3D Bioprinting Technology for Future Drug Discovery and Toxicology Research

バイオプリンティング、とりわけ3Dプリンティングによって、in vitroの創薬・毒性研究への扉が開かれようとしています。3Dプリンティングは、in vitro研究の有用性を高め、動物実験の代替となることで、動物実験の結果からヒトの生理機能を推定する際の誤りを回避する一助となります。

Corning® Matribot® バイオプリンターなどのツールは、研究領域の拡大につながるだけでなく、自動化によってオルガノイド培養やスフェロイド培養などのハイスループット方式に一貫性をもたらします。さらに、モデル作製に患者自身の細胞が使えるため、個別化医療での治療面で有意義な成果を獲得しやすくなります。

in vitroを模倣する3D組織

3Dバイオプリンティングでは、組織や臓器を模倣する積層モデルを作製できます。具体的には、支持体となる細胞外基質のインク(バイオインク)内に生細胞を播種し、組織の複製物を作製します。

ソフトウェアと精密プリンティングツールを利用することにより、生体組織内の細胞配向に極めて近い状態で細胞を積層あるいはプリンティングできます。その結果、in vivo環境の再現性が高い臓器・組織モデルが誕生します。これは、組織や臓器の機能に欠かせない細胞間相互作用を研究するうえで重要です。

また、臓器構造を模倣して再現性を高めた血管新生3Dバイオプリントモデルのスキャフォールド(足場)構築に、犠牲インクも利用できます。

細胞配向のあるプリントを実現するソフトウェアツール

コーニングのアプリケーションサイエンティスト、Hilary Sherman氏は、「3Dプリンティングであれば、実際に3次元構造を形成することが可能です。培養でランダムに細胞を増殖させるのではなく、細胞が特異的部位や特異的配向に並ぶようにして組織を積層できます」と説明します。Matribot バイオプリンターなどのバイオプリンターには、CADファイルが付属していることが多く、新しい組織のプリントが設定しやすくなっています。さらにオンラインで入手可能なファイルも多く、3Dプリンティングは意外に手が届きやすく、汎用性も高い投資となっています。

Sherman氏が挙げた例は、線維芽細胞とその上のケラチノサイトからなる皮膚の構造です。「両者はまったく別の細胞タイプで、優れたモデルを作製するには、それぞれの細胞の配向が重要になります」とSherman氏は言います。

毒性研究や美容スクリーニングも、線維芽細胞など単一の細胞タイプだけで構成されるin vitro培養物ではなく、皮膚の解剖学的形態を模倣した積層プリントモデルで実施できます。

Sherman氏は次のように説明します。「単なるディッシュ上での共培養では、とても十分とは言えません。真の効果を引き出すためには、生体内での細胞の組織化過程に非常に近い形で細胞を組織化した構造体を作製する必要があります」

さらにShermanは続けます。「最も基礎的な研究レベルでは、3Dバイオプリンティングは、さまざまな細胞サブタイプ間の相互作用のあり方について理解を深める一助になります。皮膚を例にとると、肌に塗ったローションなどの効果を調べる場合、線維芽細胞に対象化合物を投与して実験しても意味がありません。実際にその薬剤にさらされるのは、線維芽細胞そのものではないからです。それなら、皮膚の表皮を覆うケラチノサイトで実験した方が意味があります。ただし、ケラチノサイトと線維芽細胞との相互作用も見なければなりません」

オルガノイドの一貫性を保つ押し出し方式の汎用性

正確にバイオインクを分注できれば、一貫性の確保につながります。例えば、Corning Matribot バイオプリンターはシリンジヘッドの温度制御ができるため、細胞外基質製品であるCorning マトリゲル基底膜マトリックスを高精度に分注できる唯一のベンチトップ型3Dプリンターです。

これは、バイオプリントモデル内の細胞の配向や精度に寄与するだけでなく、温度感受性の高いハイドロゲル内の細胞やオルガノイドも正確に分注できることを意味します。実験データの一貫性が高いため、毒性研究でも重要な役割を担います。

Frontiers in Medical Technology誌によれば、個別化医療研究では創薬スクリーニング用にヘテロ組織を作製することが妥当性の面で極めて重要です。3Dバイオプリントモデルを正確に再現できれば、生体組織と生物学的関連性の高い実験材料が使えるようになるため、in vitroin vivoの差を埋める一助となります。

その際に鍵を握るのは、シリンジヘッドが温度制御できることです。「これを手作業で処理するのは容易ではありません。シリンジをセットするヘッド部分が温度制御できなければ、ピペットチップすべてを予冷してから氷浴を使い、手早く作業する必要があるからです。これは本当に大変な作業です」とShermanは説明します。

ハイスループットを実現する自動化・スケールアップ

創薬研究や毒性研究で有意義なデータを確保するためには、一定の規模と再現性が欠かせません。分注の自動化により、マルチウェルプレートアッセイや自動プレートリーダーなどのハイスループットアプリケーションに適した、一貫性あるデザインにつながります。Matribot バイオプリンターなどの3Dバイオプリンターを選定すれば、温度感受性の高い粘性溶液をさまざまな容器に高精度に分注できるため、スケールアップにも対応します。

個別化医療:入手困難な細胞に適したバイオプリンティング

創薬研究では、特定の患者のがん生検から得られる細胞など、入手困難な細胞が必要になる場面も少なくありません。Archives of Toxicology誌によれば、3Dバイオプリンティング法は、化学療法剤の中から最良の薬剤を見極めるスクリーニングに理想的なことが多いとしています。

Sherman氏は、この手法が嚢胞性線維症患者にも有益であるとして、次のように説明します。

「多くのオルガノイド研究者にとって特に注目すべき細胞タイプがあるとすれば、嚢胞性線維症でしょう。なぜなら患者治療に用いられる初のオルガノイドになったからです。嚢胞性線維症は、多種多様な変異で引き起こされる可能性があり、特定の変異と決まっているわけではありません。このため、患者1人ひとりのニーズが異なることから治療は困難を極めます。個々の患者の嚢胞性線維症の治療に最適な薬剤や合剤を見極めるために、患者生検のスクリーニングを何度も重ねてきました」