Integrating Next-Generation Sequencing into Drug Discovery

次世代シークエンシング(NGS)は、超並列シークエンシングとも呼ばれ、数百万のDNAやRNAの断片の配列を同時に素早く決定する技術です。NGSは、他の手法に比べて高速で低コストのため、個人差やそれが健康や疾患、薬剤応答とどのような関連があるのか理解を深めることができます。

近年のNGSの進化を受け、創薬や個別化医療にさまざまな可能性が生まれています。こうした新たな技術が創薬や医療で担う役割は、新たな創薬ターゲット同定の迅速化に始まり、臨床医による患者ごとの最良薬剤の選定支援に至るまで、多岐にわたります。

創薬での次世代シークエンシング

コーニングのアプリケーションマネージャー、Mars (Xuebin) Wang氏と、コーニングのゲノミクス&ストレージ製品ラインマネージャー、Rae (Chia-Jui) Tsai博士によれば、NGSで膨大なシークエンスデータを生成できるため、創薬ターゲット候補の同定プロセスに大変革がもたらされています。電子カルテを活用すれば、集団内の遺伝子バリアントと特定の表現型との関連を調べることができます。集団全体を対象とした研究では、疾患を引き起こす可能性のある変異の発見にNGSが役立ちます。

もう1つの重要な役割に、ターゲットバリデーションが挙げられます。創薬ターゲット候補から始める場合、対象創薬ターゲットをコードする遺伝子に機能欠失(LoF)変異のある被験者を探す際に、NGSが利用できます。表現型研究にLoF変異検出を組み合わせることで、ターゲットの妥当性を確認し、薬剤によって対象ターゲットを阻害する潜在的な作用を予測する一助となります。

Wang氏とTsai博士の説明によれば、ターゲットバリデーション完了後、NGSによってゲノム構造、遺伝的多様性、遺伝子発現プロファイル、エピジェネティック修飾に関する洞察が得られるため、創薬設計の判断材料になります。臨床試験に用いる候補薬の選別後は、標的治療薬の臨床試験に当たっての患者選定支援や、臨床試験での遺伝的特徴に基づく正確な患者層別化にもNGSが力を発揮します。その結果、小規模にターゲットを絞り込んだ臨床試験が可能になり、成功率向上につながります。

NGSは、患者由来オルガノイドなどの革新的な疾患モデルと組み合わせることで、ドラッグリパーパシングや希少疾患研究にも役立ちます。NGSを利用すると、オルガノイドから抽出したDNAやRNAの効率的なシークエンシングが可能になり、貴重な遺伝子情報や分子情報が得られます。

個別化医療におけるNGS

NGSは、個別化医療の発展でも重要な役割を果たします。患者ごとの遺伝子プロファイルに基づき、治療のカスタマイズが可能になり、患者の遺伝的特徴に応じて、患者ごとに薬剤がもたらす影響の違いを明らかにする一助となります。

複雑疾患の場合、医師による正確な診断と患者状態の分類にNGSが役立ちます。複数のNGSによるコンパニオン診断検査がすでにFDA承認を取得しています。その中には、リキッドバイオプシー(採血式)検査があり、患者の腫瘍にある変異に基づく特定のがん治療法について、医師が患者の適格性を判断する際に有効です。

がん研究では、NGSは治療後の微小残存病変の検出や、患者ごとの腫瘍進化の追跡にも役立ちます。例えば、患者由来オルガノイドとNGSを組み合わせ、単一腫瘍内の細胞間の遺伝的異質性を調査し、この異質性が薬剤耐性や予後不良にどのように影響しているのかを解明する際の一助となります。将来は、臨床現場で、腫瘍の薬剤感受性の評価や、患者の個別化医療計画のデザインにもこうした技術が活用できるでしょう。

また、NGSは、遺伝子発現や遺伝子の変化を評価することにより、時間経過に伴うオルガノイドの品質や安定性のモニタリングにも利用できます。これは、疾患研究や薬効試験に用いるオルガノイドモデルの信頼性と再現性の確立にもつながります。

遺伝的変異も、薬効や至適用量だけでなく、個々の患者の薬剤のADME(吸収・分布・代謝・排泄)にも影響を及ぼす可能性があります。こうした差異の同定に役立つのが、NGSです。なお、この研究分野は薬理ゲノミクスと呼ばれています。

創薬におけるNGSの利点

「NGSでは、迅速で網羅的な遺伝データが得られるとあって、創薬ターゲットの同定から臨床試験に至るまで、創薬プロセスのさまざまなステージを飛躍的に加速し、最終的には新薬上市に関わる期間短縮やコスト削減につながります」とWang氏は説明します。

NGSは、ゲノムのコーディング領域と非コーディング領域の両方を含む多くのサンプルから網羅的な遺伝データを効率的、コスト効果的に取得できるため、創薬プロセスをさまざまな面から効率化できます。一例を挙げれば、開発プロセスの初期に候補薬の潜在的なオフターゲット効果と毒性を予測する際、NGSで得られるデータを利用することで予測が容易になります。NGSの結果を組み入れた臨床試験デザインは、効率的で情報の価値も高くなり、上市までの道のりが効率化される可能性があります。

NGSの技術進歩

NGS技術は、飛躍的な進歩を続けています。こうした新しい技術のひとつが、ロングリードシークエンシングです。DNAの複雑な構造バリアントと反復領域の分解能向上が期待できます。また、シングルセルシークエンシングという新技術もあり、遺伝子発現プロファイルを個々の細胞レベルで分析可能なため、細胞不均一性に関する新たな洞察が得られます。これは特にがん生物学や発生生物学の領域で有用です。

その他の革新的な技術としては、空間トランスクリプトーム解析、リキッドバイオプシーシークエンシング、エピゲノムシークエンシング、ハイスループットゲノム機能解析、リアルタイムシークエンシングなどがあり、がん研究から感染症研究まで幅広い領域の進歩に寄与しています。

NGSデータ解析の面でも飛躍的な進歩が見られます。Tsai博士は、「次世代シークエンシングでは、複雑なデータが大量に生成されます。これを効率的に解析・解釈するためには、バイオインフォマティクスの高度なツールやソフトウェアが必要です」と説明します。

重要な進歩としては、スケーラビリティに優れた共同のNGSデータ解析を実現するクラウドベースのプラットフォーム、複数のアルゴリズムやツールを組み合わせて解析プロセスを効率化する統合型解析プラットフォーム、NGSデータセットの探索とゲノムの複雑な特徴の解釈を対話型で実行できる新しい可視化ツールなどの使用が挙げられます。一方、シングルセルRNA-seqなど、特定アプリケーション向けに設計されたツールは、特殊解析の実施に役立ちます。

機械学習や人工知能ツールは、バリアントコーリングや機能アノテーション、予測モデル構築など、さまざまな面でNGSデータの解釈を容易にします。「遺伝子バリアントがタンパク質機能や疾患表現型に及ぼす影響を予測するうえで、AIで導き出された洞察を生かすシーンが増えています」とWang氏。

創薬を支えるコーニングのパートナーシップ

コーニング ライフサイエンスでは、創薬にカスタマイズした高品質な総合ソリューションの提供に力を入れています。研究者や業界リーダーと協力し、正確性と費用効率に優れたNGSアプリケーションに対する需要の高まりに応える新製品を開発しています。

コーニングは、自動化の促進やハイスループットのNGSワークフロー導入促進に貢献する高品質な実験器具や実験用消耗品を提供しています。PCRプレートやカスタマイズ対応の消耗品などの製品は、シークエンシングワークフローの最適化、コンタミネーションの最小化に役立ちます。コーニングの試薬やシークエンシング用クリーンアップキットも、効率的で一貫性のあるサンプル調製につながります。

細胞培養専用の表面や培地など、コーニングのオルガノイド培養製品は、研究室でのオルガノイドの作製・維持に役立ちます。こうした製品は、オルガノイドの増殖・形成の至適条件を実現し、研究者によるオルガノイドの構造・機能の研究が可能になります。

コーニングのオルガノイド培養製品とNGS技術の組み合わせにより、さまざまな研究アプリケーションで大きな有用性を発揮します。例えば、コーニング製品でオルガノイドを形成し、その遺伝的構造をNGSで解析することも可能です。オルガノイドの分子特性に関する有益な知見が得られるため、疾患発症機序の解明、潜在的な治療標的の同定、個別化医療方針を策定する際のヒントになります。