Stem Cell Cryopreservation | Corning

細胞や組織を超低温下で保存する凍結保存は、一般的に用いられている手法です。Integrative Medicine Researchが解説しているように、凍結保存法では生細胞の構造的完全性が維持されるため、凍結保存状態から解凍すると再び機能するようになります。コーニングのフィールドアプリケーションサイエンティストであるTom Bongiorno博士は、人工多能性幹細胞株(iPS細胞株)などの幹細胞を用いた研究に凍結保存が適していると説明します。しかし、こうした細胞は極めて感受性が高いとも、同博士は指摘します。凍結保存は慎重に処理しなければ、分化の誘発や生存率の低下を招くことがあります。

約4℃の低温で多くの生物学的プロセスが停止しますが、Frontiers in MedicineのGene and Cell Therapy誌は、凍結保存に用いられるような超低温が、いかに長期保存に適しているのか説明しています。−130℃以下の保存温度では、細胞活性が完全に抑制されるため、こうした条件下での安全な保存に適した各種実験器具があります。凍結保存した細胞や組織の長期保存、場合によっては無期限保存は、移植や受精、幹細胞に関わる療法など、多くの細胞療法に利点があります。

 

凍結保存の基本

凍結保存のプロセスは、主に4つのステップで構成されます。

  1. 組織や細胞を選定し、通常、凍結や解凍のプロセスで凍結損傷を回避するために凍結保護剤(CPA)を混合します。CPAは、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール(EG)、グリセロールなどを含有し、通常は液体で、比較的容易に細胞に浸透します。理想的には、無毒性か低毒性が求められます。CPAは、凍結段階で氷晶形成を最小限に抑えることにより、細胞を凍結損傷から保護します。

Bongiorno博士は、どの細胞にもDMSOが最適とは限らないとしたうえで、「対象となる幹細胞タイプを完全に特徴付けして、何が適しているのか把握しておくことが大切です。そこで既存の文献を参照して、研究対象の細胞に最適なCPAを見つけましょう」と助言します。

また、幹細胞株の最終用途を考慮することも大切です。Genetic Engineering Newsは、T細胞の保存には、その後の処理に適した低毒性CPAが必要と指摘しています。

2. 試料にCPAを混合したら、保管のために凍結します。BMC Biology誌は、2つの一般的な凍結プロセスについて解説しています。1つめは、細胞内部の氷晶形成を防ぐため、Corning® CoolCell®など、制御された環境で時間をかけて凍結する緩慢凍結法です。もう1つは、試料の溶液を液体窒素に浸漬して急速冷却することにより、短時間でガラス化状態にする凍結法です。ここでもBongiorno博士は、対象の細胞についてできる限り理解を深めることが大切だとしたうえで、胚性幹細胞(ES細胞)の場合には特殊なCPAを使ったガラス化凍結法のほうが適しているとアドバイスします。

3. 試料を解凍して使用する際、細胞損傷を防ぐため、試料の融解速度を制御することが重要です。

4. 最終ステップは、最適な細胞を回収するため、微量に残っているCPAももれなく除去する作業です。Corning X-WASH™システム(日本未発売)などの装置であれば、機能的に閉鎖系で安全に細胞を洗浄・回収するため、ハイスループット処理へのスケールアップに役立ちます。間葉系幹細胞を融解した際、X-WASHシステムでは、クライオバイアル内で10,000 ppmだったDMSO濃度が、洗浄後には約200 ppmまで減少しました。

細胞療法での長期保存に適した凍結保存

細胞療法を成功させるには、保存期間を延長できるかどうかが極めて重要と考えられます。凍結保存は、有効期間を延長できるだけでなく、細胞数増加へのスケールアップにもつながります。

凍結保存法の利用についてBongiorno博士は、細胞培養の「一時停止」と表現します。末梢血単核球(PBMC)の使用を例に挙げると、血液試料の採取や、当該タイプの細胞を単離する際、さらには増殖に先立ってのiPSへの初期化後に至るまで、調製の各段階で凍結保存法が利用できます。

幹細胞ワークフローに凍結保存を利用すると、細胞療法開発で遭遇しがちな特性評価やスケールアップの問題を軽減できる利点があります。凍結保存は、このような領域で柔軟性のある予定管理を可能にします。

スケジュールに柔軟性が生まれれば、特に臨床処理に役立ちます。プロセスの開始や停止が可能になると、無駄が減るだけでなく、専用施設の利用状況も最適化できます。例えば、製造施設の空き状況に合わせて細胞生産を一時的に停止できることは、大きな利点です。

試験に柔軟性があるということは、フルスケール製造に移行する前に、プロセスの最適化やバリデーションが可能になります。アプリケーションは、事前に試験が必要になることも少なくありません。候補となる細胞株の品質をスケールアップ前に検証できるため、貴重なリソースを節約できるだけでなく、治療に適した細胞株バンクの構築も可能になります。

細胞療法に十分な量を確保するうえでスケールアップと拡大培養は不可欠ですが、すべて一斉に準備を整えるにはコツがいります。例えば、研究・開発段階では、どのくらいの細胞が必要になるのか正確な予測は困難です。このような場合、凍結保存しておけば、将来的に必要に応じてストックからスケールアップし、拡大できるようになります。また、スケジュールに柔軟性が生まれると、サプライチェーンのトラブルによる供給遅延といった問題にも対応しやすくなります。ストックを一旦凍結保存しておき、それ以外の材料や器具などがすべて揃ったところで細胞増殖に着手できます。

凍結保存技術は進化を続けています。組織移植、細胞能力を活用した再生医療、創薬スクリーニングのためのオルガノイドなど、さまざまなアプリケーションで細胞生存率を高めるためのプロセス改良に向けて、研究が進められています。幹細胞治療では、研究や技術革新の最新動向を常に把握しておくことが不可欠です。まだ研究すべきことは残っていますが、将来的には分化後の細胞を凍結保存できるようになるとBongiorno博士は見ています。