無細胞治療への関心の高まりを背景に、研究者の間では間葉系幹細胞(MSC)から放出される細胞外小胞(EV)が注目を浴びています。この間葉系幹細胞由来細胞外小胞(MSC-EV)の研究が広がり、細胞回収から培地の収集・処理へと重点が移る中、研究開発用の需要に応える供給体制を確立すべく、スケールアップが重視されています。そこで今回は、MSC-EVの可能性について考察しました。
間葉系幹細胞から細胞外小胞へ
MSCは、1970年代の発見を機に研究が進み、その治療法としての可能性が徹底的に探究されてきました。数十年間に実施された治験の結果、こうした多能性幹細胞は再生医療に極めて有用であることがわかっています。Stem Cell Research and Therapy誌は2020年8月のレビューで、組織再生・免疫調節でのMSCの役割とともに、心血管疾患、脳卒中、変形性関節症などの治療の成功可能性に言及しています。またStem Cell Research and Therapy誌は、重篤なCOVID-19感染者に見られる急性肺傷害や急性呼吸促迫症候群の治療法として幹細胞への関心も見られると解説しています。
当初、MSCの成功は、患部組織への直接移行によるものと考えられていました。つまり幹細胞が、いわば患部組織に自身を”移植”して占有し、分化の末に損傷を修復するという考え方でした。ところが、その後の研究から、この作用はパラクリンであることが判明しました。MSCは、増殖因子やサイトカインなどの分子を分泌し、これが治療効果をもたらす原因となっていたのです。
しかし、MSCから分泌されるのは、生理活性分子だけではありません。MSCは、生体分子を分泌する際、脂質二重膜で囲んだパッケージ構造にします。これを細胞外小胞(EV)と呼びます。MSC由来の細胞外小胞(MSC-EV)は、生物学的障壁を乗り越え、有害な免疫応答など幹細胞療法で見られる多くの課題を回避できます。
この10年間に、MSC-EVは、無細胞治療に道を開く可能性があることから、一躍注目を浴びるようになりました。コーニングのシニア開発エンジニアであるAmy Kauffman博士によれば、単層細胞から、細胞が培地中に産生するものへと注目対象が転換していると言います。この転換により、EV回収への注目度もさらに高まります。