3D細胞培養と創薬

創薬は、治験の成功率が比較的低いこともあって、依然としてハードルの高い研究と言えます。Frontiers in Pharmacology誌によると、新薬候補全体のうち、治験の第II相または第III相試験で有効性不十分のために脱落した候補が半数以上、安全性の問題で脱落した候補が30%に上ります。

このため、創薬の精度向上をもたらす新しい技術に大きなニーズがあります。そこで注目したいのが、3D細胞培養です。

創薬研究は2Dか3Dか

2D培養は、創薬研究の領域で何十年にも渡って細胞培養法の基本とされてきました。しかし近年、ターゲットバリデーションからリード化合物同定、前臨床最適化まで一連のプロセスの複数の段階で、3D細胞培養モデルの採用が増加しています。

3D細胞培養モデルは、元々、がん研究を目的に開発されたもので、既存の3D細胞腫瘍モデルの多くが、プレート上の3Dスフェロイドとして培養されることも珍しくありません。しかし、ディッシュ上でのオルガノイド形成は新たな動きで、Drug Discovery Worldによれば、創薬ツールとして大きな可能性を見せています。

また、3D細胞培養は、患者特異的細胞の培養にも使えるため、新薬候補を患者に直接投与する前に、研究室で培養したオルガノイドで検証して患者反応を予測することも可能になります。

細胞外基質の優位性

3D細胞培養では、細胞増殖の足場として細胞外基質(ECM)を使うことが少なくありません。3D細胞培養で広く使用されているのが、Corning® マトリゲル基底膜マトリックスやいわゆる基底膜ハイドロゲルなどの天然由来ECMです。マトリゲル基底膜マトリックスは、細胞外基質を最適化したものです。

Frontiers in Pharmacology誌によれば、かつてはECMの基本的な役割は構造支持体と考えられていましたが、今では、ECMが細胞挙動に積極的に影響を与えていることが研究者の間で知られています。 ECMのさまざまな成分の動的な変化で、細胞増殖、細胞シグナリング、細胞骨格形成が制御されます。ECMの構成成分が細胞の薬剤応答に影響を与えることがあり、薬剤耐性の促進、薬剤の有効性強化に加え、薬剤作用機序を変化させることさえあります。

マトリゲル基底膜マトリックスは、天然コラーゲンのようにインテグリン受容体により細胞接着を促進します。その結果、Frontiers in Psychology誌によれば、「細胞の生存、増殖、分化を制御する細胞シグナル経路の活性化」につながり、「化学療法、免疫療法、放射線などの治療法への応答性調節が可能」です。 また、マトリゲル基底膜マトリックスは再現性と一貫性があるため、オルガノイド培養のワークフロー合理化にも寄与します。

細胞スフェロイドの役割

Corning スフェロイドマイクロプレートなどのマイクロプレートで培養し、ECMで包埋した細胞スフェロイドは、多くの細胞タイプから作製できるほか、腫瘍の増殖・浸潤・血管新生を調節する化合物のスクリーニングアッセイに使用できます。

先ごろAnticancer Research誌に発表された論文では、頭頸部扁平上皮がん細胞株とヒト初代細胞からハンギングドロップ法でスフェロイドが作製されていました。新鮮腫瘍生検検体から採取した細胞で予備研究を実施し、このアプローチであれば、一般的な化学療法や実験薬に対する患者ごとの感受性評価に使えるアッセイの開発が実現できることを確認しました。

しかし、Frontiers in Pharmacology誌によれば、均一なスフェロイドの作製は困難なこともあり、壊死や栄養分供給不足を防止するためにサイズを制御することも容易ではありません。Corning Elplasia® プレートなどのマイクロウェルアレイは、1つのプレートを使って共通の培養条件下で何千ものスフェロイドを作製できるマイクロキャビティ技術を採用しており、ハイスループット方式での均一なサイズのスフェロイド作製を助けます。

今後の展望

確かな3D細胞培養モデルは、in vivo条件や微小環境をこれまでとは比べものにならないほど正確にモデル化して創薬プロセスを強化し、優れた臨床試験の結果を生み出します。

研究手法やモデルについては、腫瘍のタイプや細胞株だけでなく、それを取り囲むECMや間質細胞との相互作用、免疫調節分子によっても薬剤応答が変化する点を考慮する必要があります。

3D細胞培養を患者由来腫瘍細胞や多様なサブタイプの腫瘍細胞のオルガノイドバンクを組み合わせるがん創薬は可能です。このような創薬であれば、治療成績の向上や副作用の低減を特徴とする個別化薬物療法の開発につながる可能性があります。