オルガノイドの一貫性を保つ押し出し方式の汎用性
正確にバイオインクを分注できれば、一貫性の確保につながります。例えば、Corning Matribot バイオプリンターはシリンジヘッドの温度制御ができるため、細胞外基質製品であるCorning マトリゲル基底膜マトリックスを高精度に分注できる唯一のベンチトップ型3Dプリンターです。
これは、バイオプリントモデル内の細胞の配向や精度に寄与するだけでなく、温度感受性の高いハイドロゲル内の細胞やオルガノイドも正確に分注できることを意味します。実験データの一貫性が高いため、毒性研究でも重要な役割を担います。
Frontiers in Medical Technology誌によれば、個別化医療研究では創薬スクリーニング用にヘテロ組織を作製することが妥当性の面で極めて重要です。3Dバイオプリントモデルを正確に再現できれば、生体組織と生物学的関連性の高い実験材料が使えるようになるため、in vitroとin vivoの差を埋める一助となります。
その際に鍵を握るのは、シリンジヘッドが温度制御できることです。「これを手作業で処理するのは容易ではありません。シリンジをセットするヘッド部分が温度制御できなければ、ピペットチップすべてを予冷してから氷浴を使い、手早く作業する必要があるからです。これは本当に大変な作業です」とShermanは説明します。
ハイスループットを実現する自動化・スケールアップ
創薬研究や毒性研究で有意義なデータを確保するためには、一定の規模と再現性が欠かせません。分注の自動化により、マルチウェルプレートアッセイや自動プレートリーダーなどのハイスループットアプリケーションに適した、一貫性あるデザインにつながります。Matribot バイオプリンターなどの3Dバイオプリンターを選定すれば、温度感受性の高い粘性溶液をさまざまな容器に高精度に分注できるため、スケールアップにも対応します。
個別化医療:入手困難な細胞に適したバイオプリンティング
創薬研究では、特定の患者のがん生検から得られる細胞など、入手困難な細胞が必要になる場面も少なくありません。Archives of Toxicology誌によれば、3Dバイオプリンティング法は、化学療法剤の中から最良の薬剤を見極めるスクリーニングに理想的なことが多いとしています。
Sherman氏は、この手法が嚢胞性線維症患者にも有益であるとして、次のように説明します。
「多くのオルガノイド研究者にとって特に注目すべき細胞タイプがあるとすれば、嚢胞性線維症でしょう。なぜなら患者治療に用いられる初のオルガノイドになったからです。嚢胞性線維症は、多種多様な変異で引き起こされる可能性があり、特定の変異と決まっているわけではありません。このため、患者1人ひとりのニーズが異なることから治療は困難を極めます。個々の患者の嚢胞性線維症の治療に最適な薬剤や合剤を見極めるために、患者生検のスクリーニングを何度も重ねてきました」