潜在的な治療用途の可能性があることから科学界で大きな脚光を浴びている間葉系幹細胞あるいは間葉系間質細胞(MSC)。そもそもMSCとはどのような細胞なのでしょうか。MSCとは何か、どのように入手し、さまざまな疾患治療にどのように使われているのか――。ラボマネージャーとしては、こうした知識をしっかり身につけておきたいものです。確かな知識があれば、研究プロジェクトやリソース配分、業界標準や安全規定の順守について、十分な情報に基づく判断を下すことができます。
MSCとは何か
MSCは、骨、軟骨、脂肪などの細胞を含め、さまざまなタイプの細胞に分化できる一種の幹細胞です。国際細胞治療学会(ISCT)では、以下のMSC同定基準を定めています。MSCに分類される細胞は以下の条件を満たさなければなりません。
- 多能性を有すること
- 骨芽細胞系譜、脂肪細胞系譜、軟骨細胞系譜への三胚葉分化能を示すこと
- 特異的細胞表面マーカーが陽性であること
- 他の細胞表面マーカーの発現がないこと
- 細胞培養表面処理のプラスチックに接着性を有すること
MSCの入手方法とは
MSCは、さまざまな組織に存在し、それぞれに利点と制限があります。最も一般的な組織源は以下のとおりです。
- 骨髄・脂肪組織:どちらの組織源も特徴が明確で広く使用されていますが、バイオプシーなどの侵襲的手法が必要です。
- 出生組織(臍帯・胎盤):この組織源は、非侵襲的手法による採取が可能ですが、入手性が限られます。
- 乳歯・母乳:非侵襲的に、容易に入手できますが、まだ完全に確立しているわけでなく、細胞の特徴も明確になっていません。
MSCの組織源が異なれば、それぞれの由来組織に関連する特性が保持されている可能性があります。ドナーの年齢や健康状態も細胞品質に影響を与えることがあります。例えば、一般的には、若年ドナーが提供する細胞になるほど、増殖能と分化能が高くなります。
MSCの使用方法:従来のアプリケーションと進化の過程にあるアプリケーション
幹細胞治療は、以前から血液疾患に骨髄移植の形で適用されています。しかし、最近の進歩を受け、幅広い適応症に対するMSC治療薬に道が開かれました。
MSCには免疫調節特性があるため、当初は移植片対宿主病(GVHD)を標的に、臓器移植の転帰を改善するために用いられていました。現在、肝臓、腎臓から、神経障害、創傷治癒まで、さまざまな臓器系に影響する疾患に重点を置き、MSCの治験が進められています。MSCの免疫調節性や抗炎症性に希望を見出した研究者や臨床医が、炎症性と考えられている疾患を標的に動き出したのです。
MSCの適用例としては、次のものが挙げられます。
- 腎疾患:MSC由来細胞治療薬は、1年間の治療後に推定糸球体濾過量(eGFR)が高まり、血中クレアチニン量が低下するために、腎疾患の寛解率が改善することが明らかになっています。
- 肝疾患:MSCは、肝細胞様細胞への分化能を持つことから、肝疾患の治療に適しています。骨髄由来と臍帯由来のMSCは、肝硬変や虚血性肝障害に治療効果を示しています。
- 神経障害:筋萎縮性側索硬化症(ALS)、一部の自閉症など、神経筋疾患や神経変性疾患の多くが炎症に関連があると考えられています。こうした状態は、MSCに免疫調節性や抗炎症性があることから、MSC由来治療薬の標的候補になります。
- 軟骨組織工学:MSCは単離・増殖が容易なことに加え、軟骨分化などの多分化能も備えているため、関節軟骨の組織工学に理想的です。このプロセスは、変形性関節症(OA)や 関節リウマチ(RA)などの関節疾患の病変部位の置換・再生を目的としています。
ラボマネージャーにとっての意味
MSCを用いた治療薬が進化を続け、さまざまな疾患の治療に有望性が期待される中、ラボマネージャーは、常に最新動向の情報収集に努めなければなりません。確かな知識があれば、研究プロジェクトやリソース配分、業界標準や安全規定の順守について、戦略的な判断を下すことができます。MSC関連プロジェクトの検討に当たって、ラボマネージャーには、次の行動が求められます。
- 各組織源に由来する細胞の入手性、治療特性、製造性を評価すること。
- MSCの適切なハンドリングと特徴づけ、関連の安全性プロトコールや機器について、チーム全員に周知徹底すること。
- 関連製品の選定に当たって、リソースやプロジェクトスケールを考慮すること。例えばCorning® CellSTACK® 培養チャンバーやCorning HYPERStack® セルカルチャー容器は、オペレーターのトレーニング自体は少なくなるメリットがありますが、必要な労働力は大きくなります。一方、Corning CellCube® システムは、自動化装置のため、労働力は削減できますが、設備とトレーニングの先行投資が大きくなります。
再生医療では、MSCは多用途性を持つ有望なツールです。研究の進展に伴ってMSCの新たなアプリケーションが明らかになる中、MSC治療薬の安全で効果的な開発を促進するうえで、ラボマネージャーには重要な役割があります。ラボマネージャーは、常に情報収集に努め、業界標準や安全規定の順守を徹底しながら、熱い期待がかかるMSC領域の進歩に寄与することができます。