Corning® マトリゲル基底膜マトリックスに関するあらゆる疑問を解消

基礎的なアプリケーションから、人々の暮らしを一変させるような最先端研究に至るまで、30年以上に渡って世界中の研究者に使われているCorning マトリゲル基底膜マトリックス。先ごろ、マトリゲル基底膜マトリックスの引用回数がついに10,000回を突破し、アプリケーション領域もがん研究から幹細胞、オルガノイド培養から神経科学まで多岐にわたっています。

研究現場では、細胞培養アプリケーションが2Dか3Dかを問わず、高度なin vivo様環境を再現するために、可溶化基底膜であるマトリゲル基底膜マトリックスを活用しています。

マトリゲル基底膜マトリックスにはいくつかの組成があり、さまざまな利用方法があります。この柔軟性ゆえに、細胞タイプやアプリケーションに応じて製品選定とプロトコールを最適化するために、専門家の助言が必要になることがあります。コーニングでは、厳選したヒントやコツ、専門家のアドバイスを提供するため、Corning マトリゲル基底膜マトリックス完全ガイドを発行しました。ぜひ研究にお役立てください。

今回出席の専門家のご紹介

Katie Slater氏とPaula Flaherty氏は、アプリケーション向け製品の製造・検査・開発担当として幅広いメンバーで構成されるチームに所属しています。こうした製品は、細胞外基質(ECM)のタンパク質、細胞培養表面、培地、培養用製品として、in vitroでの細胞挙動の調節に用いられます。Paula Flaherty氏は、テクニカルマネージャーとしてコーニング ライフサイエンスの経営陣に名を連ねるほか、1984年からDiscovery Labware R&Dチームの一員として活躍しています。セルベースアッセイ開発に豊富な経験があります。一方、2000年からシニアサイエンティストを務めるKatie Slater氏は、Corning ECM製品ライン担当専門家として、Corning マトリゲル基底膜マトリックスやその他の主要ECMタンパク質の単離、製造、検査を手がけています。

マトリゲル基底膜マトリックスは一晩で解凍できますか。

はい、Corning マトリゲル基底膜マトリックスは、一晩あれば冷蔵庫で解凍できます。氷を入れて2°C~8°Cに保たれたアイスバケットに、マトリゲル基底膜マトリックスの入ったバイアルを入れます。アイスバケットに蓋をしてから、冷蔵庫の奥に入れます。冷蔵庫は奥の方が温度変化が少ないからです。氷はたっぷりと使い、解凍プロセス全体を通してマトリゲル基底膜マトリックスのバイアルが氷の中(冷水ではありません)に置かれた状態を保ちます。解凍されたら、氷の中のバイアルを回して混和し、内容物が均一になっていることを確認します。

マトリゲル基底膜マトリックスには、フェノールレッド含有とフェノールレッドフリーの組成がありますが、両者の違いは何ですか。

フェノールレッドフリーのものは、フェノールレッド不含のDMEMで製造されているため、製品は無色です。フェノールレッドフリーは、色素検出が必要なアッセイにお薦めします。フェノールレッドは、エストロゲン様作用を示すことがあるため、エストロゲン様作用を観察対象とするようなアプリケーションの場合にも、フェノールレッドフリーのマトリゲル基底膜マトリックスをお薦めします。

フェノールレッド含有の製品は、フェノールレッドを含むDMEMで製造されています。フェノールレッドを含有するマトリゲル基底膜マトリックス製品を凍結・解凍すると、淡黄色から暗赤色までのいずれかの色変化が観察されます。重炭酸塩緩衝液とフェノールレッドが二酸化炭素に反応すると、このような変化が生じます。この変色が製品の有効性に影響することはありません。また、5% CO2で平衡化すると通常の色になります。

プレコートプレートの利用を検討しています。マトリゲル基底膜マトリックスでプレコートしたプレートの長所と短所を教えてください。

Corning マトリゲル基底膜マトリックスをプレコートしたプレートは、特定アプリケーションのプロトコールを実施するような条件に適しています。マトリゲルの濃度や量など、最適な細胞機能を引き出す必要がある実験条件が経験的に実証されていて、プロトコールが用意されている場合です。そのようなアッセイの例としては、血管新生(管腔構造形成)、初代肝細胞培養、腫瘍浸潤、幹細胞培養が挙げられます。いずれも実証済みの公開プロトコールとプレコートプレートの信頼性を生かすことができます。製造の一貫性、品質管理試験、有効期間、安定性試験がプレコート品使用の主なメリットです。

まだ確立していないプロトコールの場合、望ましい機能細胞応答を導く濃度・量を安定的に定められない点が短所です。

特定組成のマトリゲル基底膜マトリックスが必要な場合、コーニングはお客様と協力して、創薬スクリーニングや毒性試験のアプリケーションから、細胞培養用のマルチウェルプレートやフラスコに至るまで、カスタム仕様のプレコートのマトリゲル基底膜マトリックスをさまざまなフォーマットで提供することも可能です。カスタム仕様のマトリゲル基底膜マトリックスソリューションの詳細については、コーニングの営業担当者にお問い合わせください。

マトリゲル基底膜マトリックスに適した保管温度を教えてください。

マトリゲル基底膜マトリックスは、霜取り機能のないフリーザーを使い、−20°Cで保存します。初回の解凍時にマトリゲル基底膜マトリックスを小分けにする場合、低温耐性に優れたポリプロピレン製か同等素材のチューブを使って、霜取り機能のないフリーザーで−70°Cまたは−20°Cで保存します。

マトリゲル基底膜マトリックスをゲル化する場合に必要なタンパク質の最低濃度はどのくらいですか。

タンパク質の最低濃度は、アプリケーションによって異なります。なお、個々のアプリケーションに最適なタンパク質濃度を決定する際、品質検査証明書(COA)に基づき、ロットごとのタンパク質濃度を使用してください。ゲル化させるためには、3 mg/mL 以下には希釈しないでください。また、in vivoのアプリケーションの場合は、マトリゲルの最終濃度を4 mg/mL未満に希釈しないでください。

私の研究室では、小スケールの間葉系幹細胞(MSC)培養に取り組んでいます。マトリゲル基底膜マトリックスに関しては、コーニングにはいくつかの選択肢があると理解しています。どれを選べばいいのかアドバイスをいただけますか。

MSCを平面培養する際の基質を選ぶ場合、培地を含め、in vitro環境全体から判断することが大切です。血清含有培地の場合、基質はTC(細胞培養処理)か、Corning CellBIND® surfaceをお薦めします。異種成分不含有または動物由来成分不含有の培地を使うのであれば、Corning フィブロネクチン(ヒト)Corning PureCoat™ ECM Mimetic、またはCorning Synthemax® 表面がお薦めです。

3D培養環境では、MSCの培養、共培養、分化にマトリゲル基底膜マトリックスが使われています。Liらは、マトリゲル基底膜マトリックスを使った骨髄由来間葉系幹細胞(BM-MSC)とエクリン汗腺細胞の3D共培養で、BM-MSCの分化転換が促進されることを実証しています(J Mol. Histol. 2015. 46:431-8)。マトリゲル基底膜マトリックスは、マトリックス層に細胞を包埋または播種(オーバーレイ法)可能な厚いゲルとして、in vitroでも利用できます。さらに、アプリケーションニーズに適応するため、軟質ゲルまたは硬質ゲルを加えてマトリゲル基底膜マトリックスの弾性係数を調整することも可能です(CorningアプリケーションノートCLS-AC-AN-449参照)。

私たちの研究室では、マイクロ流体チップ上での3D細胞共培養にCorning マトリゲル基底膜マトリックスを使っています。文献によれば、マトリゲル基底膜マトリックスの厚い層で培養する必要があるとのことですが、マトリゲル基底膜マトリックスの量が日に日に減少していることに気づき、追加の必要が出てきました。マトリゲル基底膜マトリックスを追加せずに済ませるにはどうすればいいでしょうか。あるいは、ほかに何か追加したほうがいいのでしょうか。

マイクロ流体技術とECMの組み合わせは、in vivo様3D環境づくりに有望なシステムであることがわかっています。いくつかの文献には、このような環境の構築に別の方法が紹介されています。具体的には以下の文献があります。

Bruzewiczほか(Lab Chip. 2008 May;8(5):663-71. doi: 10.1039/b719806j. Epub 2008 Mar 20)は、マトリゲル基底膜マトリックスやコラーゲンなどソフトリソグラフィモールディングによるゲルを使用してマイクロ流体チャネルやチャンバーに細胞を包埋することにより、培地の流入で包埋細胞に栄養素が供給される透過性システムの構築を実証しています。

Jangほか(ACS Appl Mater Interfaces. 2015 Feb 4;7(4):2183-8. doi: 10.1021/am508292t.Epub 2015 Jan 21)は、ゲル化プロセス中にバルクゲルに流体の流れを誘導し、この流れに沿ってECM成分を方向づけしたものと、ランダムな架橋構造のマトリゲル基底膜マトリックスを比較しています。

オンチップ腫瘍モデル:腫瘍の形態、増殖、微小環境のマイクロ流体モデルが先ごろTsaiらによる総説として発表されました(J R Soc Interface. 2017 Jun; 14(131): 20170137)。

組織分布、硬度、粘度、多孔性など、3D環境の生物物理学的手がかりを理解することは、in vivo環境を模倣するうえで重要であることが示されています。3D環境でマトリゲル基底膜マトリックスゲルの伸長強度を調節・調整すると、アプリケーションのニーズに合わせて軟質または硬質なゲルを用意する際に役立ちます。実証研究では、マイクロ流体チップの流れによって生じるゲルの希釈が、硬質なゲル(タンパク質が高濃度)で低減できることがわかっています。

こうした技法・手法について私たちは絶えずノウハウを蓄積しています。実験に最適なソリューション探しの際には、コーニング サイエンティフィックサポートチームにご相談いただくことをお勧めします。

マトリゲル基底膜マトリックスからスフェロイドを回収する場合、どのような方法が最もお薦めですか。

Corning マトリゲル基底膜マトリックスで培養した細胞の回収には、Corning ディスパーゼまたはCorning セルリカバリーソリューションがお薦めです。ディスパーゼ酵素は、細胞損傷や表面タンパク質の分解を最小限に抑えられるため、トリプシンやコラゲナーゼなどのタンパク質分解酵素と比べて、穏やかに、しかも効果的にシングルセル懸濁液を作製できます。また、Corning セルリカバリーソリューションも、マトリゲル基底膜マトリックスで培養した細胞やスフェロイドに使用できます。この溶液は、小凝集塊の非酵素的な細胞回収が可能で、代謝物回収・RNA回収実験に頻繁に利用されています。4°Cで、厚いマトリゲル基底膜マトリックス層が脱重合するため、細胞回収が容易になります。キレート剤やタンパク質分解酵素(トリプシン、ディスパーゼなど)の使用によって、細胞間相互作用も破壊できます。低温下(氷上)で同溶液を使用し、ピペッティングやオービタルシェーカーの使用などで、マトリゲル基底膜マトリックスを機械的に破壊する方法もあります。

マトリゲル基底膜マトリックスによる培養では、どのように培地を交換すればいいのでしょうか。また交換頻度も教えてください。

マトリゲル基底膜マトリックスの層やコーティングを壊さないよう注意しながら、丁寧に培地の吸引や追加を行います。使用済み培地を吸引する際、容器を傾けて培地を片側に寄せ、マトリゲル基底膜マトリックス層との接触を最小限に抑えます。培地を追加するときは、可能であれば、容器の側面にピペット先端を添え、壁をゆっくりと伝わらせるように培地を培養表面に広げます。

細胞培養用培地は必要に応じて交換し、培養に適した環境を維持します。

マトリゲルの今後の可能性について質問します。具体的には、3Dバイオプリンティングのバイオインクとしてマトリゲルを使えないかと考えています。細胞をマトリゲル混合物としてバイオプリンティングに使っている例はあるのでしょうか。もしあるとすれば、どのような結果が出ているでしょうか(参照できる文献があれば教えてください)。バイオプリンティング以外にも、今後期待される新しい3D細胞培養手法があれば教えてください。

Corning マトリゲル基底膜マトリックスは、バイオプリンティングを含め、多くの3D細胞培養手法で重要な役割を担うものと見込まれます。すでに研究現場では、多種多様な組織タイプのプリントに使われています。以下の表は、この領域で3DバイオプリンティングにCorning マトリゲル基底膜マトリックスを使っている最近発表の論文をまとめたものです。マトリゲル基底膜マトリックスを使った他の3D手法には、スキャフォールドシステム用のマイクロ流体技術やオーガン・オン・チップが挙げられます。スキャフォールドフリーのシステム向けとしては、コーニングからスフェロイドプレートが販売されています。このプレートで1種または複数の細胞タイプで形成されるスフェロイドの作製や分析が可能です。自己凝集3D構造の作製に関心があれば、スフェロイドプレートとマトリゲル基底膜マトリックスの交差使用もよく見られます。

文献概要:バイオプリンティングでのCorning マトリゲル基底膜マトリックスの使用

文献タイトル アプリケーション/細胞タイプ
Prolonged presence of VEGF promotes vascularization in 3D bioprinted scaffolds with defined architecture 血管
ヒト血管内皮前駆細胞(EPC)
Distinct tissue formation by heterogeneous printing of osteo- and endothelial progenitor cells 骨組織工学
幹細胞(SC)、血管内皮前駆細胞(EPC)
Bioprinting cell-laden matrigel for radioprotection study of liver by pro-drug conversion in a dual-tissue microfluidic chip 肝組織
G2, M10
Engineering an in vitro air-blood barrier by 3D bioprinting 肺組織
UVEC, A549
Laser direct writing of combinatorial libraries of idealized cellular constructs: Biomedical applications 組織工学
線維芽細胞、筋芽細胞、神経幹細胞、がん細胞
Bio-printing cell-laden Matrigel agarose constructs 組織工学 CT116
PLGA/hydrogel biopapers as a stackable substrate for printing HUVEC networks via BioLP 血管
UVEC
Rapid casting of patterned vascular networks for perfusable engineered three-dimensional tissues 血管
UVEC
Laser assisted bioprinting of engineered tissue with high cell density and microscale organization 組織工学
ウサギがん細胞株B16, HUVEC
The bioink: A comprehensive review on bioprintable materials 組織工学
総説:いくつかの細胞タイプ
A review of trends and limitations in hydrogel-rapid prototyping for tissue engineering 組織工学
総説:いくつかの細胞タイプ
Three-dimensional printing of biological matters 組織工学
総説:いくつかの細胞タイプ
3D scaffolds in breast cancer research 乳がん
総説:いくつかの細胞タイプ

 

メラノーマ細胞を使った細胞浸潤アッセイに取り組んでいます。マトリゲル基底膜マトリックスの適切な厚みや充填方法、がん細胞タイプごとの細胞継代方法について、オンラインにはいろいろな情報が飛び交っています。アドバイスや参考になる情報源をお願いします。

がん細胞解析に用いる浸潤アッセイは、研究や発表が盛んなアプリケーション領域で、マトリゲル基底膜マトリックスが効果的に使用されています。再現性のあるアッセイを樹立するには、以下に挙げるようなさまざまな要因を最適化する必要があります。

  • 細胞播種
  • 走化性因子のタイプと濃度
  • マトリゲル基底膜マトリックスのタンパク質濃度と量(厚みと関係あり)
  • アッセイの期間
  • アッセイに先立つ血清飢餓処理の要不要
  • 適切なコントロール

手始めに8 μmの24ウェルインサート(カタログ番号 353097)に、インサートごとに200~300 μg/mLのCorning マトリゲル基底膜マトリックス(カタログ番号 354234354230)を0.1 mLコーティングすることをお勧めします。濃度・量の検討を行うことで、実際のアッセイ条件を厳密に決める一助となります。コーニングのウェブサイトには、以下のような参考資料が多数あります。

ほかにも、いくつか文献の例を挙げておきます。

またコーニングでは、クリアタイプと遮光タイプのCorning FluoroBlok™ セルカルチャーインサートの双方での腫瘍細胞浸潤アッセイを対象に最適化した、プリパッケージ型ソリューションを用意しています。こちらには、マトリゲル基底膜マトリックス浸潤アッセイ製品の利用開始に当たって充実した資料があります。

マトリゲル基底膜マトリックスでの3D培養の評価には、どのような分析法が使われていますか。

マトリゲル基底膜マトリックスによる3D培養の分析には、細胞生存率、免疫蛍光分析、高度イメージング技術が多用されます。

増殖細胞のDNA合成の際にEdU(5-エチニル-2'-デオキシウリジン)がDNAに取り込まれることから、このDNA合成の検出によって生存率を測定できます。プロトコールは以下にあります。

A chemical method for fast and sensitive detection of DNA synthesis in vivo

Lawrence Berkeley National LaboratoryのMina Bissell研究室とHarvard Medical SchoolのJoan Brugge研究室は、マトリゲル基底膜マトリックスを使った3Dモデルで大々的に論文を発表しており、その中には、広く用いられている免疫蛍光分析の試料調製法も含まれています。以下にプロトコールをいくつか挙げておきます。

ErbB2, but not ErbB1, reinitiates proliferation and induces luminal repopulation in epithelial acini

Three-dimensional culture models of normal and malignant breast epithelial cells

多くの研究室では、高度イメージング技術を駆使して3D構造を研究しています。Jorgensほかの論文では、こうした手法の多くが用いられており、同論文の「実験材料・方法」のセクションに記載されています。表現型特性や機能的特性の分析には、スフェロイドやオルガノイドのサイズ・形態、さらには低温法、体積電子顕微鏡法、超解像光学顕微鏡法が使われています。プロトコールは以下にあります。

Deep nuclear invaginations are linked to cytoskeletal filaments - integrated bioimaging of epithelial cells in 3D culture

最後に、細胞数定量、RNA単離、定量PCR(qPCR)分析のために、3Dマトリゲル基底膜マトリックス培養下の細胞を回収する場合は、Corning セルリカバリーソリューションがお薦めです。低温下(氷上)で同溶液を使用し、ピペッティングやオービタルシェーカーの使用などで機械的に破壊する方法も、マトリゲル基底膜マトリックス脱重合に役立ちます。キレート剤やタンパク質分解酵素(トリプシン、ディスパーゼなど)の使用によって細胞間相互作用を破壊できます。

Corning マトリゲル基底膜マトリックスで蛍光標識を使ったイメージングのベストプラクティスはありますか。マトリゲルに使用すべき特定のタイプやお薦めのプロトコールはありますか。

マトリゲル基底膜マトリックスのシステムで細胞に蛍光標識を加えてイメージングする場合、さまざまな手法が利用できます。ここでは、マトリゲル基底膜マトリックスのアッセイでの細胞への標識、表面マーカー用の免疫蛍光分析(3D培養、多能性幹細胞培養で使われるものなど)、切片作製前のマトリゲル基底膜マトリックスでの細胞の固定・包埋の3つを取り上げます。

染色は、あらゆるタイプのマトリゲル基底膜マトリックスで実施されています。しかし、フェノールレッドフリーのマトリゲル基底膜マトリックスを使用すると、自家蛍光が減少します。また免疫蛍光法などのin situ分析では、Falcon® カルチャースライド(カタログ番号 354180)の使用をお勧めします。これは、特殊洗浄と三重すすぎを施したガラス製スライドで、上部にポリスチレン製チャンバーがあります。

マトリゲル基底膜マトリックスアッセイの細胞標識

マトリゲル基底膜マトリックスの薄層コーティングで細胞を培養する場合、あるいは浸潤や血管新生などのマトリゲル基底膜マトリックスアッセイで細胞をイメージングする場合、標識法が最も簡単です。ほとんどの蛍光分析法は、メーカーの説明にもあるように、直接使用できます。色素安定化に必要となる時間によっては、緑色蛍光タンパク質(GFP)などのあらかじめ標識した固有色素に加え、Calcien AMやDiIも多用されます。

Corning Calcein AM Fluorescent Dyeを使用した細胞標識のプロトコール:

一般に、Corning Calcein AM Fluorescent Dyeは、ハンクス平衡塩溶液(HBSS)で8 μg/mLの濃度に希釈して使用します。培地を使用すると標識の自己加水分解につながり、容認しがたいほど高いバックグラウンドノイズが生じることから、HBSSを推奨します。サンプルを破壊しないようにパスツールピペットで慎重に培地を吸引して、プレートから培地を除去します。HBSSでプレートを洗浄し、再度洗浄を繰り返します。8 μg/mLのCalcein AM HBSS溶液を加えて、37°C、5% CO2で30~40分間インキュベートすることで細胞を標識します。標識溶液を丁寧に取り除き、HBSSで2回洗浄します。これでプレートの準備が整い、自動イメージャーによる撮像や蛍光顕微鏡による撮像が可能になります。 注:加水分解が始まると、Calcein AMが細胞から漏出し、バックグラウンドが高くなります。標識されたプレートは、4°Cで1~2時間であればバックグラウンドの増加を最小限に抑えて保存できます。

マトリゲル基底膜マトリックスを使った免疫蛍光分析

マトリゲルを3Dマトリックスとして使用する免疫蛍光分析の調製法は、広く発表されており、中でも次の手法が典型的です。

Nat Cell Biol. 2001 Sep; 3(9): 785–792. ErbB2, but not ErbB1, reinitiates proliferation and induces luminal repopulation in epithelial acini. Muthuswamy, et al.

免疫蛍光分析プロトコール:

上記手法は次のとおりです。「サンプルを2%のパラホルムアルデヒドに室温下で15分間、またはメタノール5:アセトン5の混合液に−20°Cで10分間置き固定した。固定したサンプルは、PBSとグリシンの混合液 (130 mM NaCl, 7 mM Na2HPO4, 3.5 mM NaH2PO4, 100 mM グリシン) で1回15分間の洗浄を3回繰り返した。洗浄後のサンプルは、最初に10% ヤギ血清(GS)を加えたIF緩衝液 (130 mM NaCl, 7 mM Na2HPO4, 3.5 mM NaH2PO4, 7.7 mM NaN3, 0.1% BSA, 0.2% Triton™ X-100, 0.05% TWEEN® 20) で1~2時間ブロッキングし、次に2°Cのブロッキングバッファー(10% GSと20 μg ml−1ヤギ抗マウスF(ab′)2を含むIF緩衝液)で30~45分間ブロッキングした。一次抗体を2°C ブロッキングバッファーで希釈し、4°Cで一晩インキュベートした。IF緩衝液で15分間の洗浄を3回繰り返し、未結合の一次抗体を除去した。抗マウスまたは抗ウサギ二次抗体にAlexa Fluor®色素(分子プローブ)を加えてから、10% GSを含むIF緩衝液で希釈し、45~60分間インキュベートした。上記の方法で未結合の二次抗体も洗浄した。最後に、5 μM TO-PRO®-3(Molecular Probes)と0.5 ng ml−1 DAPI(Roche)を含むPBSでサンプルを15分間インキュベートしてから、褪色防止剤のProLong®(Molecular Probes)を加えた。そのうえで、共焦点分析を実施した」

マトリゲル基底膜マトリックスでの培養細胞の固定化・包埋

RijalとLiは先ごろ、以下の組織学的研究手法を発表しました。

Sci Adv. 2017 Sep; 3(9): e1700764. A versatile 3D tissue matrix scaffold system for tumor modeling and drug screening, Girdhari Rijal and Weimin Li

組織学的解析と免疫染色のプロトコール:

「組織培養で得られた細胞接着足場は、氷冷した1X PBSで2回洗浄し、10% 中性緩衝ホルマリン液で4°Cで24~48時間固定した。低温の1X PBSですすいだ後、標準プロトコールに従って3D培養細胞をOCTかパラフィンに包埋し、クリオスタットかミクロトームで厚さ10 μmの切片を作製した。パラフィン固定によって作製した切片の場合、脱パラフィン・再水和作業を実行後、tris-EDTAバッファー(10 mM トリスベース、1 mM EDTA溶液、0.05% TWEEN 20(pH 9.0))を用いて抗原賦活化処理を行った。切片は水で数回洗浄し、既述(Circ.Res.100, 79–87 (2007))のとおりヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)かIF抗体染色(対応する一次抗体とAlexa Fluorphore 結合二次抗体)を行い、さらなる分析のために光学顕微鏡法か蛍光顕微鏡法で撮像した」

MEF(マウス胎児線維芽)細胞からES細胞をマトリゲル基底膜マトリックスに移行する準備をしています。最良の手法として何かお薦めはありますか。また、培地に特別な要件はあるでしょうか。

ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞、hESC)やヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞、hiPSC)の培養基質として、mTeSR™1, TeSR™2, E8, and MEF 馴化培地などさまざまなhPSC(ヒト多能性幹細胞)培地とともに、Corning マトリゲル ヒトES細胞最適化マトリックスが広範に利用されています。

マウス胎児線維芽細胞(MEF)からhPSCをマトリゲル基底膜マトリックスに移行する場合、通常、特殊なプロセス手順が必要になることはありません。継代時には、マトリゲル ヒトES細胞最適化マトリックスをコートした容器に、お好みの培地を入れて細胞を播種できます。使用する細胞株、培地、解離手法に応じて、継代条件を最適化してください。ES細胞をMEFからマトリゲル ヒトES細胞最適化マトリックスに移して継代する方法をまとめた動画がJournal of Visual Experiments(JoVE)のウェブサイトで視聴できます。

さらにサポートやトラブルシューティングのアドバイスが必要な場合、コーニング サイエンティフィックサポートチームにお気軽にお問い合わせください。

Corning マトリゲル基底膜マトリックスの全タイプがヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞、hESC)の培養に対応しているのでしょうか。

そうとは限りません。コーニングでは、Corning マトリゲル ヒトES細胞最適化マトリックス(カタログ番号 354277)を提供しています。これは、ヒトES細胞維持のQC(品質管理)試験済みで、性能面の一貫性、再現性、信頼性が確認されています。この製品は、STEMCELL TechnologiesのmTeSR1培地と使用できることを確認済みです。Corning マトリゲル基底膜マトリックスのヒトES細胞最適化マトリックスをコートしたプレートを使い、mTeSR1で増殖したヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)を5代継代しても、標準的な形態や表面マーカー発現によって未分化を維持することが示されています。

さらに、Corning BioCoat® マトリゲル基底膜マトリックス6ウェルプレート(カタログ番号 354671)は開封してすぐに使えるため、ヒトES細胞培養に当たってロット間の一貫性が確保できると同時に、自己複製能と多分化能も維持されます。Corning マトリゲル基底膜マトリックスのうち、ヒトES細胞に最適化されていない組成でもこのアプリケーションに使えますが、ヒトES細胞での使用に最適化されていないため、結果にばらつきが出る可能性があります。

詳細については、Corning マトリゲル基底膜マトリックスのページをご覧ください