2022 Virtual 3D Cell Culture Summit | Key Takeaways | Corning

2022年6月に開催されたバーチャル3D細胞培養サミット。業界のリーダーやイノベーターが参加し、3D細胞培養の爆発的な広がりや創薬プロセスへの効果について知見が披露されました。同サミットでは専門家会合での意見交換のほか、スフェロイドやオルガノイド、組織モデルなど、3Dアプリケーションの将来を考察する場が持たれました。

同サミットでは、創薬や臨床モニタリングの経路に患者由来オルガノイドがもたらす価値についての議論もありました。ベストプラクティスに加え実用的な方法として、Corning® Matribot® バイオプリンターなどを紹介する場も用意されました。この方法は、スケール変更可能なスクリーニングアレイを設計することでワークフローを最適化します。

潜在的な効果は極めて大きいと考えられます。現在、創薬企業は10〜15年をかけて10億〜20億ドルを投資して創薬に取り組んでいますが、臨床段階で創薬失敗に終わるケースはおよそ90%に上ります。しかし、3D細胞培養は、個別化医療ソリューションの将来性が見込まれ、臨床治療の最適化やスケーラビリティ促進による創薬・スクリーニングの迅速化と効率化が期待できます。

そこで2022年バーチャル3D細胞培養サミットの要点をまとめました。

患者由来オルガノイドは創薬改善のプラットフォーム

HUB Organoidsの最高科学責任者、Sylvia Boj博士は、創薬スクリーニングや臨床モニタリングに臨床的に関連性のある組織のリビングバイオバンクを構築するうえで、患者由来オルガノイド(PDO)が果たす役割について説明しました。この説明の中で、Boj博士は、主な事例を挙げながら、多様な疾患適応症を対象とした創薬にこうしたアプリケーションがもたらす効果を解説しました。

Boj博士からは、大腸がんのPDO研究を基に、原発腫瘍の細胞マーカーや表現型が保持されていることを示すエビデンスが紹介されました。研究では、スフェロイド作製プロセスが特定の変異に偏っているわけではないことが確認された結果、広範囲の大腸がんの研究が可能であることがわかりました。

創薬プロセスの面から見ると、スケーラビリティと再現性が高いため、創薬ステップがスムーズに迅速化されています。Boj博士によれば、PDOを用いた3D細胞培養はヒット化合物創出やリード最適化に有用性が高く、探索的研究から候補薬選定までのプロセスの迅速化につながります。Boj博士は、初のオルガノイドベースの薬剤が腫瘍とヒト組織3D培養のハイコンテントスクリーニング(HCS)を経て、現在の臨床段階にどう至ったか説明しました。5,000点の潜在的な化合物を対象に初期スクリーニングを実施して52点のヒット化合物を選抜し、1つの二重特異性抗体の最適化に向けて臨床試験第I相試験に到達するまでの経路にかかった期間はわずか5年でした。

Boj博士からは、PDOが臨床的対応に及ぼす効果についても説明がありました。治療前PDOは、個別化した前臨床試験・薬剤選定のための臨床的予測値を示し、治療法に対する患者の臨床反応を模倣しています。これは、個々の患者の組織変異によって治療への反応が決まるがんや嚢胞性線維症に非常に有益です。

主なポイント: PDOは、由来となる患者の組織と非常に類似しており、腫瘍の不均一性や薬剤応答に一般的に見られる多様性が保持されます。培養や凍結保存でも遺伝的、表現型的に安定しているため、創薬プラットフォーム全体のスケールアップが実現可能で、極めて効率的です。

小細胞肺がん脳転移モデルとしての3D細胞培養

NCIがんシステムセンター(オランダ・バンダービルト)のサイエンティフィックセンターマネージャー、Amanda Linkous博士は、小細胞肺がん(SCLC)の生態研究で3D細胞培養が有効であることを解説しました。SCLC患者の半数以上が脳転移を発症し、5年生存率5%未満となっています。SCLCは悪性度も不均一性も極めて高く、肺がん全体の15%ほどを占めています。

以前はSCLC転移の研究にはin vivoマウスモデルが必要でしたが、マウス生存中でも、腫瘍浸潤に対して「ヒト」と同じ微小環境を再現することはできません。しかも、腫瘍細胞を移植しても、通常、進行には約3〜6カ月かかります。

ヒト脳オルガノイドは、神経内分泌、非神経内分泌の両方を含め、さまざまなSCLC腫瘍細胞株をサポートしています。こうしたミニ脳は、in vivo微小環境を模倣しており、脈絡叢発生と脳皮質層形成が見られます。また、SCLC腫瘍の細胞増殖も可能で、患者に見られる腫瘍の不均一性や表現型も保持します。ミニ脳は、浸潤や増殖をサポートしているため、腫瘍形成の研究にとどまらず、化学療法剤への応答の研究にも理想的です。

また、スケーラビリティにも優れているため、研究現場で幹細胞から大量のミニ脳を作製し、膨大な量の薬剤の組み合わせや濃度、投与時点のスクリーニングが可能です。ハイスループットのスクリーニングやイメージングの研究からは、各3D細胞培養に見られる腫瘍細胞容積が応答を特徴付けていることがわかります。

主なポイント: ミニ脳は、SCLCの腫瘍増殖・浸潤が研究できる「正常」なヒト微小環境を再現します。こうした3D培養によるミニ脳は、特徴的な浸潤パターンを維持しつつ腫瘍潜伏期の短縮が可能であり、従来のin vivoのマウス脳移植試験に取って代わる高速なin vitro環境となります。

Corning Matribot バイオプリンターでオルガノイド薬物試験向けのドームをプリント

コーニング ライフサイエンスで3D細胞培養アプリケーションに幅広く取り組んでいるシニアサイエンティスト、Hilary Sherman氏は、Matribot バイオプリンターによるワークフロー効率化で一貫性と再現性を向上できることをデモンストレーションで紹介しました。

Sherman氏が例として取り上げたのは膵がんPDOアッセイ。バイオプリンティングが創薬プロセスで有益なin vitroツールになりうることを説明しました。Matribot バイオプリンターを使ったPDOアッセイ開発のベストプラクティスとしては、プログラマブルソフトウェアや完全自動化などの主要機能が挙げられました。

Sherman氏は、液滴とドームの分注が高精度である点を強調したうえで、Matribot バイオプリンターを使って96ウェルプレートに均一に分注し、ウェル間のばらつきが少なく、変動係数(CV)15%未満に抑えられると説明しました。ハイスループットイメージングであれば、化学療法剤に対する3D培養の応答の評価が容易で、結果の再現性も高いため、複数の薬剤のスクリーニングにより、個別化治療で最良の薬剤を選択できます。

主なポイント: Matribot バイオプリンターは、多様な生体組織や細胞培養の材料を扱うことができます。送達をプログラムできるバイオプリンティングでは、多くの組織培養容器で高い再現性を確保できます。ウェル間でばらつきの少ない均一な分注が可能なため、PDOアッセイのデータの有効性が高く、薬剤依存性応答の感受性も高いことがわかります。