飛躍的な進歩を遂げている細胞・遺伝子治療薬の世界。これまで治療の難しかった疾患を対象に、今や多くの治療薬候補が開発段階や治験段階にあり、中にはすでに上市されているものもあります。こうした研究の多くには、従来の2次元(2D)表面を使った接着細胞培養が用いられており、細胞やウイルスの産生量は比較的少量です。このような2D表面を使用する手法は効率的にスケールアップできないケースが多く、たとえ有望な研究結果が得られたとしても、そこから妥当な価格での治療薬上市に必要十分な産物が製造できるようになるまでには、大きな隔たりがあります。固定床バイオリアクターであれば、時間とコストのかかる浮遊培養系に転換する必要もなく、産生能と収量が飛躍的に高まるため、そのような隔たりを埋める一助となります。
2D表面積の拡大
接着細胞を用いた培養のスケールアップ方式は、使用する容器の占有面積を増やさずに2D表面積を拡大することに重点を置く傾向にあります。例えば、Corning® HYPERFlask®容器は、10層構造のガス透過性ポリスチレン製培養表面を採用しているため、従来のT-175フラスコと同じ占有面積でありながら、実に1,720 cm2の培養表面が得られます。Corning HYPERStack® セルカルチャー容器も超薄型ガス透過性フィルムを採用し、12段(6,000 cm2)または36段(18,000 cm2)の閉鎖系を実現します。いずれもマニフォールド接続に対応し、産生量の増強とハンドリング時間の削減に寄与します。Corning CellCube®モジュールは、10〜100層の製品がそろっており、表面積は8,500 cm2から85,000 cm2まであります。CellCubeシステムは、酸素・栄養素の供給と老廃物の除去に灌流方式を採用しており、in vivo系の一定の液流を模倣します。こうしたモジュール式容器による画期的なスケールアップは、接着培養プラットフォームが様々なアプリケーションやシードトレインとして高い効果を発揮する一助となります。しかし、細胞やベクターの製造で、かなり大きな目標を達成しようと2D細胞培養容器をスケールアウトする場合、スペースや操作上の要件でハードルが上がることがあります。
柔軟性、スピード、スケーラビリティに優れた最新の固定床バイオリアクター
Corning Ascent Fixed Bed Reactor(FBR)システム(日本未発売)などの固定床リアクター(FBR)は、円柱状の容器で構成されており、内部の3D空間に、接着細胞が接着・増殖するための基質がセットされています。培養培地は馴化容器から供給されます。固定床リアクターの中には、洗浄と滅菌を実施することで再利用可能になるシステムもありますが、この10年ほどの間に登場したディスポーザブルのシングルユース型固定床バイオリアクター容器は、柔軟性、スピード、スケーラビリティの面で向上しています。
初期のシングルユース型FBRは小スケールで、最大細胞培養面積も1m2(10,000 cm2)〜20 m2(200,000 cm2)にとどまっていました。商用スケールの製造で最も主流の選択肢は、細胞培養面積が0.5 m2(5,000 cm2)〜500 m2(5,000,000 cm2)でした。しかし、こうした初期のシステムを蛍光観察法で評価したところ、多くの細胞が培養表面に3D凝集塊を形成していることが判明しました。その場合、2D単層モデルで増殖する細胞と比べてウイルス産生量が減少します。