技術的な考慮事項
Elplasiaマイクロキャビティ技術を利用する際、何よりも大切なのは「均一なシングルセルになっている懸濁液から始めること」とSherman氏は強調したうえで、「細胞懸濁液にさまざまなサイズの凝集塊があると、最終的にキャビティには、サイズがばらばらのスフェロイドができてしまいます」と説明します。
多くの研究室は、がん細胞株やiPS細胞を扱っていますが、「これらは通常美しい単一細胞塊を形成します」とSherman。このため、プレート全体に細胞を均一に分布させるプロセスが簡略化されます。「ただし、細胞の小凝集塊や細胞塊を置く場合には、すべての凝集塊や細胞塊をほぼ同じサイズにしてください」(Sherman)。その際、セルストレーナーを使用すると便利です。
スフェロイド培養は、Elplasia プレートがあれば、とりたてて難しいものではありませんが、細胞種や播種濃度、培養期間に応じてある程度の最適化が必要です。使用ガイドラインでは、細胞数は、アプリケーションや細胞種に応じて、マイクロキャビティ当たり100個〜1,000個を推奨しています。
例えば、プレートを別の場所に移動させるような場合、マイクロキャビティからスフェロイドが出ないように注意を払います。培地交換の際も注意を払います。スフェロイドに影響を与えるリスクを抑えるため、培地交換はできれば半量ごとの実施を推奨します。Elplasia 12K フラスコは、内部にダイバーターがあり、リキッドハンドリング作業中のスフェロイドへのダメージを最小限に抑えます。
大量形成のためのSynthegel 3Dマトリックスキット
コーニングのイノベーションによって、スフェロイド大量形成の新たな選択肢、Corning Synthegel® 3Dマトリックスキットが誕生しました。3D細胞培養向けの化学的に定義された完全合成ハイドロゲルとなります。
Sherman氏は次のように説明します。「Elplasia プレートなど、マイクロキャビティの基質は、ハイドロゲルが不要で、粘性材料を扱わないため、非常に使いやすくなっています。しかし、細胞はひとつの平面でしか増殖しません。つまり、もっと多くの3次元構造が必要な場合、その分、表面積も必要になります」
さらにSherman氏が続けます。「ハイドロゲルを使えば、3次元空間で培養できます。ゲルの中で3次元構造が形成されるため、立体空間でもっと多くの3次元構造を生成できるのです」
Synthegel 3Dマトリックスは、iPS細胞培養用に2つの組成が用意されています。「ひとつは、非常に粘度の高いハイドロゲルで、一定の厚さを超えると栄養素の浸透が問題になります。もうひとつは、やや緩めのため、拡散勾配を心配することなく厚層を作ることができます。任意の立体空間でハイドロゲルを使用できるため、その分、多くのスフェロイドを作製できます」(Sherman)。スケールアップを重視した設計で、標準TフラスコやCorning CellSTACK® 培養チャンバーなど、どのような標準容器でも利用できます。
スフェロイドの有用性
スフェロイド向けの現行のアプリケーションについてSherman氏は、「個人的に一番わくわくするのはオルガノイドの作業です。オルガノイド領域の研究の進展に伴い、iPS細胞から異なるオルガノイドモデルを作製する方法に関して、これまで以上に確立されたプロトコールが登場しています」と説明します。均一なスフェロイドを培養して均一な胚様体を作製することにより、「お客様は、脳オルガノイドや腎オルガノイド、肝オルガノイドなど、均一なオルガノイドを大量形成できるようになりました」とSherman氏。
がんスフェロイドは、疾患モデルとして、また、抗がん剤候補物質のスクリーニングに広く利用されています。3D細胞培養は、細胞間や細胞・マトリックス間の情報伝達、栄養状態、生理学的・生化学的特性など、in vivoの細胞状態を2D細胞培養よりも正確に模倣します。がん細胞の2D培養と3D培養とでは、細胞に重大な違いがあることがプロテオミクス解析で明らかになっています。また、3D培養モデルは、2D培養モデルに比べ、抗がん剤に対して耐性を示しやすくなります。この違いは、おそらく3Dスフェロイドの核となる細胞への薬剤透過性低下や低酸素誘導性の薬剤耐性上昇に起因し、in vivo状態を模倣していることになります。
また、Sherman氏によれば、RNA分析、DNA分析、タンパク質分析のための細胞物質を多く作製するため、3D構造の大量形成に対する関心が高まっています。Sherman氏は具体的な例として、「96 ウェルプレートのウェルひとつ分(2D培養の細胞)では実験に十分な材料になりませんが、同じ占有面積でもスフェロイドであれば、もっと多くの材料が確保できます」と指摘したうえで、細胞外小胞(EV)の産生についても「新たに出現した注目の研究領域になっています。細胞を2D培養ではなく3D培養にするとEV産生量が増えることを示す文献もあります」と解説します。
「3Dバイオプリンティングは、研究対象の細胞がどこで増殖し、どのような配列になるのかを空間的に決定できることから、ここ1年ほど大きな関心を集めています。スフェロイドのバイオプリンティング利用は非常に新しい動きです。単一細胞の播種でハイドロゲル内に構造体を作製し、細胞をゆっくりと倍加させて培養するのではなく、スフェロイドから開始すれば、すべてがはるかに速く融合し、実際の組織が作製されます。これは組織生成の効率的な手法と言えます」(Sherman)
スフェロイドのアプリケーション拡大を受け、スフェロイドの大量形成は、スフェロイドの活用方法に影響を及ぼし、実験応用や臨床応用でのスフェロイド利用の増加につながります。
スフェロイドの大量形成ツールの詳細はこちらをご覧ください。また、サンプル請求も承ります。