細胞療法での長期保存に適した凍結保存
細胞療法を成功させるには、保存期間を延長できるかどうかが極めて重要と考えられます。凍結保存は、有効期間を延長できるだけでなく、細胞数増加へのスケールアップにもつながります。
凍結保存法の利用についてBongiorno博士は、細胞培養の「一時停止」と表現します。末梢血単核球(PBMC)の使用を例に挙げると、血液試料の採取や、当該タイプの細胞を単離する際、さらには増殖に先立ってのiPSへの初期化後に至るまで、調製の各段階で凍結保存法が利用できます。
幹細胞ワークフローに凍結保存を利用すると、細胞療法開発で遭遇しがちな特性評価やスケールアップの問題を軽減できる利点があります。凍結保存は、このような領域で柔軟性のある予定管理を可能にします。
スケジュールに柔軟性が生まれれば、特に臨床処理に役立ちます。プロセスの開始や停止が可能になると、無駄が減るだけでなく、専用施設の利用状況も最適化できます。例えば、製造施設の空き状況に合わせて細胞生産を一時的に停止できることは、大きな利点です。
試験に柔軟性があるということは、フルスケール製造に移行する前に、プロセスの最適化やバリデーションが可能になります。アプリケーションは、事前に試験が必要になることも少なくありません。候補となる細胞株の品質をスケールアップ前に検証できるため、貴重なリソースを節約できるだけでなく、治療に適した細胞株バンクの構築も可能になります。
細胞療法に十分な量を確保するうえでスケールアップと拡大培養は不可欠ですが、すべて一斉に準備を整えるにはコツがいります。例えば、研究・開発段階では、どのくらいの細胞が必要になるのか正確な予測は困難です。このような場合、凍結保存しておけば、将来的に必要に応じてストックからスケールアップし、拡大できるようになります。また、スケジュールに柔軟性が生まれると、サプライチェーンのトラブルによる供給遅延といった問題にも対応しやすくなります。ストックを一旦凍結保存しておき、それ以外の材料や器具などがすべて揃ったところで細胞増殖に着手できます。
凍結保存技術は進化を続けています。組織移植、細胞能力を活用した再生医療、創薬スクリーニングのためのオルガノイドなど、さまざまなアプリケーションで細胞生存率を高めるためのプロセス改良に向けて、研究が進められています。幹細胞治療では、研究や技術革新の最新動向を常に把握しておくことが不可欠です。まだ研究すべきことは残っていますが、将来的には分化後の細胞を凍結保存できるようになるとBongiorno博士は見ています。