Viral Vector Manufacturing and Cell Harvesting from a Single Bioreactor?

細胞・遺伝子治療が研究段階から臨床現場へと軸足を移す中、接着細胞培養は、治療法の可能性を広げる礎となります。しかし、初期の研究段階の後、研究者らは大きな課題に直面します。それは、処理の一貫性を保ちながら量と質を実現するスケーラビリティの確保です。ウイルスベクター製造を含め、細胞ベースの治療法も遺伝子治療法も一定の量が必要になりますが、従来の平面的な接着細胞培養環境で、それだけの量を確保するのは容易ではありません。研究現場や商用生産の現場では、上流工程のバイオプロセシングの増強と拡張性に対応するため、固定床リアクター(FBR)技術に注目しています。

こうした接着細胞培養プラットフォームの高密度化ニーズを受け、コーニング ライフサイエンスでは、Corning® Ascent® FBR システム(日本未発売)を開発しました。このプラットフォームは、スケーラビリティをサポートするだけでなく、プロセス開発の柔軟性も備えた自動再循環バイオプロダクションに対応します。接着細胞回収、細胞産物キャプチャーのどちらの用途でも、クリーンベンチ外で使用できる閉鎖系です。

細胞が活発に活動する最適条件

Ascent FBR システムは、接着培養プラットフォームの利点に、浮遊培養製造システムの規模と自動化を組み合わせたものです。シニアフィールドアプリケーションサイエンティストのAustin Mogen氏の説明によれば、メッシュのバイオリアクターディスクのおかげで、均一な培地の流れ、細胞分布、増殖を小さな設置スペースで実現できます。

Mogen氏は、「充填ベッドと新しいメッシュ基材を採用し、均質で均等な細胞分布を促進するバイオリアクターを設計した」とし、このメッシュ設計でリアクター全体の養分と酸素のレベルも最適化されると説明します。

「この結果、細胞が快適になり、増殖も進むのです」とMogen氏は言います。

この設計では、メッシュ基材で細胞の増殖を効率化し、高密度化するだけでなく、トランスフェクション試薬・解離試薬への到達も最適化されています。データによれば、このシステムではトランスフェクション効率が90%以上に達し、細胞回収率・生存率も90%を超えています。

さまざまな細胞タイプに対応する柔軟性

現場でのワークフロー一元管理や、標準化されたプロトコール開発が可能なため、一貫性や品質の向上につながります。このシングルソリューション型のプラットフォームは、細胞回収に加え、遺伝子治療やワクチン開発など、多彩なアプリケーションに対応しています。

Ascent FBR システムは、アデノ随伴ウイルス(AAV)やレンチウイルス(LV)、単純ヘルペスウイルスなど各種ウイルスタイプを使用したウイルスベクターの製造に対応します。可能性試験によれば、同プラットフォームは、ウイルスワクチン製造や単純ヘルペスウイルス(HSV)を用いた腫瘍溶解性ウイルス製造のためのベロ細胞培養もサポートしています。

また、Ascent FBR プラットフォームは細胞回収機能も搭載しているため、幹細胞治療開発にも適しており、間葉系幹細胞(MSC)と多能性幹細胞(PSC)の双方の拡大培養に成功しています。

単一プラットフォームでの柔軟性の高さが運用を効率化

細胞タイプの切り替えが可能なため、プロジェクトやアプリケーションに柔軟性が生まれます。同じプラットフォームで多様なアプリケーションが扱えるため、いくつもの機器に投資する必要がなく、スタッフのトレーニング時間も短縮できます。アプリケーションが異なっても同じ消耗品が使われるため、消耗品の在庫管理も簡素化されます。オペレーターはすでにシステムに精通しているため、あまり時間をかけることなく最適化できます。

Ascent FBR システムは、同じシステム内でさまざまなサイズのバイオリアクターに対応しているだけでなく、同じ機器で多様なタイプのプロジェクトが扱えるため、省スペース性にも優れています。細胞副産物製造のアプリケーションでも、この用途に特化したプラットフォームを別途購入する必要がなく、細胞回収に使用する機器と同じ機器が利用できます。また、クリーンルームのスペースも節約でき、設備投資の抑制につながります。

効率化機能を標準搭載

細胞収率と生産性が向上するため、細胞や細胞産物の所期の産出量を達成するのに必要な培養サイクル数(いわゆる「ラン」数)が少なくなります。これは、スタッフの作業時間や人件費の削減はもちろん、培地や消耗品のコスト削減にも寄与します。

またAscent FBR は、収率と細胞生存率が一貫して高水準になるよう最適化するための自動化、モニタリング、制御を前提に設計されている点も注目に値します。

バイオプロダクションビジネステクノロジーディレクターのTara St. Amand氏は、次のように説明します。「Ascent FBRシステムのサンプリング能力は非常に充実しています。細胞濃度のモニタリングと測定が可能な設計になっています。このシステムでは、最大8か所でサンプリングすることができ、メッシュに対して複数のスライスサンプリングが可能です」

この独自のサンプリング機能では、プロセス中の細胞カウント用に実際にメッシュ基材をサンプルとして採取することができます。このシステムでは、例えば培地のインラインサンプリングでグルコースと乳酸などの代謝産物をモニタリングするなど、他のサンプルも取ることにより、細胞の挙動を幅広い視点から把握できます。

「このようなモニタリングは、実験実施中に得られる酸素消費量などの他のデータも組み合わせることで、システム内での細胞増殖の様子についてリアルタイムに理解を深められます」とSt. Amand氏は言います。

スケーラビリティとAscent FBR

Mogen氏によれば、大容量を扱う作業の場合、ひとたびコンタミネーションが発生すれば甚大な被害につながりますが、その点、Ascent FBRは「プラグ&プレイ」方式で消耗品をセットできる設計のため、コンタミネーションのリスクが最小限に抑えられており、スケーラビリティの面でも有利です。

「実際、そのようなコンタミネーションが発生すれば、大きな犠牲を払うことになります。コンタミネーションが発生した場合、高額の試薬をいとも簡単に失いかねません」とMogen氏は説明します。

細胞製造事業に乗り出し、Ascent FBR システムでスケールアップすれば、下流工程の最適化作業も簡素化されます。プラットフォーム間の切り替えがなくても収率を大幅に向上させられるため、スタッフのトレーニングも少なくて済みます。さらに、CDMO/CMO(医薬品開発製造受託機関・医薬品製造受託機関)にとっては、Ascent FBR システムの柔軟性を生かし、多様なクライアント企業に1つのシステムで対応できます。

「スケーラビリティは、Ascentプラットフォームの特長の1つ。(プラットフォームの)流体力学性能が優れているため、ベンチトップからパイロットテスト、さらに製造スケールへと容易に移行できます。お客様の移行にかかる時間が短縮されるため、大きな価値があります」とSt. Amandは説明します。