Bioprinting Applications, Tools, and Tips for Success | 3D Bioprinting Technology | Corning

以下は、2022年8月18日にBiocompareに掲載された記事を翻訳したものです。

バイオプリンティングは、従来の手作業による手法と比べて、複雑な生物システムの3Dモデルを効率的に、しかも高い再現性で製作できます。今回の記事では、ますます普及しつつあるバイオプリンティングの概要と導入法を解説します。

バイオプリンティングの概要と適した用途

バイオプリンティングの原形は、立体的な印刷が可能な3Dプリンティング技術にあります。具体的には、細胞やその他の材料(細胞外基質など)を使用して組織や器官を模倣した構造物が作り出せるため、研究現場では手間のかかる手作業の工程を踏むことなく、複雑な生体システムをモデル化できます。

これまでのところ、バイオプリンティングは、主にオルガノイド研究や再生医療に応用されています。オルガノイド作製の際、ハイドロゲルのドーム構造を手作業で形成すると、どうしても担当者間でばらつきが出ますが、バイオプリンターを使用すれば、こうしたばらつきを回避できます。また、皮膚や血管、筋肉、骨などの組織をバイオプリンティングで形成すると、in vitroでの再現性が向上するため、再生医療目的の研究に役立てることも可能です。

動画で解説: バイオプリンティングのアプリケーション、ツール、そして成功の秘訣

バイオプリンティングを実現するツール

バイオプリンターは、以下の4つの方式に大別されます。まずインクジェット方式です。「バイオインク」と呼ばれる液滴を熱や振動で培養容器の表面に吐出します。インクジェット方式のシステムは、比較的安価ではあるものの、オルガノイドや組織の作製に必要とされる高粘性の液体に非対応の場合があります。

次に、レーザーアシスト(レーザー転写)方式のバイオプリンターは、細胞や細胞外基質材料を層状に堆積させる仕組みを採用しています。精度が高く、高粘性材料のバイオプリンティングに適していますが、熱による細胞損傷のリスクが高まります。

続いて、材料押出方式(ディスペンサー方式)のバイオプリンターは、圧力をかけてノズルから試料を押し出し、所定の形状を作り出します。圧力であれば、試料の粘性の違いに合わせて調整しやすいことから、研究者の間では、その柔軟性の高さゆえに材料押出方式のバイオプリンティングが好まれる傾向があります。

最後に、電界を生じさせる方式のバイオプリンターは、最高精度を発揮します。ただし、価格はかなり高くつくうえ、細胞を損傷しないように電圧のかけ方を厳密に最適化しなければなりません。

バイオプリンティングのアプリケーションには、装置だけでなく、さまざまな試薬もそろっており、元々、手作業で3D細胞培養物を作製するために開発されたものも少なくありません。最も有名な例としては、オルガノイド研究に広く利用されている可溶性基底膜調製品のCorning マトリゲル基底膜マトリックスが挙げられます。

最近では、さまざまな犠牲バイオインクが市場に出回っています。こうした犠牲バイオインクは、血管構造を有する組織、マイクロ流体デバイスの流路、複雑な組織構築物のスキャフォールドの形成のほか、生細胞のバイオプリンティングに先立つ検証試験の実施に役立ちます。

簡単に始められるバイオプリンティング

「バイオプリンティングは初めて」という研究者であっても、事前にある程度の基本技術を押さえておけば必ず有効に活用できます。最近では、複雑化しやすい固有の要因の多くを最初から取り除いたシステムが登場しています。

そのようなプラットフォームの1つにCorning Matribot バイオプリンターがあります。材料押出方式を採用し、マトリゲル基底膜マトリックスのような温度感受性の高いハイドロゲルの扱いに適した設計となっています。マトリゲル基底膜マトリックスを扱う際の大きな課題として、環境温度下でゲル化が進む点が挙げられます。このため、想定より早くマトリゲル基底膜マトリックスのゲル化が始まらないように、マトリゲル基底膜マトリックスとピペットチップの両方を必ず冷却しておかなければなりません。その点、Matribot バイオプリンターは、シリンジプリントヘッド側に冷却機能、プリントベッド側に加温機能を搭載することでこの問題を克服しています。その結果、培養容器に到達するまでマトリゲル基底膜マトリックスがゲル化することはありません。

Matribot バイオプリンターの人気アプリケーションとしては、オルガノイド含有マトリゲル基底膜マトリックスによるドーム構造の形成や、複雑度の高い層構造のバイオプリンティングがあります。特筆すべきは、Matribot バイオプリンターの設置面積がコンパクトで、安全キャビネット(BSC)に設置できる点です。とりわけ、腫瘍細胞など患者由来の検体を取り扱う際には、この特長が極めて重要なポイントになります。

バイオプリンティングを利用する際の注意点

どの研究技術にも言えることですが、バイオプリンティングも最適化が必要です。特に重要な注意点の1つに、研究対象とするモデル系の特性が挙げられ、扱う細胞タイプによって異なります。例えば、内皮細胞と筋細胞とでは必要な細胞外基質(ECM)が異なります。また他の細胞タイプでは、例えばケラチノサイトには線維芽細胞の支持網、角膜細胞には間質細胞の支持網を使うのが一般的です。

実験のスループットについて検討することも大切です。発生シグナル伝達経路の解明に脳由来オルガノイドを使用する研究は、ペトリディッシュで実施してから、さらに下流で詳細な研究を進めるのが最適かもしれませんが、薬剤スクリーニングなどのハイスループットアプリケーションは、96ウェルか384ウェルのプレートの方が適していると考えられます。

研究目的を問わず、最初の段階から細胞の高い生存率を確保することがきわめて重要です。言い換えれば、対数増殖期の培養細胞を維持するとともに、組織材料の採取の際、意図せぬ細胞死を防ぐため、適切に保存する必要があります。