPSC)の長期自己複製をサポートします。リコンビナントラミニン-521には、ROCK阻害剤に依存せず多能性幹細胞の単一細胞増殖が可能になるなどの利点もあり、hPSCを容易に効率的に培養できるようになります。

    詳細については、以下のリンク先をご覧ください。
    Corning リコンビナントラミニン(rLaminin)-521(ヒト)

 

大腸がんスフェロイドの培養に最も優れたECM、培養容器の組み合わせは何でしょうか。

このタイプの実験に適しているのは、Corning スフェロイドマイクロプレートなどの超低接着表面プレートで、細胞培養容器に最適です。使いやすく、均一サイズのウェルごとに1つのオルガノイドの形成を促進し、さらに培養プレート上で蛍光アッセイ、発光アッセイ、イメージングアッセイが実施できます。ECMに関しては、Corning マトリゲル基底膜マトリックスがゴールドスタンダードとして不動の地位にあります。最も多く名前の挙がるECMであり、3D細胞培養アプリケーションで常に使われています。

マトリゲル基底膜マトリックス完全ガイドのダウンロードはこちら

 

フローサイトメトリーで生細胞と死細胞を判別する場合、最も効率的な方法についてアドバイスをお願いします。

ヘキストは、(生細胞、死細胞を問わず)すべての核染色が可能なため、全細胞数の計測に適しています。死細胞の計数には、通常、ヨウ化プロピジウム(PI)を使用します。PIは、細胞膜非透過性色素のため、生細胞の膜を透過せず染色しません。細胞がPI陽性であれば、死細胞かアポトーシス細胞である可能性が高くなります。両色素とも、低濃度でも非常に素早く細胞を染色します。

 

磁気ビーズを使わずに、全血からB細胞を単離する効率的で簡便な方法を探しています。何かアドバイスをいただけますか。

B細胞単離の最初のステップは、フィコール密度勾配遠心による全血からの単核細胞の単離です。さまざまなB細胞単離キットが市販されていますが、単離プロセスに磁気ビーズを使っていないキットを見つけるのは簡単ではありません。

 

今年の国際幹細胞学会(ISSCR)で、腫瘍スフェロイドと免疫細胞の共培養によるがんモデル樹立の講演を聞きました。同様の方法で線維芽細胞が使われているのも見たことがあります。このようなタイプのモデルの樹立に関する詳しい情報源をご存知ですか。多様なモデルに関する文献はすでに目を通していますが、研究室でのモデル樹立方法について情報源を探しています。

複数の細胞タイプを含む共培養スフェロイドを形成する場合、最も簡単な方法の1つは、Corning スフェロイドマイクロプレートなどの低接着表面丸底プレートに、タイプの異なる細胞を播種することです。細胞は同時に播種するか、タイミングをずらして追加していきます。末梢血単核球(PBMC)をトリートメントとしてウェルに添加しましたが、スフェロイドに取り込まれることはありませんでした。複数の細胞タイプを扱う場合、何らかの最適化が必要となるでしょう。例えば、いろいろな培地条件のテストが必要であり、モデルによっては、Corning マトリゲル基底膜マトリックスなどのECMの追加も必要です。また、細胞はそれぞれ倍加速度が異なるため、細胞タイプごとに細胞播種濃度の最適化も必要です。