前立腺がん研究者がオルガノイドを使って重要なリスク因子を特定

ほぼすべてのがんが研究者に次々と課題を突きつけますが、前立腺がんはずっと特有の謎に包まれてきました。前立腺がんの発生原因は部分的にしか解明されていませんし、このがんの症状は実にさまざまで、それほど深刻ではない病気の症状に似ていることも多々あります。従来の細胞培養研究では研究者が探し求めている知見は得られず、前立腺がんは依然として世界で最も死亡率の高いがんの1つとなっています。

だからこそ、広く利用可能な前立腺オルガノイドの登場は、研究者や患者から大きな興奮をもって歓迎されました。オルガノイドの3D構造は、複数の細胞タイプを組み合わせることで前立腺のin vivo挙動のより正確なモデルを提供します。さらに重要と思われるのは、オルガノイドは患者の生検組織から培養できるということです。

研究者は強力な新しいツールを自由に使えるようになりました。今ではこのツールのおかげで、正確かつ個々の患者に応じた検討ができるのです。

長年にわたる開発努力

オルガノイドは模倣の対象である臓器と同じように組織構造が非常に複雑なので、体内と同じ方法でオルガノイドを培養する必要があります。幹細胞から増殖させるということです。長年にわたる研究で、前立腺幹細胞の分化・増殖を促進するのに必要な一連の栄養素と増殖シグナルが少しずつ解明されてきました。適切な環境を与えれば、そこから先はすべて幹細胞の遺伝的プログラムがやってくれます。

もう少し頑張れば、このアプローチは、何らかの臓器や組織型配列を示すスフェロイドまたはオルガノイドの配列の発見につながるかもしれません。こうして得られたスフェロイドやオルガノイドを合わせることで、包括的な遺伝子解析を導き出せる多段階実験プレートを作製できます。そしてそれは、医師が各患者に応じた個別治療計画を立てるのに十分間に合います。

このアプローチは、各患者のがん固有の特性を具現化する患者由来オルガノイドを作り出します。これは、あらゆるがん研究者が待ち望んでいるブレークスルーであり、前立腺オルガノイドががん研究にもたらすとてつもなく大きな可能性を考えれば、成し遂げられる可能性はきわめて高いと思われます。

個別化が進む研究

ほとんどのがんと同じように、前立腺がんにおいても、前立腺がんに分類される疾病の多様さが最大の課題をもたらす原因となっています。そこでオルガノイドの出番です。オルガノイドを用いることで、従来のモデルよりはるかにin vivo前立腺組織に似た挙動を示し、特定の患者や研究対象に見られるがん遺伝子配列を正確に発現する患者由来細胞モデルを迅速に開発できるようになります。

このアプローチは、がん遺伝子間の異常な相互作用をあぶり出すことで前立腺がんの多様さという問題を克服し、異常な疾病表現型を見抜き、その背後にある遺伝子型にたどり着く手立てとなり得ます。

目標は、医師が生検組織を個々の患者の試験台として使えるような、オルガノイドを基盤とするアプローチを考案することです。さらに、オルガノイドに適用することで、がん遺伝子が具体的にどのようなパターンで発現するかがわかるような確実かつ体系的な検査方法を確立することを目指します。

遺伝子発現のパターンと治療に対する反応性を関連付ける研究を組み合わせれば、オルガノイドを用いたアプローチは個別化治療計画を促すことができます。

今後10年の展望は明るい

オルガノイドを用いたアプローチの恩恵を享受できるのは前立腺がんだけではありません。このところ肺がんの研究がオルガノイドの活用により大きく進歩したことは、このアプローチがあらゆる種類のがんに適用できることを示しています。

新たなオルガノイドモデルを作製する手段もそれなりに整ってきており、研究者は適切な増殖培地を選んで作業できるようになりました。全ゲノム解析が迅速に手頃に行えるようになり、オルガノイド研究のためのツールも増えてきたおかげで、がん研究におけるオルガノイドモデルは、より迅速に、より適した用途で活用されるようになっています。

 

前立腺がんを治癒できる可能性はそれだけでも十分大きなことです。しかし他のさまざまな疾患にも応用できるモデルとして、オルガノイドを用いたがん研究モデルはさらに大きな可能性を秘めています。