ハイスループット環境への3Dモデル導入

私たちは、「ハイスループット環境への3Dモデル導入」をテーマにした「Ask the Expert(専門家に聞く)」というセッションを開催しました。3D細胞培養モデルは、生物学的機序の理解、疾患状態のモデル化、治療薬スクリーニング、がん研究、毒性スクリーニングなど、多くの主要研究領域で先進的なツールになります。3D細胞培養モデリングのいくつかの領域でのスループット向上ニーズの高まりを受け、ハイスループット化に対応する新たなツールも求められています。

3D細胞培養には、多くの場合、細胞外基質(ECM)が用いられます。例えば、Corning マトリゲル基底膜マトリックスは、天然細胞外基質(ECM)をベースにしたハイドロゲルで、オルガノイドやスフェロイドを形成する際の3D細胞培養に広く使用・引用されています。3D細胞培養モデリングのいくつかの領域でのスループット向上ニーズの高まりを受け、ハイスループット化に対応する新たなツールも求められています。例えば、利便性や一貫性に優れたコーティング済みのマトリゲル基底膜マトリックスのオプション拡充などが必要になります。

コーニングでは、3Dモデルでスクリーニングをハイスループット化するため、3D細胞培養に特化したCorning マトリゲル基底膜マトリックスをあらかじめコーティングした96ウェルと384ウェルのマイクロプレートを開発しました。これらのプレートは使いやすく、ハイスループットフォーマットにマトリゲル基底膜マトリックスを分注済みのため利便性に優れ、しかもこのようなアッセイで求められる一貫性も確保されています。こうした製品では、「オントップ/サンドイッチ法」と「包埋法」による3D細胞培養が可能です。

今回、私たちは「Ask the Expert」セッションに専門家チームとして出演し、細胞培養モデリングのニーズを見据えた3D細胞培養のハイスループット化について、さまざまな質問に回答しました。セッションでは、イメージングのベストプラクティス、スクリーニングのトラブルシューティング、自動化導入について議論しました。さらに、小型ウェルフォーマットプレートでの上手な回収方法など、容器選択や培養のコツも紹介しています。

Elizabeth Abraham(Ph.D)– コーニング ライフサイエンス シニアプロダクトマネージャー
2008年にコーニングに 入社し、R&D、プロジェクトマネジメント、ライフサイエンス事業部など、さまざまな部署で上級職を歴任。コーニング ライフサイエンスでは、哺乳類初代細胞・幹細胞の培養に用いる先進的な細胞外基質(ECM)・表面コーティングや実験器具など、各種新製品の開発を指揮しました。23本の原著論文、テクニカルノートを執筆したほか、11件の特許の発明者でもあります。初期のキャリアでは、Cell Therapyで糖尿病の幹細胞治療法候補の評価に従事しました。現在、オルガノイドや3D細胞培養向けの製品の事業責任者として、新たなコンセプトづくりに顧客の声を反映し、世界各地で商品化に取り組んでいます。

Hilary Sherman – コーニング ライフサイエンス シニアサイエンティスト
コーニング ライフサイエンスのApplications Lab(米国メイン州ケネバンク)所属シニアサイエンティスト。2005年にコーニングに入社し、さまざまなアプリケーションを対象に、哺乳類細胞、昆虫細胞、初代細胞、幹細胞、オルガノイドなど多彩な細胞タイプの研究に取り組んでいます。コーニングでの主な職務には、プロトコールやホワイトペーパーなどの技術文書の作成、営業部門や取引先向けの技術支援・トレーニング提供などがあります。ニューハンプシャー大学卒(生物学)。ここ数年は、ヒトオルガノイド培養を含む3D細胞培養アプリケーションに専念しています。

3D細胞培養には、平底のULA(超低接着表面)、丸底、マイクロキャビティ、マトリゲル基底膜マトリックスのオプションがありますが、自分のアプリケーションに適切なモデルをどう選べばいいのでしょうか。

適切な製品選びは、構築しようとしているモデルに大きく依存します。スフェロイドのような極性が必要ない3D構造の構築をめざしているのであれば、ULA製品が向いています。平底ULA製品では多くのスフェロイドが作製できますが、形状やサイズはばらつきます。均一なスフェロイドが必要であれば、スフェロイドマイクロプレートのような丸底ULAプレートが適しています。マイクロキャビティの ULAプレートは、ウェルごとに複数の均一なスフェロイドを形成できるため、平底と丸底のULA製品の長所を兼ね備えています。オルガノイドなどのように、モデルの極性が求められる場合、マトリゲルなどのECMが必要になります。

3Dスクリーニングには、どの濃度のマトリゲルが必要ですか。

3Dアプリケーションの場合、少なくとも 150-200 μg/cm2のマトリゲルをおすすめします。濃度はアプリケーションごとに最適化する必要があるでしょう。別の方法としては、マトリゲル基底膜マトリックス3Dプレートも試してみる価値があります。これは3D培養に最適化されていて、あらかじめ未重合のマトリゲルでコーティングされています。

細胞をマトリゲルと混合してから播種するプロトコールもあれば、マトリゲル上に細胞を播種するプロトコールもあるようです。どちらがいいのでしょうか。

これはアプリケーション次第です。たくさんの3D構造を作製してタンパク質分析や同種のエンドポイントアッセイを実施するのであれば、迅速でシンプルな包埋法のプロトコールの方がおすすめです。イメージングが必要な場合、3D培養体を混合すると非常に多くの面に焦点を合わせる必要があり、スキャン時間が長くなる可能性があるため、包埋法は理想的とは言えません。サンドイッチ法のプロトコールでは、重合したマトリゲル層の上に細胞を播種します。こうすると、もっと狭い焦点面に細胞が定着し、容易かつ迅速なイメージングが可能になります。

3D細胞培養やハイスループットスクリーニングへの応用に有用性があることはわかりますが、そのニーズに対応できるイメージングシステムはどうなっているのか、また、そこで得られるすべてのデータを迅速に整理・評価する方法はあるのでしょうか。

お尋ねの点は、まさしく足枷になりかねません。解決策のひとつとしては、分析対象のデータ量を減らすことです。アプリケーションによっては、3D培養体をMax projection で分析するだけで十分なデータが得られる場合があります。Max projectionは、物体の共焦点画像すべてを1つの画像として再現するものです。この方法であれば、すべてのZスタック画像を個別に分析する場合に比べてはるかに時間を短縮できます。残念ながら、この技術はまだ完全な域に達していませんが、改善が続いています。3Dイメージの画質は向上していて高速化しており、低倍率でプリスキャンして、まず関心のある物体を同定してから、時間のかかる高倍率イメージングに移る機能もあります。高解像度画像を「必要十分」なレベルに制限することも、データ収集量を削減するコツです。

私たちは、心臓スフェロイドの培養にスキャフォールドフリーの手法を使っていますが、均一のサイズが得られないために、情報の一貫性が確保できず、栄養の分布に偏りが生じてしまいます。何かアドバイスをいただけますか。

Corning スフェロイドマイクロプレートCorning Elplasia® プレートなどのスキャフォールドフリー製品は、均一なスフェロイドの作製に特化した特殊構造になっています。独特のウェル形状で細胞をキャビティに均一に定着させ、一貫性のあるスフェロイドを形成します。平底のスキャフォールドフリー製品は、特殊形状のウェルを採用していないため、通常、不均一な3D構造が大量に形成されてしまいます。

スフェロイドのイメージングは、マトリゲル基底膜マトリックスに包埋されたままの状態で実施すべきでしょうか、それともマトリゲル基底膜マトリックスを融解してからイメージングに入るべきでしょうか。

スフェロイドとオルガノイドは、倍率と対象にもよりますが、マトリゲル基底膜マトリックスに包埋された状態でイメージングが可能です。実際、生死染色やOrganoid Swelling assay には、こうした方法が必要な場合もあります。厚いマトリゲル基底膜マトリックス層に細胞を播種するサンドイッチ法・オーバーレイ法のほうが、イメージングが容易で迅速であることがわかっています。これはほとんどのスフェロイドが単一の焦点面上にあるためです。別の方法としては、マトリゲル基底膜マトリックスの小さな液滴も、低倍率での高速イメージングには十分な薄さになります。大きなオルガノイドを高倍率でマーカー染色する場合やオルガノイドが厚いゲルに包埋されている場合、染色前に構造を除去したほうが便利です。マトリゲル基底膜マトリックスから細胞を取り出す必要がある場合、マトリゲル基底膜マトリックスで培養した細胞やスフェロイドには、Corning セルリカバリーソリューションの利用をおすすめします。この溶液は、スフェロイドやオルガノイドを非酵素処理で回収できます。4°Cで、厚いマトリゲル基底膜マトリックス層が脱重合できるため、細胞回収が容易になります(プロトコールはこちらです)。なお、パラホルムアルデヒドなどの特定の固定液でもマトリゲル基底膜マトリックスの脱重合が可能です。マトリゲル基底膜マトリックスを無処置のままにしておきたい場合には、固定液に最大1%のグルタルアルデヒドを加えるといいでしょう。

マトリゲル基底膜マトリックスで培養した細胞のイメージングの際、バックグラウンドノイズが入ることがあるのですが、上手に取り除く方法はありますか。

免疫染色法は、あらゆるタイプのマトリゲル基底膜マトリックスで実施されています。しかし、フェノールレッドフリーのマトリゲル基底膜マトリックスを使用すれば、自家蛍光やバックグラウンドノイズが軽減できます。

新製品のマトリゲル基底膜マトリックス3Dプレートでは自動化が容易になりますか。リキッドハンドリングシステムで使用する際に、マトリゲル基底膜マトリックスの温度条件に少々苦労したことがあるのですが。

はい、新しいCorning マトリゲル基底膜マトリックス3Dプレートは自動化に対応していて、ハイスループットアッセイに必要な利便性や一貫性を備えています。このプレートは、ECM分注の手間がかかりません。あらかじめコーティング済みのため、手作業で起こりがちな不正確さを抑制します。Corning マトリゲル基底膜マトリックス 3Dプレートには、384ウェルと96ウェルのフォーマットがあります。Corning マトリゲル基底膜マトリックス 3Dプレートの使い方に関する詳細は、使用ガイドラインをご覧ください。また、こちらのアプリケーションノートには、ハイスループットアッセイでの新プレートの使用などが掲載されています。

ハイスループットプレートで培地交換は可能ですか。可能な場合、一番おすすめの方法はありますか。

吸引除去の際にマトリゲル層に近づきすぎないようにすれば可能です。例えば私の場合、細胞懸濁液50 μLを96ウェルプレートに加え、40 μLほどを除去してから、新たに新鮮な懸濁液50 μLを加えるようにしています。ほかにも、培地をまったく吸引せずに、単純に新鮮な培地か化合物を加えるだけでうまくいったこともあります。

もっと希釈したマトリゲルが必要なアプリケーションの場合、コーティング済みのプレートを希釈して、必要な濃度に調整する簡単な方法はありますか。

このフォーマットであれば不可能ではありませんが、注意しなければならないのは、3D構造の形成能力に影響が出かねない点です。最良の結果を出すためには、当社のユーザーガイドライン遵守をおすすめします。

こうした小型ウェルフォーマットのプレートで形成されるオルガノイドやスフェロイドの上手な回収方法を教えてください。

生存するオルガノイドやスフェロイドの回収には、マトリゲルの脱重合にCorning セルリカバリーソリューションの使用をおすすめします。一般的なプロトコールはこちらにあります。