アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは、生物学研究に広く利用されており、遺伝子治療薬によるヒト疾患治療に、とてつもなく大きな可能性を秘めています。しかし、事前研究から前臨床・臨床研究へと進む中で、細胞培養を製造スケールへとスケールアップするプロセスはこれまで大きなネックになっていました。一般的な方法としては、細胞株を浮遊培養に適合させることで、最大1,000リットル以上の攪拌槽型バイオリアクターのスケールまで培養できます。しかし、ほとんどの研究では接着細胞が用いられることから、理想にはほど遠い状況にあります。
最近の技術進歩で、接着細胞製造をスケールアップするプロセスが大幅に簡素化され、AAV単位量当たりの手作業時間、スペース、費用も削減されています。そこで、この記事では、コーニング ライフサイエンスのフィールドアプリケーションサイエンティスト、Tom Bongiorno博士の知見を交え、遺伝子治療の小スケールから大スケールへのスケールアップのプロセスについて解説します。Bongiorno博士は次のように説明します。「ひとたび細胞誘導でウイルスを産生すると、基本的には細胞はそれ以上の増殖を停止します。そこで、必要な総細胞数になるまで産生細胞株を拡大培養してトランスフェクションを開始し、ウイルスを回収する必要があります」
Corning® HYPERテクノロジーを生かした容器とCorning Ascent® Fixed Bed Bioreactor(FBR)(日本未発売)を組み合わせると、このスケールアッププロセスを促進できます。どのような組み合わせの選択が最適かは、短期的、長期的に必要な製造スケールによって決まります。
Corning HYPERテクノロジー
Corning HYPERFlask®は、サイズや形状こそ従来のT175フラスコ(175 cm2)と同じですが、10層構造の超薄型ポリスチレンフィルムを採用しているため、実に1,720 cm2の培養表面が利用できます。「HYPERシステムの場合、ガス交換は、ヘッドスペースではなく、ガス透過性ポリスチレンフィルムを介しておこなわれます。細胞タイプにもよりますが、従来のフラスコよりもHYPER方式のほうが細胞のガス交換が効率的で、その分、増殖速度も産生能もやや上回るケースが多く見られます」(Bongiorno博士)
HYPERFlaskよりもサイズ的に上位に相当するのが、Corning HYPERStack®セルカルチャー容器です。HYPERFlaskと形状が同じで、ガス透過性ポリスチレンフィルムを採用しているのも共通ですが、閉鎖系になっている点が異なります。HYPERStackは、12段(6,000 cm2)と36段(18,000 cm2)があり、マニフォールド接続にすることで、収量の向上、ハンドリング時間の短縮、コンタミネーションリスクの低減が可能です。Bongiorno博士は次のように説明します。「従来型の2Dスケールから移行することになりそうだが、まだ培養プロセスを変えたくないと考えているお客様には、HYPERStackが適しています。Ascent FBRシステムのような環境と比較すれば人手はかかるものの、専門的なノウハウという意味ではハードルは低くなります。すでにディッシュを使ったプロセスに精通しているお客様がHYPERStackに移行する場合、Ascentのような高度な装置の場合よりも簡単なトレーニングを受けるだけで済みます」