A Guide to Synthetic Hydrogels for 3D Cell Culture | Corning

従来の細胞培養は、平面に単層を形成させる2次元培養を前提としています。この方法はin vitro研究の基礎となっていますが、さまざまなタイプのハイドロゲルによる担体マトリックスを足場に使うと、良好な結果が得られ、細胞の挙動も自然な挙動に近くなることが研究現場で確認され始めています。

本合成ハイドロゲルガイドは、3次元の細胞培養を成功させるうえでの疑問点を解消するとともに、3D細胞培養で合成ハイドロゲルを使う場合と生物学的ハイドロゲルを使う場合の違いも解説します。

ハイドロゲルとは

コーニング ライフサイエンスの3D細胞培養ポートフォリオ担当マーケットマネージャー、Elizabeth Abraham博士によれば、ハイドロゲルは大量の水分を吸収する生体材料で、本質的に親水性材料です。細胞培養に使用すると、自己凝集して3D構造を形成し、細胞培養の担体となります。ハイドロゲルがあれば、細胞は培養表面で単層として増殖するのではなく、凝集して3D構造を形成し、組織や臓器の解剖学的形態を模倣します。

3D細胞培養用のハイドロゲル製品には、天然材料のものと合成材料のものがあります。天然ハイドロゲルの例としては、Corning® マトリゲル基底膜マトリックスが挙げられます。これは、マウスEHS肉腫細胞由来のコラーゲンとラミニンを含有する天然の細胞外基質(ECM)製品です。このECM誘導体は、細胞表面受容体との相互作用で挙動に影響を与える重要な表面シグナル伝達構造を含有していることから、特に細胞の増殖や凝集を促進します。

可溶化基底膜調製品であるマトリゲル基底膜マトリックスは、上皮細胞株や腫瘍細胞株など、さまざまな接着細胞を対象に接着・分化を促進します。

 

合成ハイドロゲルとは

生物由来物質は、細胞株からの天然由来であり、細胞の接着・増殖を促進します。一方、合成ハイドロゲルは似てはいますが、単一成分やカスタマイズされた調合品として、新規に作成・設計されたものです。Abraham博士は、「共有結合架橋性かイオン架橋性のホモポリマーやコポリマーと合成モノマーの重合の網目構造で、ハイドロゲル構造を形成するもの」と説明します。天然ハイドロゲルを模倣しますが、ハイドロゲルの成分が定義されているため、研究者にとっては制御性や柔軟性が高くなります

コーニング ライフサイエンスの先進細胞培養担当シニアプロダクトマネージャー、Alejandro Montoya氏は、次のように説明します。「合成ハイドロゲルの組成に使われている生理化学的特性は、機能的な可能性を決定する際に役立ちます」

さらにAbraham博士は、カスタマイズの可能性についても触れています。「合成ハイドロゲルは、物理架橋、化学架橋、酵素架橋といった架橋法に基づいて分類することもあります。しかも架橋は、時間、温度、pH、フォトパターニング、相互侵入高分子網目(IPN)に依存することがあります。こうした合成ハイドロゲルの剛性や弾性、多孔性、分解性、細胞接着性、生理活性など多くの特性は、使用する組成や架橋により変化します」

ハイドロゲルの仕組み

「合成ハイドロゲルは、細胞凝集による3次元構造形成を促進するスキャフォールドになり、in vivoの生理学的形状を再現する精度が高まります」。コーニング ライフサイエンスのシニアアプリケーションサイエンティスト、Hilary Sherman氏はこのように説明します。

細胞が2Dの平坦な層として増殖するのではなく、あたかもin vivoで増殖するかのように自然に近い状態で凝集します。培養条件が2Dか3Dかによって、細胞挙動に違いがあります。研究では、3D環境は自然条件を模倣し、現実に近い細胞のシグナル伝達を実現する微小環境を生み出します。

 

合成3D細胞培養ハイドロゲルの特に際立つ点とは

マトリゲル基底膜マトリックスなどの生物学的ハイドロゲルは、がん、幹細胞、3D細胞培養、器官型培養・研究でECMのゴールドスタンダードとして揺るぎない地位を築いています。

しかし、Montoya氏によると、Corning Synthegel® 3Dマトリックスなどの合成ハイドロゲルであれば、さらに細かく調節可能な環境が実現します。このような環境の方が、がんスフェロイドの培養促進に適しています。特にスキャフォールドフリー環境で自然にスフェロイドを形成しない場合に効果的です。また合成フォーマットは、ヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞、hiPSC)の培養でも重要な役割を果たし、3D細胞培養やスケーラビリティが実現します。

カスタマイズできる点は、合成ハイドロゲルの大きな特長で、対象となる細胞のペプチド類、ハイドロゲル剛性、増殖因子に関する正確な情報に基づいて細胞ごとに調節し、天然の微小環境をもっと精緻に模倣できます。

「Synthegel 3Dマトリックスプラットフォームは、完全合成培地です。また、酸性条件や冷却条件なしに、化学的に定義された調節可能な合成ペプチドマトリックス内で、生理学的がんスフェロイドの培養やhiPSCの3D培養もサポートします」とMontoya氏は説明します。

Montoya氏は、Synthegel 3Dマトリックスの重要な特長の一部として次の点を挙げています。

  • 生理学的関連性の高いがんスフェロイドの形成・増殖に理想的
  • 包埋や浮遊の条件でのhiPSCの3D培養・継代が可能
  • hiPSC Grow Mix添加剤は、hiPSCの3D培養に完全な培養環境を実現
  • 中性pHの精製合成ペプチド
  • ペプチド濃度の変更により、マトリックス剛性を調節可能
  • 迅速なハイドロゲル形成(5分〜30分)
  • 手順は標準的な細胞培養手法のみ

 

生物学的ハイドロゲルと合成ハイドロゲルのどちらを使用すべきか

ハイドロゲルには2つのタイプがあります。ハイドロゲルの使い分けのポイントはどこにあるのでしょうか。

前出のSherman氏は、合成ハイドロゲルの指針として、組成と、実験デザインで果たす役割を把握しておくことが重要と指摘したうえで、次のように話しています。「Synthegel 3Dマトリックスを始めとする合成ハイドロゲルの利点として、培養に影響する未知の生物学的成分が含まれていないこと、ロット間でハイドロゲル組成が一定であることが挙げられます」

言い換えれば、生物学的ハイドロゲルは、動物細胞由来である以上、ある程度のばらつきは付き物であり、さまざまな増殖因子が含まれる可能性もあります。一方、合成ハイドロゲルには、組成への意図的な組み込みや追加がない限り、タンパク質や増殖因子が含まれることはなく、従って細胞に対して生物学的ハイドロゲルと同じように作用することはありません。アプリケーションによっては、生物学的ハイドロゲルの成分が担う機能的役割の代替として、何らかの成分を追加する必要があります。

培養対象の細胞や、その物理的挙動に応じて、ハイドロゲルのカスタマイズや微調整が可能かどうかも判断材料になります。担体マトリックス特性の調整は、ハイドロゲルの混合割合をカスタマイズすることで管理します。

「研究者にとっては、目的とするアプリケーションに基づき、所定の特性や期待する生物機能性に応じてスキャフォールドを設計できます」(Abraham博士)

例えば、間葉系幹細胞は機械的刺激に反応し、その分化能は外力に依存します。研究現場でホモポリマーの混合割合を変更することにより、細胞挙動を支える3Dマトリックスを形成できます。

3D細胞培養用としては、合成ハイドロゲルの方が生物学的ハイドロゲルに比べて多用途性や制御性が高くなり、研究対象となる細胞の自然の挙動を利用する際に無数の組み合わせが考えられます。

Abraham博士は、次のように指摘します。「合成ハイドロゲルにはさまざまな組成があり、理想的な組み合わせを得るには、対象とする細胞タイプやアプリケーションの特性に合うようにハイドロゲルを設計できるかどうかが決め手となります」

合成ハイドロゲルと生物学的ハイドロゲルのどちらを選ぶべきか。それは、どのようなアプリケーションを想定し、実験でどのような相互作用になるのかで決まります。

Synthegel 3Dマトリックスやこれを使ったソリューションの利用法の詳細はこちらをご覧ください。目的のアプリケーションや細胞タイプに最適な表面については、ダウンロード配布している”The Corning® Guide to Surface Selection by Cell Type”をご覧ください。