AAV Production Scale-Up Technology | Ascent Fixed Bed Bioreactor | Corning

以下は、2022年8月24日にPhacilitateに掲載された記事を翻訳したものです。

どのような材料であれ、生産スケールアップの際に考えなければならない重要な問題があります。このブログでは、「Advanced Therapies Week 2022」でのプレゼンテーションを基に、PhacilitateチームがAAV生産のスケールアップを可能にする技術について、有望なソリューションを検討します。

AAV生産を効率的にスケールアップできれば、AI設計によるハイスループットのAAVライブラリーを迅速に構築し、遺伝子治療の開発を加速できます。

この記事では、Dyno TherapeuticsがCorning® Ascent® FBRシステム(日本未発売)を生かして、AAV生産を効率的にスケールアップしている様子を取り上げます。これは、同社の新たなAI活用による充実したカプシドライブラリー構築に重要な役割を担っています。

現場で活躍するコーニングのバイオリアクター:Dyno Therapeutics編

Dyno Therapeutics(以下Dyno)では、新規AAVカプシドの設計をAI活用で最適化することにいち早く取り組み、標的化能力、ペイロードサイズ、免疫回避、製造性の向上に役立てています。

よりよいカプシド配列を発見するため、Dynoではテスト対象となる何十万件もの新規カプシド配列を基に、機械学習を活用した設計ライブラリーを使って、社内の研究ループを開始します。こうした変異体を生成後、DNAのバーコードトラッキングにより、in vitroin vivoのカプシドの特性について、ハイスループット測定が可能になります。この測定結果は、Dynoが機械学習モデルのトレーニングに使用する膨大なデータセットの拡充につながります。その結果、機械学習モデルのトレーニングが進むにつれて、さらに良好なAAVカプシド変異体を予測し、遺伝子治療の改良に役立てることができます。

こうしたハイスループットスケールになると、DynoのAAV生産手法には、スケーラビリティ、一貫性、制御性、速度が求められます。そこでAAV生産は、サイクルタイムを短縮しつつ、質、量ともに高める必要があり、カプシドのテストの迅速化、データ収集の強化、ランドスケープに関する知見蓄積につなげる必要があります。

Dynoでは、AI活用型のAAVカプシド設計プラットフォームで、5 m2のバイオリアクターとCorning Ascent FBR PDシステムを使った場合のメリットを調査することにしました。

バイオリアクターの検討

Dynoでは、AAVライブラリー構築のプラットフォームとして、以前からCorning HYPERFlask® セルカルチャー容器を使ってきました。バイオリアクターという新しい技術は、この既存プラットフォームに取って代わるだけの質を確保しつつ、十分な高速化や効率化が可能だったのでしょうか。

Dynoによれば、最初のテストでは、1 cm2当たりの生産量でみると、HYPERFlask セルカルチャー容器のほうがAscent FBRシステムよりもわずかに効率性で上回ったそうです。しかし、テストを繰り返すうちに、新技術であるバイオリアクターに慣れてきたこともあり、パフォーマンスが互角になりました。

Dynoで長年HYPERFlask セルカルチャー容器を使ってきた研究者らは、初期のテスト結果を見て、Ascent FBRシステムによる迅速なプロセス最適化を期待しました。

バイオリアクターの特徴とは

この調査の結果、固定床バイオリアクター技術を使用する利点は、次のように報告されました。

  • スタッフ数を抑えながら、以前より多くの作業量を実行可能になります。バイオリアクター運用の場合、スタッフ1人が週の半分だけ作業すれば対応できるのに対して、同等量のHYPERFlaskの運用の場合、スタッフ3人が1週間以上作業しなければなりませんでした。つまり、Dynoのチームにとっては、時間をさらに有効に活用できるようになったのです。
  • バイオリアクターからは豊富なデータが取得できます。接続するだけで、研究室内やリモートで継続的にデータを取得・監視できます。バイオリアクターにいくつかのモニターを接続すれば、代謝産物のデータが連続的に取得できるほか、オンボードのpHとd0の制御も可能です。つまり、スタッフ間の申し送りが自動化できるため、自由度が大きくなります。HYPERFlaskセルカルチャー容器の環境では、このようにきめ細やかなプロセス制御とフィードバックは得られません。
  • Ascent FBR システムでは、十分な収率でDynoのライブラリーが構築できました。これはパイプラインに非常に重要なポイントです。
  • バイオリアクターを使用すれば、生産工程全体の短縮につながる可能性があります。大規模ユニットの運用では、製品パイプラインが大きく加速されることがあり、AIエンジン活用につながる頑健性の高いデータが多く生成され、変異体のデザインや発見が迅速化されます。この結果、プロファイルに合った新規カプシドの獲得、標的細胞に実際に使われる遺伝子治療の実現につながります。

AAV生産の最も基本的な手法であるディッシュで、ある程度の量を生産するとしたら、生産開始からデータが生成されるまでに10〜50週はかかると予測されます。また、データ収集は手作業になります。しかも、すべての作業をプレートの数だけ繰り返すことになり、ヒューマンエラーが発生する可能性も生まれます。

小スケールの実験やシードトレインが目的であれば、標準的なディッシュやフラスコからの大幅なアップグレードになるのが、Corning HYPERFlaskセルカルチャー容器です。これだけでユニット当たりの培養面積は10倍以上になります。しかし、データ記録は変わらず手作業のため、ヒューマンエラーが発生する恐れがあり、生産にも時間がかかります。

その点、Ascent FBR システムを使用すると、ユニット数を減らすことができ、時間の短縮にもつながります。ユニット数が少なくなれば、ミスが発生する可能性も小さくなります。自動化で取得されたデータは、頑健性が高く、極めて有用です。

未来の姿

AAV生産自動化に将来性があることは明らかと言えます。

Dynoのアソシエートサイエンティスト、Chris Reardon氏は次のようにコメントしています。「サイクルタイムが短縮できれば、新規カプシドの設計も迅速化され、遺伝子作製担当者の不安も少なくなります」

Reardonは、コーニングのバイオリアクターの効率性や精度の高さを示しながら、「生産現場でオフターゲット効果の不安が低減し、はるかに的確に標的化できるため、生産量自体を1000分の1にまで抑えることも可能」と説明します。

Reardonは、100 m2バイオリアクターまでのスケールアップに対応するAscent FBR Pilot システムの評価作業に携わるのを楽しみにしていると言います。Dynoで使用するプラットフォームが大規模になれば、1回の運用に生産をまとめられるため、生産時間とミスの危険性が減少し、高収率化とデータの頑健性向上につながります。

業界内でAAV生産のスケール変更に対する要求が高まっている中、AAVや遺伝子治療の設計上、極めて期待が持てる時期であることは間違いありません。