Q&A:STEM分野での女性活躍の機会創出

米国国勢調査局によれば、STEM(科学・技術・工学・数学)分野の職業に従事している女性の割合は、1970年に8%だったのが、2019年には27%に増加しています。これは素晴らしい進展ですが、こうした分野での活躍状況を見ると、女性は依然としてマイノリティであり、障壁が数多く残っています。

例えば、影響力のある科学雑誌に掲載された論文の女性著者に目を向けてみましょう。Nature誌は先ごろ、主要助成金の受領者の3分の1近くを女性が占めているにもかかわらず、掲載論文の首席著者となると、女性の割合は15%にとどまっていると指摘しています。人材採用時の無意識の偏見から、あからさまな差別に至るまで、職場のジェンダー格差がSTEMのエコシステム全体に影響を及ぼしています。

それでも、変化の兆候が見られます。Code Like a Girlなどのプログラムは、若い世代を対象に、STEM分野への女性の進出を正常化させようとしており、公平性の取り組みやメンターシップへの継続的な投資は、未来を見据え、しっかりと持続力のある活動を示すものと言えます。

では、先ほどの27%という現行水準からさらに高めていくには、どうすればいいのでしょうか。そこで、STEM分野の職場でのジェンダー平等実現に関する経験や展望について、STEM系の組織で活躍する2人の女性に伺いました。バンダービルト大学、SCLCに関するNCIがんシステム生物学センターのセンターマネージャー、Amanda Linkous博士と、コーニング ライフサイエンス コマーシャルオペレーション担当バイス・プレジデント、Lydia Kenton Walsh氏です。

Linkous博士は、肺腫瘍・膠芽腫の研究や薬剤スクリーニング用の3Dオルガノイド開発など、がん生物学領域で長年活躍しています。Kenton Walsh氏は、生物学専攻であるとともにMBAも取得。コーニングでは、プロダクトマネージャーを振り出しに勤続33年目を迎え、現在は役員を務めています。早速、STEM分野の女性を取り巻く環境について、2人の見解に耳を傾けてみます。

これまでのキャリアを通じて、STEM分野で活躍する女性にとってどのような進展が見られるでしょうか。

Linkous博士:女性の進出が増えています。大学院の新歓講座でこんなことがありました。ある教授が指摘したのですが、同講座がスタートして以来、私のクラスは初めて女子学生数が男子学生数を上回ったそうです。実際、女性の研究者がたくさんいて素晴らしいと思いましたし、その講座にとっても大きな節目となりました。私のキャリアを振り返ると、そういう状況に絶えず出くわしました。アカデミアに限った話ではありません。バイオテクノロジー業界や製薬業界でも女性の占める割合が高まっています。

Walsh氏:私が研究室で活動し始めたのは、80年代末から90年代初めにかけてでした。当時も女性研究者はいましたが、決して多くはありませんでした。PI(主任研究員)はほとんどが男性でした。そしてSTEM系の事業部門に勤務し始めた頃、営業職の女性はほとんどいませんでした。それが様変わりしたのです。今では、営業職は男性よりも女性のほうが多いほどです。少なくともライフサイエンスの分野では、女性の活躍機会が拡大していて、この分野を志す若者が増えれば、活躍の場はさらに広がっていくのではないかと期待しています。

STEM分野で依然として女性の活躍を阻んでいる障壁には、どのようなものがあると思いますか。

Linkous博士:どうしても指導的立場の女性が注目されてしまうため、女性がキャリアを築き始める初期段階での男女平等を阻む障壁は忘れられがちです。女性が“目に見えない昇進の壁”を打ち破るための支援の取り組みが広がっていて、これは当然の動きではありますが、入社早々や中堅クラスの職務を見ると、女性の活躍はまだまだ少ない状況です。私がこれまでに参加した会合やパネルディスカッションで、女性研究者は私1人だけということも珍しくありませんでした。こういった日常の会合やパネルディスカッションは、女性の参画・活躍という意味ではまだ課題が山積しています。

「将来を担う世代にもっと目を向け、前途には素晴らしい可能性があると期待が持てるようにしていく必要があります。それは女性として互いを助け合うことでもあります。」

バンダービルト大学 NCI Center for Systems Biology of SCLC

センターマネージャー Amanda Linkous博士

先入観についてはいかがですか。

Linkous博士:女性は良き妻、良き母をめざすか、研究職のキャリアを成功させるかのどちらかしかなく、二兎を追うことはできないといった思い込みがはびこっています。これは、明らかな間違いであり、馬鹿げた考え方です。私自身、女性研究者としてフルタイムで働きながら、子育てもしていて、それはときに試練となることもありますが、絶対に両立は可能だと確信しています。

私はとても恵まれていて、夫が私のキャリア追求を全面的に支援してくれるうえに、息子にとっては良き父親です。また、私をしっかり支えてくれるメンターも何人かいます。こうしたメンターの方々は、男性も女性もいるのですが、私が常に家庭優先にしていても、そのために研究者としてのキャリアや生産性にしわ寄せがいかないことを理解してくれています。

ほかにも、女性は「感情的になりすぎる」といった先入観もあります。折に触れて仕事に感情を持ち込むことがまるで悪いことのように言われています。筋道の通った思考が感情で覆されることはないと思いますし、研究者としてインパクトをもたらすためには、むしろ情熱や思いやりが必要だと思います。科学の世界で活躍する女性たちが仕事に情熱を燃やし、しかも居心地がよくて思いやりのある職場づくりにも熱心であれば、誰にとってもプラスになります。

では、これまでに挙げられたような障壁を克服するためには、社会として、そして女性として、何ができるのでしょうか。

Walsh氏:企業の視点から言えば、誰もが分け隔てなく参画・活躍できる環境やメンター制度に重点を置いた取り組みは不可欠です。その考え方に基づき、当社では、ポジションに空きが出たら女性にリーダーを担う機会を提供する後継者育成計画を整えています。コーニングには、専門職の女性のフォーラムがあり、女性にも男性にも開かれていて、科学・イノベーションの分野での女性の成功に焦点を当てています。また当社では、女性研究者による従業員向けの講演会も開催しています。最近では、NIHのCorbett博士が登壇し、COVID-19用のワクチンについて講演しました。

Linkous博士:私も同感です。互いに切磋琢磨して女性が活躍する機会を生み出し、自分たちの仕事をアピールし、意見を聞き入れてもらうことが大切です。会合や会議は、さまざまな学術領域から公正に選ばれた男性・女性が代表として参加すべきです。おそらく何よりも大切なこととして、将来を担う世代にもっと目を向け、前途には素晴らしい可能性があると期待が持てるようにしていく必要があります。それは女性として互いに助け合うことでもあります。互いに励まし合って、できることはすべて達成していくことが大切です。

女性同士の助け合いは重要ですが、科学の分野で、ジェンダーの公平性をできる限り追求していこうと考えてくれる男性協力者の存在も忘れてはなりません。自分が研究の世界でキャリアを積んでいくなかで、助けが必要な同僚には積極的に手を差し伸べたいものです。そもそも科学というものは、チームワークによる問題解決抜きに語れません。これは科学の領域全体の大きな課題であり、私たちとしては与えられたリソースを余すところなく活用することが大切です。

女子の科学教育の情報提供サイトGirls Who STEMに掲載されている記事には、科学分野での女性の登用・進出を支援する団体・組織が紹介されています。