Accelerating Cancer Therapies Development: Platform, Process, and Partnership | Cell & Gene Therapy Insights | Corning

Expression Therapeuticsの生産担当プレジデント、William Swaney氏、コーニング ライフサイエンスのグローバルサイエンティフィックアプリケーション担当ディレクター、John (Yoshi) Shyu氏、Center for Breakthrough Medicinesの細胞治療薬プロセス開発担当ディレクター、Nikhil Tyagi氏を迎えたインタビューをお届けします。聞き手は『BioInsights』編集者のCharlotte Barker。

インタビューの模様は、ウェビナーをご覧ください。また、インタビュー全文は以下の記事にまとめられています。

Q:細胞・遺伝子治療薬業界が上市を迅速化するうえで直面している最大の課題は何ですか。

William Swaney氏(以下WS):細胞・遺伝子治療薬を手がける企業は、開発の段階を問わず、上市という共通目標を掲げています。上市に漕ぎ着けるためには、薬剤を製造し、最初の早期臨床試験を完了させる必要があります。どの開発段階にあるかによって各社の検討事項は異なります。促進要因としては、適応症、単群治療か多群間治療か、そして選定したプラットフォームなどが主に挙げられます。投与量と投与経路も、この検討の対象に入ってきます。さらに、規制上の検討事項や、上市先として想定する市場も考慮しておくといいでしょう。事業規模とは関係なく、どの企業にも共通しているのは、柔軟性のあるモジュール式のサステナブルな製造施設を設置したいという思いです。

現在、創業して間もないスタートアップ企業が抱えている大きな問題は、過去数年にわたり、ベンチャーキャピタルへの資金提供や買収・合併の動きが大幅に鈍化していることです。多くの企業が資金繰りに苦しみ、アイデアがあってもそれを生かして臨床にまでたどり着けずにいます。このため、スタートアップ企業の重要な問題のひとつは、CDMOへのアウトソーシングに踏み切るかどうかということです。運よく自前の生産施設があって、臨床試験の早期相に進んでいる企業の場合は、人材の獲得・定着が迅速な製品化や上市への鍵を握ることになります。サプライチェーンマネジメントや規制対応も検討事項に入ってきます。

商品化段階にある企業の場合は、一部の主要グローバル市場間で調整が取れていないために、上市に支障が出ています。例えば、欧州と米国では要件が異なります。

Nikhil Tyagi氏(以下NT):細胞・遺伝子治療薬は新しい領域のため、安全性と有効性に関してまだ十分なデータが確保されていません。時間の経過とともにデータが増えて、安全性と有効性への理解が深まれば、さらに多くの治療薬を上市できるはずです。

John (Yoshi) Shyu氏(以下JYS):ここ数年で細胞・遺伝子治療薬の市場は爆発的な広がりを見せていますが、その結果、どうすれば迅速化できるのかという課題を共通して抱えています。研究現場の研究対象となっている適応症にもっとマッチする薬剤を量産するには、どうすればいいのかという問題です。プログラムを完成させるうえで十分な材料の生成が欠かせませんが、そのためには適切なインフラ、適切なプラットフォーム、適切な支援体制が重要なポイントになります。市場で共通して直面している課題のひとつは、優れたアイデアがあるにも関わらず、目標を達成するために、ワークフローの観点から何が必要なのかもっと見極めなければならばならないことです。

Q:上市までの期間を短縮する以外に、細胞・遺伝子治療薬の普及促進のためにできることはありますか。

NT:細胞・遺伝子治療薬は有望な領域で、がんを始めとする疾患ですでに成果が出ています。唯一の問題は、こうした治療薬が非常に高価な点です。現時点で、細胞治療薬は1回用量当たり30万〜50万ドルほど、遺伝子治療薬は1治療当たり100万ドルを超えます。これではほとんどの患者さんは利用できません。

コストを下げることができれば、こうした治療薬をもっと多くの人々に届けられます。一番の悩みどころは、その実現方法です。そのためには、もっと費用対効果が高く、手頃な価格の製造プロセスを開発しなければならないと考えています。製造プロセスをもっと短縮できないか?プロセスを自動化できないか?といったことです。

同種細胞治療薬であれば、自家細胞治療薬に比べて大幅にコストを削減できますし、量産が可能になれば需給バランスの問題も起こりにくくなります。

もう1つの課題は、保険償還です。現時点では、こうした高額な細胞治療薬は医療保険の対象外となっています。手頃なコストの製造プロセスで治療薬を増産し、政府と連携してすべての患者さんが利用できる治療薬をめざす必要があります。

WS:こうした治療薬が開発の早期相に入っても、依然として開放系操作、すなわち非閉鎖系の手順が残っていることが少なくありません。このため、適切な環境での作業の要件が定められることになりました。例えば、米国では、清浄度がISOクラス7のクリーンルームで、ISOクラス5のバイオセーフティキャビネットを備えることになっています。EUでは、グレードCのクリーンルームでグレードAの操作が求められます。こうしたプロセスを閉鎖型に切り替えられれば、必要なクリーンルームの規模を縮小でき、製造コストの大きな削減効果が生まれるはずです。

NT:細胞・遺伝子治療薬はほとんどがアカデミアの研究機関やスタートアップ企業で開発されています。こうした企業・機関は、パイプラインが限られていて、1〜2製品にしか対応できていません。自前の製造施設を建設しているので、その分、コストが押し上げられます。すでに製造施設を保有するCDMOや大手製薬会社にこうした製造プロセスを委託できれば、単一製品のパイプラインに投資するリスクを抑えながら、短期間で増産が可能になります。

Q:製造プラットフォームの選定に当たって、どのような点を検討すればいいのかアドバイスをいただけますか。

JYS:特に重要な条件の1つに、プロセスのライフサイクルがあります。今後1〜2年にわたって製造する必要がある場合、想定するプラットフォームで現時点の必要量の2、3倍、ひょっとしたら5倍まで対応できるかどうか考えなければなりません。対応可能であれば、そのプロセスで今後2、3年のライフサイクルをカバーできます。対応が難しいとすれば、もっと機動性のある代替プラットフォームで量産を検討する必要があるかもしれません。選定しようとしているプラットフォームは、現時点のニーズに応えるだけでなく、今後数年間あるいはプロセスのライフサイクル全体にわたって想定されるニーズにも対応する必要があります。

NT:先ほどお話ししたように、現在、細胞・遺伝子治療薬の製造プラットフォームのほとんどは、開放系で手作業によるものです。もっとシンプルで安価な製造プラットフォームを開発し、ユニットごとの自動化と全体的な自動化の両面で検討する必要があります。現行の細胞治療薬は非常に複雑です。プロセスの自動化を進めることができれば、つまり閉鎖系でGMP準拠にできれば、プロセス短縮と製造コスト削減が実現します。第1の要件は、使いやすく安価で堅牢性、信頼性に優れた製造プラットフォームを開発することです。

どの細胞治療薬も、患者由来の原料に依存しているために、患者間のばらつきが大きくなります。それだけに、堅牢性と信頼性に優れた製造プラットフォームを開発して製造の失敗を減らすことが非常に大切なのです。

WS:プロセスの閉鎖系移行と自動化では、柔軟性、スケーラビリティ、シンプルさを追求する必要があります。また、超希少疾患にはいまだ満たされていない膨大な医療ニーズがあることから、少量生産に対応する柔軟性も求められますし、逆に量産化に対応する柔軟性も必要です。プラットフォームは、大量生産と少量生産の両方に対応できる必要があるのです。

Q:前臨床段階、臨床試験段階へとスケールアップしてパイプラインを進んでいく際、プラットフォーム間の移行についてどのようなお考えをお持ちですか。また、移行時の適合性を最適化するうえで、コーニングのようなソリューションプロバイダーにできることは何でしょうか。

NT:プラットフォームは賢く選定したいものです。こうした治療薬のほとんどはスタートアップやアカデミアの研究機関で開発されていて、第III相試験や商用生産まで見据えてはいません。前臨床試験から臨床試験への移行は、低分子薬やモノクローナル抗体とは違い、特に細胞治療薬の場合、ハードルが上がります。培地の増殖因子の変更といったわずかな違いでも、結果が変わりかねないからです。

標準の開放型平面培養系でプロセスの開発が終わっている方々からの需要はかなり大きいのですが、前臨床から第I相試験や第II相試験に進む段階になって、プロセスの改善が必要になります。そのような場面でコーニングのようなサービスプロバイダーが頼りになります。 

幹細胞治療薬の開放系プロセスを例に取ると、TフラスコやHYPERStack® セルカルチャー容器での細胞培養では、スケールアップに限界があります。労働集約型プロセスが必要ですから、スケールアウトしようにも限界があります。フラットベッドバイオリアクター、固定床バイオリアクター、攪拌槽型バイオリアクターなどのプラットフォームは、選択肢となる可能性がありますが、コンパラビリティを考慮する必要があります。2Dプラットフォームでプロセスを開発する場合、2Dから3Dへの移行は、めざす薬剤の生物学的特性が変わるため、難度が高くなります。

私は現在、コーニングの協力の下、Ascent® FBRシステム(日本未発売)を使っていますが、非常に適合性の高いプラットフォームです。プロセスを容易にスケールアップでき、手順の閉鎖系移行や自動化も簡単です。コーニングのような企業や他のサービスプロバイダーはこうした取り組みを進めており、CDMOサービスプロバイダーと同様に当社はこの技術への適応を迅速に進めています。

JYS:製造プロセスのどの段階であれ、プラットフォーム間の移行は悩みの種です。別のプラットフォームに直接移行する場合は最適化期間が短くなりやすく、長くても2カ月です。移行の際、サプライヤーと内部の技術担当スタッフの双方の協力を得ながら共同で移行できる適切な支援体制が整っていることを確認しておく必要があります。プラットフォーム間の移行に当たっては、技術支援が必ず必要になります。

WS:初期の前臨床開発を通して、さまざまな学びがあります。臨床開発プログラム全体でプラットフォームの正確さを維持するというのは正しい考えです。プラットフォームや産生細胞の切り替えは、開発製品の重要な品質特性を左右するため、できる限り避けたいものです。例えば、レンチウイルスの産生に接着細胞株を使用していて、その後、浮遊細胞株に切り替えると、下流の精製プラットフォームが変わり、コンパラビリティ確保のために多額の費用をかけた橋渡しの研究まで必要になることがあります。

また、同じ理由でAscent Fixed Bed Reactor(FBR)システムも使用しています。これまでの接着細胞株、プラスミド、既存プロセスのままでいけることがデータからわかりました。私たちと同じメリットに注目している方々がいるとわかり、心強いです。

Q:世界的なサプライチェーンの需要超過や価格上昇で特に影響が出ているのは具体的にどの領域でしょうか。依然として続いているこの問題にどのように対処すればいいのか、アドバイスをお願いします。

WS:コロナ禍の初期には、サプライチェーンに深刻な問題が発生し、PPE(個人用防護具)やプラスチック製実験用品の入手に苦労しました。世の中で何もかもがワクチン開発に集中して振り分けられた結果、多層型容器や培地の調達が不安定になりました。そのような状況は大幅に解消しましたが、今もバッグや製品容器の調達には問題が残っています。米国の場合、最近は製造施設向けに仕入れている医療用炭酸ガスの調達に苦心しています。

原材料を切れ目なく安定して調達できるように1次、2次、3次のサプライヤーの協力を仰ぐことで、この問題に対処しています。また、常備在庫を多めに確保することについても検討しました。製造施設の業務を再開した当時、カスタマイズ製品の場合、リードタイムが40〜50週間近くに達しました。長めのチューブやサイズ違いのコネクター類といった単純なものでもそのような状況でした。カスタマイズ製品にこだわるだけの価値があるのか評価せざるを得ませんでした。とりわけ標準品で同等の製品があるのであれば、なおさらです。

また、サプライヤーと良好な関係を築くことも大切です。ニーズについて、いつでも気軽に電話をして相談できる相手が必要ですし、こちらのニーズを把握して、充足に向けてがんばってくれるサプライヤーを確保すべきです。これは、今の時代に確実な成果を上げていくために欠かせない条件と言えます。

JYS:コロナ禍を抜け出した今、コーニングを含め、多くのメーカーがしっかりとしたサプライチェーンの大切さを痛感しています。治療薬やプログラムが次の段階に移ったり、有望性が確認されたりすると、突然、大量の原料が必要になります。リードタイムの長いプラットフォームの場合、これが問題になりかねません。細胞・遺伝子治療薬に関わるすべての方々に助言するとしたら、生産量の増加が想定されるときには、前もって取引先のサプライヤーに知らせて、在庫の準備・確保に動いてもらうことです。仕入れ量が急増する可能性があるのなら、サプライヤーへの連絡をためらう必要はありません。事前に伝えておけば、サプライヤー側は在庫の確保を支援してくれるはずです。

Q:近年、プラットフォーム、プロセス、パートナーシップに関して、特に大きな期待を抱かせる動きはありましたか。将来的に期待していることも教えてください。

NT:がんは世界的に主要死因となっています。最近、特に免疫療法に関しては、根治薬がいくつか上市されるなど、大きな進展が見られます。PD-1やCTLA-4などの免疫チェックポイント阻害薬が登場していますし、最近もCAR-T細胞治療薬がFDAから承認されるなど、いずれも非常に高い効果があります。がん領域の進歩には驚かされます。

遺伝子治療の分野では、CRISPR-Cas9など、精度を高めた技術がいくつか登場しています。新しい技術は、患者の生活に大きな効果をもたらしています。

将来については、さらに精度と選択性を高めたゲノム編集ツールの登場を期待しています。細胞治療薬に関しては、製造サイクルを短縮する戦略の登場を期待しています。現在、細胞治療薬の製造サイクルは、9日〜4カ月となっています。今、数社が製造期間の短縮に取り組んでいて、1〜3日まで短縮することがこの領域のゴールになっています。

さらに、ユニット操作単位かプロセス全体かのいずれかの形でプロセスを自動化する必要があります。製造プロセス全体が自動化されて、製造成功率が上がり、これまでより短期間で多くの薬剤を製造できるようになるといいですね。この領域では、数社がGMP-in-a-box(GMP準拠のコンパクトな一体型の治療薬製造)と呼ばれるアプローチに取り組んでいます。

WS:細胞・遺伝子治療薬領域では、ここ数年でライセンス製品に動きが見られます。この領域では画期的な時期と言えます。CAR-T細胞治療薬分野の成功は見事なものです。

今後の追い風になりそうな動きとしては、自家T細胞から、同じゴールを達成できる市販の同種細胞製品へと軸足が移ることでしょう。そうなれば、一部の個別製品製造がなくなります。また、患者のがんに発現する新規のエピトープのリバースエンジニアリングにより、CAR-T細胞や薬剤を作り出すという、もっと広い意味の個別化医療にも期待しています。これを実現するには、確固たる方法で迅速に少量製品を製造する必要があります。

JYS:私が気づいた最近の進歩の1つに、プラットフォームのスマート化が挙げられます。コーニングでは、期待どおりに進んでいない部分があればフィードバックループを通じて研究者に通知するスマートセンサー搭載のプラットフォームを開発しています。このようなツールをプラットフォームに追加できれば、プロセスが正しく進行しているとか、もっと制御された形でめざす成果を達成できるといった安心感につながります。私が期待しているのは、製造の場に研究者が立ち会う必要が完全になくなり、現場の状況を遠隔制御できるようになることです。