Glioma Stem Cells Enable the Production of 3D Human “Mini Brain” to Improve Glioblastoma Treatment | 3D Cell Culture Models of GBM | Corning

患者由来の幹細胞を用いた神経膠芽腫の3Dモデルがいかにしてより効果的な治療を可能にしたのか

神経膠芽腫(Glioblastoma, GBM)は極めて侵襲性が高く、治療が困難な悪性脳腫瘍です。従来の治療に抵抗性があるため、より効果的な治療法の開発と理解のためにはこれらの腫瘍の発生および増殖の研究が非常に重要です。現在の臨床研究においては、動物由来の細胞で作られたGBMの3Dモデルが用いられますが、これらは種間差によりヒトの脳を忠実に再現するものではないため、多くの制約があります。

Weill Cornell MedicineのAmanda Linkous博士は先駆的科学者で、より効果的な治療法の開発を目的としてヒトの脳のin vivo微小環境を厳密に再現する、ヒト由来の幹細胞を用いたGBMの ex vivo疾病モデルを提供するプロジェクトの最前線で活躍しています。興味深く革命的な研究についてSelectScience(以下SS)がAmanda Linkous博士(以下AL)にインタビューしました。

SS:博士の経歴とWeill Cornell Medicine(WCM)における役割について教えてください。

AL:私は政府機関に加え、複数の最高の学術医療センターにおいて、13年以上にわたって研究を続けてきました。アメリカ国立衛生研究所(NIH)、Vanderbilt University Medical Center、そして直近ではNew York-Presbyterian Hospital/Weill Cornell Medicine (WCM)に所属しています。現在では、ここWCMにおいてStarr Foundation Cerebral Organoid Translational Coreのディレクターを務めています。神経膠芽腫(GBM)体外モデル「ミニ脳」の確立を主要な活動とし、それに加え患者の腫瘍組織からの神経膠腫幹細胞(GSC)の誘導を管理し、私達のコア施設のコンプライアンスと重要作業を監督しています。

SS:オルガノイドの必要性について教えてください。通常の細胞培養や動物モデルと比較して、オルガノイドはどのような点が優れているのですか? 

AL:現在のGBM前臨床モデルは、正常なヒト微小環境が無いため、かなり限定的なものになります。例えば、GBM動物モデルの場合、ヒトGSCとマウス脳細胞との間にある未知の種間差により制約が生じます。腫瘍の潜伏期間の長さやばらつき、腫瘍の進行を遺伝的に操作したり、リアルタイムで画像化することができないことも相まって、マウスモデルはヒトGBMの生物的特性を精密に再現しようとする際に多くの障壁があります。腫瘍オルガノイドは動物モデルのロジスティックな制約の一部を克服しますが、腫瘍細胞と正常な宿主微小環境における細胞間相互作用という重要な問題には対処できません。

SS:博士の神経膠腫脳オルガノイドモデルについて教えてください。

AL:現在の前臨床GBMモデルの制約を取り除くために、私達は患者由来の神経膠腫幹細胞およびヒト胚性幹細胞(hESC)由来の脳オルガノイドを用いて、患者特異的なGBMをリバースエンジニアリングしました。私達の作製した脳オルガノイド神経膠腫(GLICO)モデルは、患者由来GSCによるヒト脳オルガノイドの明らかな浸潤を示しています。オルガノイドへの浸潤後に、GSCは増殖し、宿主組織全体に転移し、最終的に患者の神経膠芽腫を厳密に表現型模写する腫瘍を形成します。

SS:神経膠腫脳オルガノイドモデルを用いた担当プロジェクトについて概要と結果を教えて下さい。

AL:私達のGLICOモデルは、現在の前臨床GBMモデルが抱える多数の課題を克服し、正常なヒトの脳と似たヒト微小環境の中で患者特異的なGBMを研究することができるようになります。さらに、Corning® マトリゲル基底膜マトリックス中で培養し、分化させた脳オルガノイドにより、患者GBMと同じ生物学的挙動および組織病理学的特徴を再現することができます。GLICO 腫瘍が、オルガノイド内で神経膠腫幹細胞の浸潤および増殖を促進する相互に連結した微小管ネットワークにより支えられていることをもわかっています。 

SS:オルガノイド培養の際に、適切な実験器具、培養表面および試薬を使用することは、どのくらい重要ですか? 

AL:脳オルガノイドのバッチをうまく形成するためには、適切な実験器具を選択することが肝要です。ヒト検体を用いるあらゆる生物医学研究と同様に、私達のデータが一貫性を持っており、毎回再現可能であることは極めて重要です。正しい培養容器、マトリックスまたは試薬を使用しないと、オルガノイドの形態学的構造および生存能力が大きく変わってしまう可能性があります。マトリゲル基底膜マトリックスは、私達の研究室におけるオルガノイド開発のあらゆる段階に不可欠なものです。hESCの培養および神経外胚葉/神経ロゼットの生成から、最終的に完全に分化した脳オルガノイドの増殖を促進する3次元マトリックスとして、マトリゲル基底膜マトリックスは私達のオルガノイド研究に不可欠です。

SS:オルガノイド研究における今後の目標を教えてください。現在進行中のプロジェクトにはどのようなものがありますか? 

AL:オルガノイド研究の未来は、信じられないほどエキサイティングです!コラボレーター達と共に、引き続きGLICOモデルを発展させ、これまで以上にヒトの臨床疾患に近づけていきます。さらに、患者特異的な神経膠腫幹細胞をこれらのミニチュア脳とペアリングすることで、私達独自のモデルを使用して、これらの致命的な腫瘍に対する複数の療法の組合せを試験することができます。GLICOモデルにより、この恐ろしい病気に苦しむ患者のために新しく、効果的な治療法を開発できるようになることを、私達は心から望んでいます。