How Collaborative R&D Delivered Revolutionary Adherent Cell Culture Scale-Up Technology | Ascent Fixed Bed Bioreactor System Solution | Corning

以下は、2022年10月13日にBioprocess Onlineに掲載された記事を翻訳したものです。

細胞・遺伝子治療のアプリケーションは、患者数が数百人の希少疾患から何百万人もの患者がいる一般的疾患まで多岐にわたるため、バイオ医薬品企業は、ウイルスベクターを始め、細胞や細胞産物に対する需要の高まりに対応できるスケール変更可能な技術を必要としています。

浮遊細胞培養か、それとも接着細胞培養か

治療法開発の現場では、需要に合わせて生産をスケール変更する際、接着細胞培養か、それとも浮遊細胞培養かというプラットフォームの選択に頭を悩ませることが少なくありません。どちらの手法も、細胞タイプ、必要とする細胞数、タイミング、確保できる生産スペースや人員、コスト、その他の要因によって、長所と短所があります。

接着培養プラットフォームの場合、細胞の生産性に優れるといった長所があるものの、生産要件に合わせて接着培養プラットフォームをスケールアップするには、大量の細胞培養容器を扱う面倒な手作業が必要なうえ、人的ミスのリスクも高まり、インキュベーターやクリーンルームにも大きなスペースが必要になります。一方、攪拌タンクなどの浮遊培養システムは、大容量や自動化の長所がありますが、接着依存性細胞の性質変換には時間もコストもかかり、その後の下流工程も多くなります。

多くのアプリケーションで望まれるソリューションとはつまり、接着培養の長所である生産性と、浮遊培養の長所であるスケーラビリティや自動化、制御を組み合わせた方式と言えます。

コーニングの研究開発チームでは、何年も前から独自のイノベーションのプロセスを駆使して、こうしたお客様のニーズに応えてきました。このプロセスは、お客様との親密な関係づくりが起点となります。つまり、お客様側の研究者との緊密な連携により、お客様が抱える課題、悩み、要望を把握することから始まるのです。コーニングのフィールドアプリケーションサイエンティスト、営業担当者、サイエンティフィックサポートチームが情報を収集し、お客様の生産性を向上させるうえで、課題は何か、何がネックになっているのかを協議します。次に、コーニングが何十年にもわたって蓄積してきた材料科学のノウハウと、細胞生物学・細胞挙動に対する深い知識を生かし、候補となるソリューションを開発していきます。

コーニングのエンジニアや研究者は、「どうすれば細胞の表面接着が効率化するのか」「細胞の健康状態や生産性を確保しながら細胞密度を飛躍的に高めるには、どうすればいいのか」「お客様の技術転換を最小限に抑えながら、研究室レベルから商用規模へと生産をスケールアップするには、どうすればいいのか」といった問題に取り組みながら、有望なソリューションを見極めるべく、さまざまな可能性を模索します。ブレインストーミングを重ねた末に、設計プロトタイプの内部試験を実施してから、協働先のお客様に試用していただき、課題解決につながる要素、お客様のワークフローへの適合状況、改善点について意見・要望をいただきます。

開発サイクル全体を通して、このプロセスを繰り返していきます。製品設計のゴールが見えてきたところで、コーニングのチームは、この新開発の製品やコンポーネントの一貫性と再現性の試験に軸足を移します。この結果に基づき、当初の設計に修正や変更を加えることもあります。もちろん、この修正や変更も、社内試験とお客様による試験で検証します。何よりも大切なのは、お客様ごとのニーズを把握したうえで、製品の製造設計に反映させることです。

コーニングでは、このプロセスの合理化・改良を進める際にエンジニアリングモデルを活用しています。これにより、測定可能で制御可能な性能に確実に到達する製品設計が可能になります。社内チームとお客様の間でリアルタイムにフィードバックをやり取りするループを回していくことで、製品独自の価値が確認できるだけでなく、お客様との関係強化や信頼醸成、最終製品に対する習熟度向上にもつながります。

性能試験のためにプロトタイプを受け取ったお客様は、実際に自社のプロセスやシステムを適用して製品を検証します。コーニング ライフサイエンスは、多岐にわたるアプリケーション領域で科学研究や細胞製造をサポートしているため、アカデミアや産業界のパートナー各社とは違った視点から提案できることも多々あります。コーニングは、お客様との協働による相乗効果を引き出し、開発プロセスを通じて相互にプラスとなる関係を構築します。例えば、お客様からの情報提供に基づいて製品設計を見直すことにより、特定のプロセスでの課題が解消されたり、お客様のワークフローの改善点が特定しやすくなることもあります。このような流れは、製品設計にとどまらず、製造、品質、有効期間、保管条件にも当てはまり、結果としてコーニングとお客様、双方にとって有益な成果につながります。

これは、標準的な製品ライフサイクルでの継続的なプロセスです。製品発売後でも、新たに浮上した課題や改善の機会に対応するため、第2世代バージョンの開発がすでに進行中ということも少なくありません。製品の使用頻度が高まるにつれて、「あったら便利」と思える機能がわかってくると優先的に実装されるようになります。同様に、新たな技術や研究分野によって製品改良のアイデアやコンセプトも促進されます。

Corning® Ascent® Fixed Bed Bioreactor(FBR)システム(日本未発売)

この協働型プロセスの最近の成功事例としては、Ascent FBRシステム(日本未発売)の開発が挙げられます。この斬新な固定床バイオリアクタープラットフォームは、高い費用対効果で接着細胞を量産するという課題を解決するために開発されました。表面積の大幅増と高収率のバイオプロダクション能力を備え、ベンチトップでの同一プラットフォームで、プロセス開発から商用生産までのスケールに対応します。アルファテスト、ベータテストをお客様と共同で進める中で、重要な設計改良につながり、コントローラー、培地馴化容器、バイオリアクター容器、センサーを搭載した完全閉鎖系が誕生しました。

実はAscentシステム自体の独自機能の1つである、バイオリアクターの基質にPET製メッシュを使うというのも、短い期間でで開発サイクルを繰り返しながら誕生したものです。こうすることでリアクター全体に培地、栄養分、トランスフェクション試薬が均等に行き渡るため、細胞の均質な分布・増殖につながるほか、トランスフェクション率、細胞回収率、細胞生存率も向上します。直線的なスケーラビリティを備えた設計にするため、1 m2から1,000 m2まで幅広いサイズのバイオリアクターで同じ基質が使われています。

お客様の課題の中には、柔軟性向上の要望もありましたが、これもこの開発プロセスで解決につながりました。その結果、生幹細胞の回収能力を含め、複数のベクタータイプや細胞タイプに対応可能になりました。回収能力はシードトレインのアプリケーションにも有用です。

結びに代えて

お客様との協働体制は、材料科学や細胞生物学に関するコーニングの経験や知見とともに、このような洗練された細胞培養系の構築に不可欠であり、今後も、さらに大規模なAscent PilotシステムやAscent Productionシステム(2023年に米国で市場投入予定)の最終開発段階で重要な役割を担います。

では、なぜこうした手法がコーニングで効果を発揮しているのでしょうか。それは企業文化がなせるわざなのです。コーニングは、研究開発投資を背景としたイノベーションやお客様との緊密な関係づくりという伝統を守り続けています。今もその伝統は絶えることなく、継続的なイノベーションに取り組み、お客様との緊密な関係づくりを優先的に進めています。だからこそ、このようなお客様とともに育む環境が見事に機能しているのです。

コーニングは、一世紀近くにわたって細胞培養のリーダーの座を守り続けてきました。さまざまな細胞タイプが存在し、タイプごとに要件が異なるという繊細な性質があることを理解しています。さらに、材料科学を基盤とする企業として、それぞれの素材ならではの特性を生かし、個々のニーズに応える方法にも精通しています。こうした要素が1つとなって、斬新な製品設計のエンジニアリングが可能になり、細胞の増殖、機能、生産性に理想的な環境を維持しながら接着細胞培養のスケールアップをサポートしています。コーニングは、さまざまな業界を守備範囲に、研究開発や生産に関して幅広い知識基盤を育み、豊かな経験を重ねていることに加え、人々の人生を大きく変える医学的ブレークスルーへの情熱も相まって、今日の成功へとつながっています。