製薬会社の設備投資対象には、新しい適応症や創薬モダリティの開発が優先される傾向があり、製造に投資する際には単一プラットフォームに集中しがちです。複数技術への投資や新しい生産技術への方向転換は、特にスタートアップや小規模バイオテック企業を始め、多くの製薬会社にとって必ずしも現実的と言えません。一方、CDMOは、複数のプラットフォームへ投資する機敏性があり、さまざまな技術提供企業とのパートナーシップを構築し、目標とする医薬品が実現するように製薬会社を最適な方向へと導きます。CDMOは、製薬業界の橋渡し役として、製薬会社とライフサイエンス技術企業を仲介し、互恵的なパートナーシップづくりを支えます。
例えば、筆者が所属するCDMOのCenter for Breakthrough Medicines(CBM)では、細胞・遺伝子治療薬の製造に当たって、最大のハードルは接着培養プロセスのスケーラビリティと考えています。前臨床研究向けの手法はもちろん、第I相試験や第II相試験で問題なく機能する手法であっても、第III相試験や商用段階になると、必要な産物を質・量ともに確保できないと気づく企業が少なくありません。多くの場合、プラットフォームの切り替えが必須なため、複雑な比較試験が必要になり、コストのかかる遅延につながりかねません。
そもそもカスタマイズ型の手法のため、プロセスと産物に応じて、治療薬ごとに精密な製造のニーズがあります。一部の治療薬は、何日間という単位でスケールアップが可能ですが、細胞増殖や治療薬開発に何カ月もかかるケースもあります。こうした治療薬の場合、汎用的なソリューションではうまく対応できません。そこで、CDMOの出番となります。複数の技術に投資しているCDMOであれば、対象の産物に最適なソリューションを提供してもらえます。
CDMOは、製薬会社とのパートナーシップを結ぶ最初の段階からスケーラビリティの実現計画を考慮しているため、製薬会社側が高コストのプラットフォーム変更や実績のない技術に手を出す必要はありません。CDMOは、製造計画を提示する際、その創薬モダリティの裏付けとなる研究結果やホワイトペーパーを根拠に、大スケールの手法が機能することを示さなければなりません。CDMOから汎用的なソリューションが提案されるようなら要注意です。そのCDMOは、治療薬ごとに特有のニーズをしっかりと把握していない可能性があります。