Manufacturing Allogeneic Cell Therapy Products at Scale

細胞治療薬領域は、自家細胞治療薬から他家細胞治療薬へと軸足を徐々に移しつつあります。

自家細胞治療薬は、患者の治療にその患者由来の細胞を使用します。この手法には、免疫適合性の面で優位性があります。しかし、通常、自家細胞治療薬には、治療対象となる疾患に遺伝的素因を持ちうる患者の細胞か、化学療法剤やDNA損傷を引き起こす可能性のある治療薬に曝露している可能性のある患者に由来する細胞が用いられます。

一方、他家細胞治療薬は、健常ドナー由来細胞を使用して複数の患者を治療することから、必要に応じてすぐに入手でき、製造コストも大幅に押さえた、いわゆる「Off-the-shelf製剤」(既製品化されてすぐに使用できる製剤)に道を開く可能性があります。

そこで、他家細胞治療薬の優位性と、細胞製造のスケールアップや持続性のあるシードトレインづくりの課題について考えてみましょう。

他家細胞治療薬の優位性

細胞治療薬向けに、DNAの編集によって遺伝子を改変可能なCRISPR-Cas9によるゲノム編集技術があります。例えば、CAR-T細胞治療薬向けの自家細胞濃縮や、他家細胞の改変による免疫拒絶回避などが挙げられます。この改変作業には時間がかかることから、急速進行性疾患や脊髄損傷など、迅速な治療が求められる状況では、自家細胞治療薬は現実的ではありません。これに対して他家細胞治療薬は、あらかじめ細胞を遺伝子改変し、必要になるまで凍結保存できます。

他家細胞治療薬を巡る最近の研究の多くは、間葉系幹細胞(MSC)と人工多能性幹細胞(iPS細胞)に集中しています。MSCには、免疫特権を有する優位性があるため、免疫応答を誘発しません。iPS細胞は、生体内であらゆる細胞への分化能を持つ優位性があり、同じiPS細胞株で複数の疾患を治療できます。

細胞製造のスケールアップ

細胞治療薬が原理証明実験から治験に移行する際、膨大な数の細胞を製造しなければなりません。単一用量のMSC治療薬だけで、何億もの正常細胞が必要になることもあります。さらに、細胞治療薬用と考えられている細胞タイプは、一般的に小型の細胞培養プレートやTフラスコで培養する接着細胞がほとんどです。このような培養容器は、何百万、何十億という単位の細胞の製造にはあまり向いていません。このミスマッチがあるために、細胞治療薬製造への移行を促進する革新的な製品や手法の開発につながりました。

Corning® CellSTACK® 培養チャンバーは、従来のTフラスコと同じポリスチレンの培養表面を持ちますが、1つの容器で最大40段(総培養表面積25,440 cm²)まで多層化が可能なため、ハンドリング時間や設置スペースを削減できます。さらにコンパクトな製品がCorning HYPERFlask® 容器やHYPERStack® 容器です。超薄のガス透過性ポリスチレン培養表面を使用し、細胞の増殖を促進します。

予備実験向けとしては、10層すべてが内部でつながっているHYPERFlaskは、175 cm²フラスコと同じ設置面積で、1,720 cm²の培養表面を確保できます。 スケールアップが必要になったら、HYPERStack 容器を最大36段にすることで、18,000 cm²の培養表面を確保し、コンタミネーションリスクを抑えた閉鎖系が実現します。スケーラビリティを最大限に高めるには、複数の容器をマニフォールド接続し、Corning Automated Manipulator プラットフォームで操作できます。その結果、効率化につながるだけでなく、オペレーター間のばらつきも抑えられます。

細胞製造の最大化

接着細胞の製造を効率よく経済的に最大化するには、Corning Ascent® Fixed Bed Bioreactor(FBR)システム(日本未発売)が候補になります。他のFBRは、接着細胞の培養と、タンパク質などの細胞製品の回収に対応していますが、Corning FBRシステムは、細胞回収の促進に特化した設計となっています。

細胞治療薬の場合、細胞自体が実際の治療に使われる製品である以上、細胞が有効性を発揮できるよう健常に保たなければなりません。また、健常ではない細胞は、意図せぬ細胞タイプに分化した場合に危険な恐れがあります。FBRシステムは、特殊処理を施したPETメッシュを重層化し、高密度の接着細胞をサポートすることにより、3D培養環境に近い状態を実現します。このメッシュをラミニン、フィブロネクチン、コラーゲン、あるいはその他のコーティングで処理すると、接着細胞タイプごとに最適な表面を確保できます。

Ascent コントローラーは、pH、溶存酸素、温度をモニタリングしながら最適な培養環境を実現し、現在、培養表面最大5 m²のシングルユース型Ascentバイオリアクターをサポートするベンチトップバージョンが提供されています。現在開発中のAscent FBR Pilotシステムは、培養表面最大100 m²のバイオリアクターに対応します。

アウトプットを最大化するためには、従来型バイオリアクターにマイクロキャリアを使用し、浮遊培養環境に接着細胞の培養表面を生み出すことができます。Corning Dissolvable Microcarrier(可溶性マイクロキャリア)は、EDTAやペクチネートで溶解可能なPGAポリマーから作られた革新的なビーズです。穏やかな細胞回収が可能なため、細胞の健康状態を維持できます。

持続性のあるシードトレインの作製

細胞治療薬研究者は、第I相試験から持続性に優れたシードトレインの作製に向け、前もって計画を立てておく必要があります。1回用量に必要と見込まれる細胞数、治験で必要な投与回数を考慮します。

初期段階の実験ではバイオリアクターは必要ないかもしれませんが、CellSTACK容器やHYPERStack容器などの多層型容器から、Ascent FBRシステムなどのバイオリアクターへとどのように移行するのか考えておきたいものです。第II相試験や第III相試験では、十分な量の他家細胞を妥当なコストで製造するには、バイオリアクターが不可欠になります。

小スケールでの細胞培養に用いられる条件(培養表面を含む)が大スケールでも利用でき、有効になるように、事前に対処しておきましょう。そうでない場合、コストのかさむ遅延を避けるために、適切な代替策を見つける必要があります。

細胞・遺伝子治療薬は多くの選択肢が利用できるようになっています。適切なソリューション選びのお手伝いは、コーニングのサイエンティフィックサポートスペシャリストにお任せください。