CDMOs: Emerging Technology Influencers | Manufacturing Cell and Gene Therapeutics | Corning

以下は、2023年3月30日にCell & Geneに掲載された記事を翻訳したものです。

最先端の細胞・遺伝子治療薬を支える研究は、急速に発展しており、非常に有効性の高い標的化治療薬につながる新たな機会を生み出しています。現在、世界中の企業が、こうした多種多様な救命医薬品の研究に取り組んでいます。しかし、こうした医薬品を大スケールで製造する場合、物流上の課題があり、往々にしてプロセスの遅延やコスト増を招くことになります。

化学合成医薬品と異なり、細胞・遺伝子治療薬は、前臨床研究から治験、さらには商用生産に至るまで、複雑なスケールアップ戦略が必要となる可能性があります。このような技術的な課題は、創薬プロセス全体を遅延させ、企業の投資利益率(ROI)を低下させかねません。しかし、この課題を解決するのにうってつけの企業各社があります。それが、医薬品開発製造受託機関(CDMO)です。最先端技術のインフルエンサー的な立場で、最適な技術企業と提携して製造プロセスを最大化することにより、最先端科学研究から商用化へ移行する架け橋となります。

新技術を生かして柔軟性を発揮するCDMO

製薬会社の設備投資対象には、新しい適応症や創薬モダリティの開発が優先される傾向があり、製造に投資する際には単一プラットフォームに集中しがちです。複数技術への投資や新しい生産技術への方向転換は、特にスタートアップや小規模バイオテック企業を始め、多くの製薬会社にとって必ずしも現実的と言えません。一方、CDMOは、複数のプラットフォームへ投資する機敏性があり、さまざまな技術提供企業とのパートナーシップを構築し、目標とする医薬品が実現するように製薬会社を最適な方向へと導きます。CDMOは、製薬業界の橋渡し役として、製薬会社とライフサイエンス技術企業を仲介し、互恵的なパートナーシップづくりを支えます。

例えば、筆者が所属するCDMOのCenter for Breakthrough Medicines(CBM)では、細胞・遺伝子治療薬の製造に当たって、最大のハードルは接着培養プロセスのスケーラビリティと考えています。前臨床研究向けの手法はもちろん、第I相試験や第II相試験で問題なく機能する手法であっても、第III相試験や商用段階になると、必要な産物を質・量ともに確保できないと気づく企業が少なくありません。多くの場合、プラットフォームの切り替えが必須なため、複雑な比較試験が必要になり、コストのかかる遅延につながりかねません。

そもそもカスタマイズ型の手法のため、プロセスと産物に応じて、治療薬ごとに精密な製造のニーズがあります。一部の治療薬は、何日間という単位でスケールアップが可能ですが、細胞増殖や治療薬開発に何カ月もかかるケースもあります。こうした治療薬の場合、汎用的なソリューションではうまく対応できません。そこで、CDMOの出番となります。複数の技術に投資しているCDMOであれば、対象の産物に最適なソリューションを提供してもらえます。

CDMOは、製薬会社とのパートナーシップを結ぶ最初の段階からスケーラビリティの実現計画を考慮しているため、製薬会社側が高コストのプラットフォーム変更や実績のない技術に手を出す必要はありません。CDMOは、製造計画を提示する際、その創薬モダリティの裏付けとなる研究結果やホワイトペーパーを根拠に、大スケールの手法が機能することを示さなければなりません。CDMOから汎用的なソリューションが提案されるようなら要注意です。そのCDMOは、治療薬ごとに特有のニーズをしっかりと把握していない可能性があります。

独創的なソリューションが求められる特有の課題

製薬会社は、こうしたプロセスをできる限り合理化してくれるCDMOを選択し、治療薬の迅速な上市をめざすことも大切です。しかし、多くのCDMOは、製造プロセスのかなりの部分を外部委託しており、これが製造の遅れにつながります。細胞治療薬の創薬に必要な成分が、複数の場所で、ときには複数の国で生産されていることも珍しくありません。

例えば、ある施設でプラスミドを生産し、そこから離れた場所にある別の施設でウイルスベクターを生産するような場合、一方の産物を他方の施設に輸送してまとめなければ細胞治療薬の原薬は製造できません。細胞治療薬の原薬製造のために施設間で輸送したり、さらに試験のために別施設に輸送したりすることもあります。このような製造プロセスが分散していると、コスト高や遅延を招くことがあります。

CBMでは、すべての成分の生産・検査を1カ所の施設で実施するため、コスト削減につながります。当社の場合、試料は同じ施設内での移動に限定されており、国をまたいでの輸送はありません。当社は、治療薬ごとに適切な技術を選定することに細心の注意を払っています。例えば、初期段階にあるプロジェクトの多くでCorning® CellSTACK®培養チャンバーCorning HYPERStack®培養チャンバーを採用しています。どちらも再現性や一貫性のある細胞培養が可能なうえ、開発作業がほとんどなく高い収量を確保でき、臨床現場への迅速な供給に極めて重要な役割を果たします。大スケール製造が必要なプロジェクトの後期に関しては、私たちは細胞治療アプリケーション向けの新たな接着培養手法を新規開発しています。

事例:幹細胞治療薬

現在、CBMでは、コーニング ライフサイエンスの専門家と手を組み、自動化閉鎖系の手法を用いて、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を利用した最先端の治療薬の開発に取り組んでいます。このパートナーシップの目的は、自動化された閉鎖系によるiPS細胞治療薬製造の革新的な手法や手順を探り、CBMが閉鎖系での細胞量産を実現することにあります。これは、即座に利用できる、いわば「既製」のiPS細胞治療薬を開発するうえで、極めて重要なステップと言えます。そのようなiPS細胞治療薬の製造が非常に難しいことは周知のとおりで、基礎研究から商用製造にスケールアップする場合、複雑な技術ソリューションが必要とされていました。

第1に、研究現場では、高精度のゲノム編集ツールを使い、既存の細胞からiPS細胞を作製します。続いて、特異的な疾患や条件が標的となるように、この新しい幹細胞を分化させます。小スケールでは、手動による一連のプロセスが必要になり、スケールアップに伴って、手間もリスクも増大します。要するに、手作業のプロセスが増えるほど、ヒューマンエラーの発生リスクも高まります。私たちのチームは、こうした治療薬を高い信頼性の下で迅速に製造できる自動化ソリューションを探し求めていました。

このような同種細胞療法の完全性を損なわずにスケールアップするため、当社の専門家が支援を求めたのが、確かな実績で定評あるコーニング ライフサイエンスでした。当社は現在、Ascent® Fixed Bed Reactor(FBR)技術プラットフォーム(日本未発売)がこの研究に合うかどうか検討しています。FBR方式は、多層型容器による細胞培養方式に比べ、細胞治療薬を高速、大量に製造する能力があります。特にAscent FBRシステムは、収率や収量の安定性の面で他のプラットフォームを上回り、今回のプロジェクトでは卓越した候補と言えます。最終的には、救命医薬品をいち早く上市し、当社パートナーに大きなROIをもたらす一助となるはずです。

先進治療薬の未来の鍵は自動化

何千ものウイルスベクターが研究段階にあり、治験をめざしています。従来の人手のかかる製造プロセスでは、市場ニーズに応えられる数量の医薬品は製造できません。製薬会社がこの問題に対処するには、新しいソリューションが必要です。製薬会社がこうした課題を克服できるように、豊富な知識と経験で支援する技術パートナーが、CDMOなのです。

このようなCDMOの1つが、私たちCBMです。当社は、この製薬プロセスをできる限り自動化し、コストを抑えつつ、救命医薬品を迅速に市場投入するために取り組んでいます。そのため、上流プロセスの開発に加え、フルスケールの精製方式の最適化、ハイスループット解析機能の確立、接着細胞増殖の技術革新にも力を注いでいます。CBMは、こうした先進の治療薬が持つ可能性と、上市という現実とのギャップを埋めるため、コーニング ライフサイエンスなどの最先端技術企業とパートナーシップを築いています。

著者について

Tatiana Nanda博士:MAbsや細胞・遺伝子治療薬などバイオ治療薬分野に12年以上にわたって携わり、現在、CBMの細胞治療薬・製剤開発責任者。現職では、クライアント第一を掲げた多様な細胞治療薬・製剤サービスポートフォリオの計画・実施、内製プラットフォームの確立を担当。CBM入社前は、JanssenでDPサイエンティフィック戦略、自家CAR-TやAAV遺伝子治療法を含む複数のモダリティを対象に、がん・眼内関連化合物の実施を担当。それ以前は、GSKでバイオ医薬品科学に従事。テネシー大学で微生物学を専攻後、モスクワ大学で経済学修士、UT/ORNLで生物物理学・ライフサイエンスの博士号を取得。

Nikhil Tyagi博士:腫瘍微小環境、がん免疫学、細胞治療薬の分野に10年以上にわたって従事。現職であるCBMの細胞治療薬プロセス開発担当ディレクターとして、社内・社外のクライアントを中心とした細胞治療薬プログラムやイニシアティブの開発で陣頭指揮に当たる。CBM入社前は、さまざまなバイオテクノロジー企業の自家・他家細胞治療薬を対象としたプロセスプラットフォームの開発を手がける。生化学博士。専門は腫瘍標的ドラッグデリバリー。がん生物学や細胞治療の分野で豊富な経験を有する。

Center for Breakthrough Medicinesの概要

Center for Breakthrough Medicines(CBM)は、細胞・遺伝子治療薬の開発製造受託機関(CDMO)として、世界的な規模で救命治療薬・治療法の開発・試験・製造・販売をめざす製薬会社やバイオテクノロジー企業を支援する独自の地位を築いています。細胞治療系のスタートアップが集中する米ペンシルベニア州フィラデルフィアは、シリコンバレーになぞらえて「細胞(Cell)」をもじった〝セリコンバレー〟と呼ばれています。その中心部に本社を構えるCBMは、世界一流の実績を誇る細胞・遺伝子治療の専門家を集め、最先端の革新的な技術を駆使し、プロセス開発、プラスミドDNA、ベクター製造、細胞バンク構築、細胞加工、補完型・独立型の総合的な試験・分析体制など、前臨床研究から商用製造までスケーラビリティに優れたクラス最高水準の体制を整えています。

目的特化型で患者本位のCBMは、実効性を高めたCDMOをめざして、1から新たに設立されました。チームワーク、透明性、迅速な市場投入を第一に掲げ、単独供給体制による総合的なソリューションで、真のパートナーシップと過去に例のない価値をお客様に提供します。

詳細は https://breakthroughmedicines.com/ をご覧ください。