Extracellular Vesicles: EV Production, Characterization, And Quantification Methods | Corning

細胞間伝達シグナルとして機能する細胞外小胞(EV)。このナノ粒子はタンパク質、糖鎖などの生体物質を内包しており、隣接する細胞や組織とコミュニケーションし、細胞が健常か異常かなどのメッセージを送っています。この機能は、生物製剤領域で大きな可能性を秘めていますが、研究者の間では、いまだに、EVの生物学的特性やアプリケーション、究極的な価値に関する知識の基盤づくりが進められている段階にあります。

EVは、全細胞型の治療薬と違って無細胞産物であり、たとえて言えば、反応を誘発するためにテキストメッセージをやり取りする仕組みに似ています。全細胞は相対質量が大きく、また特定の合成薬が免疫原性反応の引き金となるのに対して、EVは細胞全体よりもはるかに小さいために、生物学的な障壁を容易に乗り越えることができます。サイズが小さいEVには、ほかにも利点があります。まず、サイズが小さ過ぎて細菌やウイルスなどの病原体を運べません。また、EVは、全細胞型治療薬が時折引き起こす不必要な複製や腫瘍形成の能力もありません。

さらに、EVは、集約性の低い開発・製造につながる可能性もあります。メッセンジャーRNA(mRNA)など、合成による分子薬では、多くの場合、分解を防ぐために鞘形成やアミノ酸付加といった微調整が必要になります。一方、EVはこれとは異なり、自己凝集するものであり、所期の目的の達成に必要な自然防御機構が備わっています。新たな治療法候補として明らかに有望である一方、この物質の産生、定量化、特性評価に必要となる根本的な理解が十分に得られているとはまだ言えません。EVを取り巻く既存研究からは、親細胞に匹敵するか、それをも凌駕する優れた治療能を備えた動的モダリティが示唆されています。バイオ治療薬メーカーやCDMO(医薬品開発製造受託機関)は、EVの治療薬としての可能性について研究を続けていく中で、再生医療アプリケーションや腫瘍治療薬、その他の難治性疾患治療など幅広い領域での有望性を含め、この無細胞産物に関する刺激的な見識に基づいて努力しています。

EV産生の概要

合成生物学では、生物製剤に何らかの無機元素を付加することで免疫応答を誘発する可能性があります。この現実は、こうした免疫原性を持たない合成の脂質、高分子、タンパク質の特定や最適化に取り組んでいる創薬の現場にとって課題となっています。ここにEVの有望性の一端がうかがえます。EVは天然の無細胞産物であり、その構造に固有のすべての要素は身体が認識しているため、本質的に免疫原性がありません。さらに、工学的改変や合成による多くの先端治療薬では、有効な応答を誘発するのに必要な治療薬の量が多いため、大きめのナノ粒子か、EVをはるかに上回るサイズのマイクロパーティクルで運ばなければなりません。

無細胞治療薬領域でEVが持つ可能性、つまり細胞全体を使うことなく同等の治療応答をもたらす無細胞産物由来の治療法には、大いに期待が持てます。EVが持つこの有望性は臨床現場で相次いで実証されており、研究者が有用性を探求する道筋は、2つの方向性が考えられます。第1は、治療薬としての利用です。がんに始まり、遺伝的変性疾患、さらにはCOVID-19などの感染症に至るまで、幅広い病状に対処します。第2は、EVを診断ツールとして利用する道で、こちらのほうが早く実現できる可能性があります。リキッドバイオプシーなどの手法で患者のEVを採取し、EVの発するメッセージを解明し、がんを始めとする疾患などの問題がないか探ります。このEVのアプリケーションでは、がんの進行や、他の部位への転移の有無を追跡可能になると考えられ、治療薬としての可能性も相まって、特に臨床腫瘍研究での探索に重要なバイオマーカーとなります。

治療可能性の研究に大きくふたつの道筋があるように、EVの治療利用に関してもすでに確認されている方法が2つあります。ひとつは、恐らく業界で最も注目されている方法で、〝天然型〟EV(ナイーブEV)と呼ばれているものです。幹細胞から得られたままの一切改変を加えていないEVを指します。これと対をなすのが、改変型EVです。こちらはゲノム編集を加えるか、その他の改変成分を加えて、特定目的に合わせてEVを改変します。天然型EVは、培養中の幹細胞が周囲の液体培地環境に分泌することで得られます。したがって、天然型EV産生を支えるためには、健常な幹細胞増殖をもたらす環境づくりが最大の目標になります。

一部の研究者は、省スペース型ソリューションを活用しています。例えば、Corning HYPERテクノロジーが挙げられます。この技術は、コンパクトな設置スペースで高収率のEV産生につながる高密度細胞培養プロセスをサポートします。また、研究者の中には、浮遊培養で見られる特性を持つ接着細胞培養の利点を生かそうと、マイクロキャリアの可能性を探る動きも見られます。さらに、幹細胞を最適化して懸濁液での増殖に取り組む研究者もいます。Corning HYPERテクノロジーには、EVの臨床応用を実現させる大きな可能性があります。例えば、Corning HYPERStack® 12段セルカルチャー容器では、間葉系幹細胞(MSC)から最大7兆個の高品質なEVが産生できることが実証済みです。さらに、Corning HYPERStack容器に力学的な動きを加えると、EV産生量が静置容器に比べて4倍増になります。

イノベーション活性化に向けた特性評価と定量化の研究

多くの企業がEV産生の最適化に取り組んでいる一方、これに呼応するように、真の最適化達成に必要な生物学的あるいは基本的な特性評価への視点を失っている企業が多くなっています。例えば、2D細胞培養法は、細胞のコンフルエンシーや時間に制限されることから、連続バッチ処理機会の妨げとなります。細胞同士が物理的に接着すると、コミュニケーションを目的とした小胞によるメッセージ伝達が不要になるため、EV産生に影響が及ぶ可能性があり、細胞当たりの産生量のばらつきが助長されやすくなります。3D細胞培養でのEV産生であれば、この問題が回避しやすくなり、連続的なバッチ処理も可能になります。現時点では、大量の3D細胞培養をサポート可能な技術は限られています。しかし、コーニングは先ごろ、T75フラスコと同等の占有面積でありながら、スフェロイド12,000個の培養に対応するCorning® Elplasia® 12Kフラスコを発売しました。この容器は、12,000個のスフェロイドに対して同時に栄養分を均等に供給できるひとつの培地リザーバーのような設計となっているため、3D培養によるEV産生に適しています。全スフェロイドが同じ培地環境を共有しますが、各マイクロキャビティに個別に隔離され、物理的な接着が防止されます。この仕組みにより、個々のスフェロイドは独立した細胞集団として振る舞い、適切な細胞株であれば、バッチモード環境で十分なEV産生が得られます。

研究者の間では、なぜEVが産生されるのか、特定の環境で効果的にシグナルを発するのにどのくらいのEV数が必要なのか、EV産生数を増やすにはどのようなシグナルが必要なのか、といったEVの基本に関する探求が依然として続いています。EV産生に特化して新規開発された容器は存在しませんが、EV産生を促進する試薬を開拓している組織や、飢餓・低酸素といった細胞代謝の変化など付随的な条件がもたらす影響についての基礎研究に取り組む組織は多数あります。治験でも、長期のCOVID-19感染や心筋組織再生、腫瘍アプリケーションに起因する急性呼吸促迫症候群(ARDS)などの関連疾患の治療で、EV応用の成功を実証するケースが増えています。治験で合成治療薬や全幹細胞など従来の治療法を上回るEVの能力が実証され続けていることから、今後数年間、モダリティとしてのEVは目が離せない存在となっています。

EVに見られる治療効果の多くに関して、作用機序はまだ完全に解明されていません。現在、EVの特性評価や産生に関して標準化が欠如している問題が広がっていることから、さまざまなコンソーシアムが立ち上がり、こうした無細胞産物の十分な研究・開発に必要なプロトコール策定に取り組んでいます。この領域を進展させ、規制当局の受け入れに道筋をつけるために、産生の特性評価、分離法、最終的な産生に関する最小限の要件を完全に充足させ、深く検証する必要があります。モノクローナル抗体、ウイルス粒子、タンパク質産生などの生体分子のワークフローで使われる既存の特性評価手法のEV適応に関して、これまでに数々の進展が見られました。この取り組みで目下の焦点は、サイズや形状、濃度、表面マーカーの発現、カーゴ内容物、機能などの基本特性の決定に必要なステップ数やアッセイ数をどこまで削減できるかにあります。この研究は、EVという無細胞産物の特性評価、定量化、産生を標準化する活動と併せ、今後数年間において同領域での新たなイノベーション推進に寄与するでしょう。

今後の展望

EVの治療モダリティを探求する治験が増加しており、COVID-19の世界的なパンデミックによる医療への余波で多くのアプリケーションが生まれています。このため、今後、全幹細胞の治療薬に比べた場合のEVの再生能は、イノベーション推進の原動力になる見込みです。EV関連の論文や治験の件数の増加は、無細胞治療薬の質を落とさずに効率的にスケールアップするための標準化されたプロトコールや技術が求められていることを示しています。今後、業界では、EVの力を生かして細胞応答を誘発することにより、他の再生医療と同等かそれを上回る再生応答が得られる無細胞治療薬の開拓の動きが広がるものと見られます。