Personalized Medicine: Emerging Prostate Cancer Organoid Models for Better Treatment and Therapy | Corning

3D細胞培養による幹細胞由来臓器特異的組織の開発・作製で大きく変わる前立腺がん治療――Veronica Gil博士独占インタビュー

今回の独占インタビューでは、進行性前立腺がんの発生機序に対する理解を深めるため、in vivoモデルと3D in vitroモデルの開発・樹立に取り組むVeronica Gil博士の研究に迫ります。Gil博士は、Institute of Cancer Research(ロンドン)の上席サイエンティフィックオフィサーであり、Johann de Bono教授率いる がんバイオマーカーチームの一員でもあります。

創薬促進、新規がん治療法の開発、がん生物学に対する理解の促進、薬剤感受性・耐性の機序の検討を目的としたオルガノイド開発は、やりがいのある仕事です。Gil博士は、正しいピペッターの選定は、仕事の効率を上げ、繰り返しの作業に伴う苦労やストレスも緩和されると言います。

去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)のモデル化

転移性去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)は、難治性のヘテロな疾患で、前立腺がん症例全体の10〜20%を占めています。前立腺がんのグレードによっては、10年以内に去勢抵抗性がんに疾患が進行することがあります。CRPCの生存期間中央値は、15〜36カ月です。医学の進歩により、前立腺がんの標準治療が改善した一方、CRPCの罹患率は増加しています。「新しい分子標的型・オーダーメード型治療法の研究で、治療や患者のQOLの向上につなげることが大切です。」とGil博士は主張します。

腫瘍の増大・進展に伴って細胞が新たな変異を起こすと、免疫監視を免れたり、抗腫瘍免疫応答を抑止したりする可能性があります。「腫瘍微小環境にあるチェックポイントを標的とする薬剤は、潜在的な新しい標的アプローチであり、患者選定が極めて重要です。」とGil博士は指摘します。ただし、このような研究が可能なCRPCモデルは少なく、初代組織からin vitroでモデルを形成することは極めて困難です。「腫瘍ごとに個別の培養条件を整えなければならないことも大きな課題です。」とGil博士は述べています。

Gil博士らのチームは、NOD/SCIDマウスに患者生検材料を移植し、他のマウスを介した腫瘍の順次継代でアンドロゲンから徐々に切り離すことにより、何年もかけて独自の腫瘍異種移植モデルを開発しています。アンドロゲンの非存在下で増殖する腫瘍を樹立するのには6〜9カ月かかります。

標的治療への3Dルート

in vivoモデルとしての利用に加え、異種移植片の一部は切除してシングルセル懸濁液にして、プレートに播種することも可能です。「このコロニーを増やせるようになれば、新鮮な腫瘍組織を採取し、私たちの研究用オルガノイドとしてin vitroで腫瘍を増殖できます。この目的のために、私たちは、Corning マトリゲル基底膜マトリックスとハンギングドロップ法を広く使用しています。腫瘍から細胞を単離してマトリゲル基底膜マトリックスに播種し、ハンギングドロップを作製すると、5日から10日ほどでオルガノイドが形成されます。」とGil博士は説明します。

スフェロイドやオルガノイドと称されることもある3D細胞培養は、上皮内腫瘍が示すメカノトランスダクション経路や増殖経路の活性化の面で、平面的な細胞培養よりも優れています。「患者体内で増殖する腫瘍との類似性の点で、これまでのところ最良のモデルです。」とGil博士は言います。こうしたモデルのおかげで、抗腫瘍免疫に関与するチェックポイントタンパク質を標的とするとともに、進行性腫瘍が進行と治療抵抗性を促進する特異的経路に依存している点を解明できるようになり、薬剤候補の有効性が探索可能になりました。

Gil博士は、プレシジョンメディシンの領域で近いうちに進歩が見込まれると大きな期待を抱いています。「急速に進歩する疾患モデリングの技術を生かし、世界の有力な共同研究者と力を合わせれば、患者個別の標的治療に適合するin vitroの完全な腫瘍モデルを開発できると期待しています。そうなれば、研究者にとっては疾患治療に成功する可能性が最大限に高まり、研究現場から臨床現場まで患者をフォローできるようになります。 」

研究生活が改善

今後、さまざまな時点、さまざまな条件下で、異なる時点で培養された複数の培養物間の比較が必要になります。「オルガノイド研究、つまり3D生物学モデルは非常に正確で、従来の2D培養よりもはるかに複雑です。それだけに、正確なピペッティングや、オルガノイドの播種、取り扱いには膨大な時間をかけることになります。」とGil博士は説明します。これは体力的に相当な負担になります。Gil博士は、正しいピペッターの選定は、仕事の効率を上げ、繰り返しの作業に伴う苦労やストレスも緩和されると言います。

そんなGil博士が1年ほど前に出合ったのが、Corning Lambda Elite Touchピペッターでした。「これを見つけたときは、うれしかったですね。このピペッターのおかげで研究生活がずいぶん改善されました。クリーンベンチのフードの下でかがんで何時間も過ごしているせいか、姿勢から来る慢性的な頸部痛があるのですが、このピペッターは人間工学的に優れた特性があって使いやすいので、個人的にずいぶん違うと感じます。しかも軽量とあって、ピペット操作に余計な力を必要としないため、首や腕、手首の筋肉痛から解放されました。実によくできています。」とGil博士は言います。また、この人間工学重視のピペッターは博士の生産性の向上にもつながりました。オルガノイドサンプルのセットアップには時間がかかります。こうしたオルガノイドは、サイズも数も不均一なため、播種のときでさえ成果を最大化するには、「職人並みの技」で時間をかけて行う必要があります。このピペッターで作業がハイスループット化するわけではありませんが、「手作業でもこれまでより短時間で多くの結果を出せるようになります。」とGil博士は語ります。

最終的にすべての作業がうまくいき、患者の腫瘍を実験室のミニ腫瘍としてin vitroで増殖させ、前臨床のin vitro研究に基づいて患者を治療できるようになれば素晴らしいです。このようにして一歩前に進むこと、それこそが、Gil博士の言うように個々の患者に応じた個別化治療なのです。

参考文献