ワクチン生産プロセスに適したプラットフォーム選定のポイント

ローラーボトル、多層型容器、マイクロキャリア、バイオリアクター・・・。ワクチン生産に用いる接着細胞用プラットフォームの選定となると、多種多様な選択肢があふれています。的確に選定するには、表面積から規模まで、幅広い条件を考慮する必要があります。

何をどう選ぶかがプロジェクトの成否を大きく左右します。そこで、どのようなゴールを目指すのか熟慮したうえで、選択肢をしっかりチェックすることが大切です。最初に徹底的に精査しておけば、最も効果的な製品を選定し、期待どおりの成果を達成すべく、プロジェクトを軌道に乗せることができます。

「ひとくちにプロセス最適化と言っても、研究目的によって進め方は異なり、当然、必要な材料や手法も違ってきます。」そう語るのは、コーニング ライフサイエンスのフィールドアプリケーションサイエンティストマネージャー、Chris Suarez博士です。「ですから、最終的にめざす姿を頭に描いてから始めるのがいいと、いつもアドバイスしています。その細胞株の目的は何か、そして最終的なシードトレインをどう描いているのか、ということです。こういう点を最初に検討しておけば、プラットフォーム選定も円滑に進みます。」

どの条件を考慮すべきか、それによってどういう効果が見込めるのか。Suarez博士のアドバイスをご紹介します。

培養表面から開始する

対象となる細胞株に適した培養容器を検討するうえで重要なポイントが2つあります。それは、「望ましい表面積」と「最適な表面処理」です。ほとんどの培養容器は、その気になれば、どのような表面積や規模でも利用できますが、常に現実的というわけではありません。例えば、大量の培養が必要なプロセスには、ローラーボトルや多層型容器が使えますが、ローラーボトルだと何百本も必要になるため、多層型容器のほうが効率的です。

表面処理はさらに注意が必要です。培養容器ごとにコーティングや表面修飾も異なることから、研究者としては、どのような表面があり、表面の違いによって細胞株の挙動がどう変わるのか最初に考えておかなければならないとSuarez博士は指摘します。不明点があれば、メーカーに問い合わせてください。

「ローラーボトル、多層型容器、固定床バイオリアクターなどさまざまなプラットフォームがありますが、いずれも培養容器ごとに特有の表面や特性があります。具体的には、容器の素材を変更する表面修飾から、容器に塗布する表面コーティングまでさまざまです。」とSuarez博士は言います。

「表面修飾の場合、ほとんどの用途で標準となっている細胞培養表面処理容器や、細胞接着を維持しながら複数回の培地交換にも対応するCorning® CellBind® 表面といった製品が利用できます。表面コーティングについては、コラーゲンコーティングで細胞株の増殖が促進されることを実感できるはずです。しかし、あらゆる容器がすべての表面タイプに対応しているわけではないため、何を優先して何を妥協できるのか最初に検討しておきます。」とSuarez博士は続けます。

選定したプラットフォームに不確かな点がある場合は、実際にテストしてみることが基本だとSuarez博士は述べています。

「特定プラットフォームの利用を本格的に開始して軌道に乗せる前に、小規模のプロセス開発テストを実施しておくといいでしょう。」とSuarez博士は言います。「こうしたテストの結果を見れば、本格運用に入る前に、計画中の細胞増殖のタイミングを把握したり、細胞の生存率や接着率、最大収率の条件を最適化したり、対象となる細胞株に最適な表面を見極めたりすることも可能です。」とSuarez博士は説明します。

培養規模を考える

オペレーター数や施設スペースによって、培養容器の実用性は異なります。バイオ企業や企業研究室は膨大な人件費がかかっているだけに、モニタリングや培地交換、何百本ものローラーボトルからの回収など、非常に時間のかかる作業に人手を取られていては非効率で採算が取れません。また、こうした研究現場は施設スペースに余裕があることが多く、大量の多層型容器を収容できる大容量リーチイン型インキュベーターを設置することも可能です。多層型容器やマイクロキャリア、バイオリアクターなど閉鎖系ソリューションの方が表面積が大きく、自動化の可能性も高くなるため、その分、投資する価値があるでしょう。

アカデミア研究室の場合は、また別の点を考慮しておく必要があります。往々にして施設のスペースに制約があり、大容量のリーチイン型インキュベーターを何台も設置する余裕はありません。研究者は多数在籍していますが、バイオセーフティーキャビネットや小型インキュベーターなどのリソースを共用していることも少なくありません。したがって、スケールアップを目指すのであれば、インキュベーター用のスペースをなるべく多く確保する一方で、バイオセーフティーキャビネットの占有時間を可能な限り短縮するような戦略を打ち出さなければなりません。

どのシナリオであっても、細胞増殖戦略を立案する最初の段階で、培養容器の適切なサイズと数量の選定を検討しておく必要があります。

また、特に今は人員面の問題も無視できません。新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックの中、多くの研究室が研究者同士の濃厚接触回避のため、時差出勤制の採用を余儀なくされています。人手がかかる培養容器に対応できるだけの人員数を安全に配置できない場合、研究活動を維持するうえで、容器タイプのアップグレードと自動化が有効です。

コンタミネーションのリスクを考える

Suarez博士の推定では、ワクチン生産プロセスの最大70%が品質管理で占められています。しかもその多くの部分は、コンタミネーションリスクの最小化に振り向けられています。コンタミネーションは、収益性を損ない、培養結果に影響を及ぼす恐れがあるからです。このため、培養容器選定プロセスでは、開放系構成ではなく閉鎖系構成を採用すべきです。

Suarez博士は次のように説明します。「ワクチン製造では、小規模とはいえシードトレイン全体から、プロセスの終わりまで、コンタミネーションのリスク低減が常に課題となります。しかしローラーボトルのように、特定の開放系プラットフォームでは、培地の追加・除去の際にキャップの開け閉めや注入・ピペット操作を伴うことから、コンタミネーションのリスクはさらに高くなります。」

リスクを抑えつつ細胞株の品質向上につながるという意味で、閉鎖系容器の方が効率的だとSuarez博士は言います。

「閉鎖系であれば、無菌コネクターかチューブ溶着により、検証済みの無菌のプロセスワークフローを維持しやすくなります。スケジュール、予算、人員にもよりますが、全体的な品質の確保という点で、たとえチューブ同士の溶着や接続といった処理の手間が増えたとしても、閉鎖系を導入するほうが高い費用対効果を期待できます。」とSuarez博士は説明します。

適切な判断

接着培養プラットフォームの選定は、手間がかかります。それは容器の種類や表面処理がメーカーごとに異なるからです。メーカーに対してカタログをベースに詳細な構成を提案してもらったり、最初に小バッチでのテスト環境の構築を依頼したりすることも、ためらってはいけません。

適切な容器の選定は、細胞を死に追いやるか、活発に増殖させるかの違いにもつながるのです。対象となる細胞に合わせて、最も効率的なスケールアップ戦略に結びつく条件とは何なのか、時間をかけて見極めることが大切です。

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