How to Achieve More Consistent Organoid Culture | 3D Organoid Culture | Corning

以下は、2022年1月26日にBiocompareに掲載された記事を翻訳したものです。

オルガノイドは、対象臓器の構造的・機能的特性を模倣した複雑な3次元(3D)細胞培養物です。臓器発生の研究、疾患のモデル化、個別化医療の開発に用いられるなど、科学研究の強力なツールになっています。オルガノイドを使った研究で大きな課題となるのは、培養に使用する細胞外基質(ECM)材料を適切に扱えるかどうかです。この記事では、オルガノイド培養に当たっての、Corning® マトリゲル基底膜マトリックスなどのECMベースのハイドロゲルの有用性について解説し、バイオプリンターを使ってECM液滴によるアッセイやスケールアップを標準化する方法を紹介します。

オルガノイドは研究に不可欠なツール

オルガノイドは、特異的な臓器の主な特徴を模倣したモデル系として、幅広い研究で活用されています。オルガノイドは、組織試料に存在する成体幹細胞から作製するか、多能性幹細胞の分化誘導によって作製でき、細胞拡大培養によってわずか数週間以内に数千ものオルガノイドが得られます。オルガノイドのアプリケーションには、腫瘍から抽出した細胞など患者由来細胞を使った疾患モデルの構築、薬剤の有効性・毒性の評価、ゲノム編集技術CRISPRを使って生じさせた各種変異が疾患状態に及ぼす影響の研究などが挙げられます。これまでに、腸、肺、肝臓、腎臓、膵臓、網膜、心臓、脳などの組織用にオルガノイドが作製されています。

オルガノイド培養に特有の課題

オルガノイド作製は、適切なECM材料での幹細胞培養から始まります。そのECM材料として最も広く用いられているのが、Corning マトリゲル基底膜マトリックス(可溶化基底膜調製品)です。手法はさまざまですが、マイクロプレートのウェルをマトリゲルでコーティングしてから細胞を(適切な増殖培地に)播種する手法、マトリゲルと細胞を混合してからプレートに分注(増殖培地も添加)する手法、マトリゲルと細胞の混合物を小さなドーム状の液滴としてマイクロプレートに分注し、増殖培地を加える手法があります。このうち、各細胞に十分な酸素と栄養素が行きわたり、作製される生存オルガノイド数を最大化できることから、最後に挙げた手法がよく用いられます。しかし、この手法は、技術的に最も難しく、時間もスキルも必要です。

液滴を用いる手法での最大のハードルは、低温状態を維持しなければマトリゲルを液体として保持できない点です。マトリゲルは温かい(室温)表面に触れると、重合が始まってしまうからです。このため、ドーム構造を形成するには、マトリゲルとピペットチップを冷却しておく一方、貴重なサンプル材料を失わないように、マイクロプレートは温かい状態を維持しなければなりません。さらに、ドームが直立構造になるようにするには習熟が必要です。マトリゲルには粘性があり、圧力をかけて吐出する必要があります。このため、分注し過ぎたり、マトリゲルがウェル外周に触れたりしないよう注意しなければなりません。ドーム構造の広がりやドーム同士の混合の恐れがあるからです。このプロセスは煩雑な手作業を伴うため、どうしてもスループットには限界があり、しかも作業者間でばらつきが出ることも否めず、研究室の環境条件の変動でばらつきが悪化する可能性もあります。異なるオルガノイドを同じウェルで形成する場合、さらに難易度が上がる(サイズの異なる液滴を分注する必要がある)ため、複雑なモデルの開発は制限されます。

自動分注で実験の再現性を向上

自動化は、実験の一貫性向上、クロスコンタミネーションリスクの低減、潜在的に有害な物質への曝露リスク低減、スループットの向上など、科学研究に多くのメリットをもたらします。また研究者自身の身体への過剰な負荷に起因する反復性運動過多損傷(RSI)の予防にも役立ち、自動化で空いた時間は他の仕事に振り向けられるようになります。何よりも、オルガノイド培養の場合、自動化によって再現性に優れたマトリゲルのドーム形成が可能になり、患者試料から得られる価値を最大限に引き出せるため、実験結果の信頼性向上につながります。

これまで、マトリゲルが扱えるバイオプリンターはありませんでした。しかし、Corning Matribot® バイオプリンターの登場を受け、手間のかかる手作業のワークフローがなくても、オルガノイド研究を実行できるようになりました。とりわけ、Matribotの導入で、マトリゲルのゲル化を防止するための氷の使用を最小限に抑えられます。Matribot バイオプリンターを使うには、マトリゲルと細胞の混合物をシリンジに入れて、加温したプリントベッド上にマイクロプレートをセットします。あとはシステムがユーザー定義のパラメータに応じて、液滴の分注(またはもっと高度なプリンティング)を実行するため、厳格な温度管理と正確な分注により、ばらつきのないマトリゲルドームの形成が可能です。Matribot バイオプリンターは設置面積がコンパクトなため、安全キャビネット(BSC)に設置できます。これは、患者由来の試料を取り扱う際に極めて重要なポイントです。