Precision Medicine Advancements: The Role of 3D Cell Culture

がんプレシジョンメディシンの治療法を探索する場合、1分たりとも無駄にはできません。3D細胞培養の利用も含めた技術進歩により、より速く、信頼性の高い医薬品開発が行えるようになりました。実組織に見られる生物学的類似性や複雑な不均一性を模倣する3Dオルガノイドモデルにより、治療法の予後予測の精度が高まり、特に他の臓器に転移したがんに対する薬剤の検証に役立ちます。研究者の間では、肺がんや大腸がんの治療効果を予測したり、臓器移植の成功確率を高めたりと、研究者たちはこれまで以上にオルガノイドの利点を活用し、世界中の患者に希望を与えています。

治療反応予測

時間が限られた状況では、ワークフロー上の課題克服につながる適切なツールが利用できるかどうかで差が出ます。小細胞肺がん(SCLC)の研究者にとって、治療法スクリーニングのための組織採取は難易度が高く、脳転移との戦いでは、輪をかけて難しくなります。SCLCは不均一な悪性度の高いがんで、生存転帰が不良であり、ほとんどの患者は診断後の余命は1年ほどとなっています。腫瘍増殖ペースが速く、生存率が低いことから、生組織の入手が極めて困難とされています。実際、原発性にせよ、転移性にせよ、SCLCの組織が不足していることは、組織の分子学的特徴付けに取り組むうえで長年の障害となっています。これについて、バンダービルト大学のNCI Center for Systems Biology of Small Cell Lung Cancerのサイエンティフィック マネージャー、Amanda Linkous博士は、嫌というほどわかっている課題だと言います。

「ディッシュ上のヒト臓器を模倣した微小環境でミニチュア腫瘍を作製できるオルガノイドが役に立ちます。これまでは、臨床検体を数か月に一度入手できる以外には、このような腫瘍は手に入りませんでした。今では毎月のペースで大規模に作製できるようになったため、多くの情報を収集できます。以前であれば、臨床現場からの検体に頼るほかなく、収集可能な情報も極めて限られていたのです」とLinkous博士。

オルガノイドならば、研究者がリアルタイムに細胞の可視化や操作ができるとあって、世界中の研究室で利用が拡大しています。さらに、肺や脳をモデル化したオルガノイドは、わずか4〜6週間で作製できるため、侵襲性の高い組織調達の必要性が軽減されます。

治療法の検証やがん治療の長期的な成功率の解釈に当たっては、組織の不均一性を考慮することも重要です。「大腸がんは、ある程度、教科書どおりの症状を呈する疾患ではあるものの、治療法はこの40年か50年の間、変わっていない」と指摘するのは、New York Genome Centerのシニアサイエンティスト、Francesco Cambuli博士です。肺がんと同様に、ステージ4の大腸がんでは原発腫瘍を調べるだけでは不十分で、転移腫瘍にも対処しなければなりません。オルガノイドは、臓器系全体の治療反応を調べるのに適していて、同じがんでサブタイプが異なる場合でも、腫瘍の挙動や再発の予測に活用されています。Cambuli博士は続けます。「特定タイプの腫瘍でも、異質なタイプが5種類は考えられます。オルガノイドモデリングの利点は、あらゆるタイプの大腸がんの研究や治療に利用できることです」

臓器移植成功率の向上

がんと同じく、臓器移植も時間的制約を伴う難しさがあります。とりわけ、肝臓のような重要臓器では、細胞機能を回復する手法が確立されていないため、難易度がさらに高まります。実際、移植後の最初の何日かで、移植不全により移植組織の大部分が失われます。プレシジョンメディシンと3D細胞培養法を組み合わせることにより、肝臓機能を失った患者への移植を目的に、ヒトドナーから増殖して疾患に対処するように処理された複雑な分化肝細胞を体内に送り込むという方法が可能です。スフェロイド培養物は、2D培養で増殖させた細胞に比べて、門脈や臍帯を介した移植の際に肝細胞の機能と回復力が向上することが実証されています。

Ambys Medicinesのシニアサイエンティスト、Nino Faleo博士は、3Dスフェロイド技術を活用して、従来の限界を打ち破ろうと取り組んでいます。「3Dスフェロイドの複雑度を高めれば、肝臓の生理機能をもっと精緻に模倣し、肝細胞機能を強化できます」とFaleo博士。さらに次のように語ります。「これからの展望を考えるとわくわくします。疾患モデルの精度が向上すれば、薬剤スクリーニングが迅速化するため時間が短縮され、最終的には患者の新たな治療法開発に必要なコストの削減にもつながります」

イノベーションを促進する共同研究

イノベーションは、試行錯誤を繰り返して得た教訓を重ねた末に可能になるものであり、今回の例で言えば、熱心な研究者や専門家が協力して解決策を模索することが大切です。コーニング ライフサイエンスなどの企業は、お客様と手を携えて、創薬に向けた障害の克服に取り組んでいます。「コーニングのスペシャリストと共同で取り組むことができたのは、とてもいい経験でした。初めに先方からノウハウや製品知識を豊富に提供してもらえたため、当初の試用期間を短縮できました」とFaleo博士。

ワークフローの改善に関して、Linkous博士は、時間の経過とともに一貫性の高い成果を上げていくうえで、コーニングからの技術的な助言は頼りになると語ります。「あるとき、特定のステップでオルガノイドが増殖しなくなる問題が発生しました。そのような物理的な課題を克服する際、オルガノイド培養の必須アイテムであるCorning® マトリゲル基底膜マトリックスなどを最適化するノウハウのある専門家の協力が得られるのは素晴らしいことです」(Linkous博士)

プレシジョンメディシンはヒトゲノムプロジェクトを機に進歩を遂げており、患者由来オルガノイドを使うことにより、従来の患者由来の細胞株と比べて個々の患者の治療反応を予測する精度が大幅に向上しています。研究現場では、患者アバターを用いた抗がん剤の有効性検証作業が進められていますが、創薬にとどまらず、幅広い可能性が見込まれます。プレシジョンメディシンと予測科学の進歩によってわずかながら垣間見えるのは、来るべき患者本位のケアの時代であり、医療業界を確実に変容させるものにほかなりません。