細胞凍結保存ガイド

細胞凍結保存は、細胞株を仮死状態に置くことで、生物学的時間を効果的に止めることができます。SF世界のように思われるかもしれませんが、凍結保存は細胞培養の基本的なプロセスであり、非常に高い精度と細心の注意が求められる綿密なプロセスです。

細胞の凍結保存のステップバイステップガイド

細胞の凍結保存には注意が必要です。では、細胞の凍結保存はどのように進めるのでしょうか。ステップごとに分けて説明します。

ステップ1:細胞の選定

細胞が最良と考えられる状態にあり、対数増殖期の終わりに近づいた時期が凍結保存に最適なタイミングです。凍結前に80%以上コンフルエントな状態であることを確認し、微生物コンタミネーションの徴候が見られないか培養細胞を入念に調べます。検査前に抗生物質不含培地で培養して数代継代しておくと、それまで検出できなかったようなコンタミネーションが検出できるレベルになります。

サンプルを顕微鏡で調べてから、細菌、酵母菌、真菌、マイコプラズマがいないか直接培養法で検査します。マイコプラズマは検査すり抜けなどの特有の問題があり、凍結後に再び培養ストックの検査が必要です。

ステップ2:細胞の回収

細胞タイプごとに適切な手順で、できる限り丁寧に細胞を回収します。最適な凍結濃度に調整します。低濃度では生存率が低下し、高濃度では細胞の凝集が起こる可能性があります。

細胞を回収したら、細胞に損傷を与える恐れのある剥離剤を洗い流すか不活化します。どうしても必要な場合以外は、遠心機の使用を避けます。やむなく使用する場合は、ゆるいペレットが形成される程度の遠心にとどめてください。

回収した培養容器の中身はプールし、最終的な凍結ストックの均一性を確保します。細胞懸濁液は、所望の濃度の2倍になるように、希釈または濃縮します。

細胞代謝を遅らせて凝集を防止するために、細胞は冷却してください。pHがアルカリ性にならないようにする必要がある場合には、二酸化炭素を充填します。

ステップ3:細胞の保存

凍結保存中の細胞損傷を防止(少なくとも最低限に抑制)するには、適切な凍結保護剤(CPA)を選定することが大切です。適切な保管容器を選ぶことも重要です。容器の選択を誤ると、怪我、容器の損傷、凍結ストックのコンタミネーションや損失など、さまざまなリスクが生じます。

最もよく使用されるクライオジェニック保存容器は、Corning® 凍結保存バッグやポリプロピレン製スクリューキャップ付きのCorning 内ネジおよび外ネジクライオジェニックバイアルです。

ステップ4:細胞の冷却

冷却速度は乱れなく一定の速度を維持する必要があります。また、速度は速すぎると細胞が脱水するのに必要な時間を確保できません。逆に遅すぎると今度は細胞が脱水によるダメージを受けてしまいます。ほとんどの動物細胞培養では、-80℃に達するまで安定的に毎分1°C~3°C降下するのが理想的な冷却速度です。大型あるいは透過性の低い細胞は脱水に時間がかかるため、冷却速度をさらに遅くする必要があります。

プログラム可能な電子冷却装置を使用している研究室もあります。これは凍結プロセスを正確に制御できるため、均一で再現性のある結果が得られます。機械式の冷却装置は、手ごろな価格ながら十分にプロセスを制御できます。細胞を理想的な冷却速度で凍結できるCorning CoolCell® アルコールフリー細胞凍結容器の使用もおすすめです。

ステップ5:細胞の保存

細胞が凍結したら、次の作業は素早く行います。ドライアイスか液体窒素を詰めた断熱コンテナで凍結ストックを永久保管庫に運びます。バイアルの温度上昇や細胞への損傷を回避するには、スピードが重要です。

ほとんどの細胞培養研究室では温度を-140℃以下に保つために液体窒素フリーザーを使用しています。一時的に温度が上昇するだけでも、細胞に損傷を与えかねません。

ステップ6:細胞の融解

細胞は徐々に冷却する必要があります。一方で、細胞融解時はこれとは逆に速やかに行います。細胞が再水和する際、細胞損傷の原因となる氷晶が細胞内に形成されますが、急速融解によってこの形成を抑えることができます。

容器を温浴し、軽くかき混ぜて小さな氷の粒が残る程度に融解します。エタノールでスプレーし、フード内に置くうちに、細胞は完全に融解します。ほとんどの細胞は、37°C、60~90秒間の融解で最良の結果が得られます。

ステップ7:細胞の回復

細胞が長時間、凍結保護剤に曝露されると損傷の原因になるため、なるべく迅速に、しかも丁寧に、細胞から凍結保護剤を取り除きます。凍結保護剤の除去方法は、保護剤のタイプと細胞タイプによって異なります。

例えば、凍結保護剤に対する感受性の高い細胞であれば、低速の遠心で保護剤を除去する必要があります。凍結保護剤にグリセロールを使う場合、融解した細胞懸濁液に大量の新鮮培地を急激に加えると、細胞の損傷や破壊を招く恐れがあります。このような事態を回避するため、同量の温めた培地を10分おきに数回に分けて加えて段階的に希釈し、細胞が適応する時間を確保してから、必要な処理を行います。

通常、融解から6~8時間以内に培地交換で凍結保護剤が除去されれば、ほとんどの細胞は正常に回復します。適切に保存されていれば、凍結細胞のメンテナンスはほぼ不要で、コンタミネーションや過失で細胞培養を失ってしまった場合のバックアップになります。凍結した培養細胞は、仮死状態にあり、生物学的変異を最小限に抑えられることから、特に長期実験に有効です。

凍結保存のアプリケーション

凍結保存のアプリケーション

凍結保存は、実験室以外でも役立ちます。以下のような場面で広く使用されています:

  • 農業バイオテクノロジー: 凍結保存は、果物や野菜を長期保存するための手頃な方法であり、遺伝子組み換えのリスクを低減します。
  • バイオバンキング: 凍結保存は、バイオテクノロジー研究や医薬品開発で使用される生物学的サンプルや細胞株の長期保存をサポートします。
  • 再生医療: 幹細胞の凍結保存は、細胞の再生能力を保持し、損傷した組織の再生や新しい医療治療法の開発に役立ちます。
  • 生殖医療: 精子、卵子、卵巣組織、卵巣細胞の凍結保存は、人工授精や体外受精を促進します。
  • 組織工学: 凍結保存は、組織工学で使用される人工組織や足場を保護します。このプロセスは、将来の移植や潜在的な治療用途をサポートします。

凍結保存の課題とトラブルシューティング

利点がある一方で、凍結保存にはいくつかの課題が存在します:

  • 氷結晶: 凍結時の氷結晶の形成はよく見られますが、結晶は細胞の構造や膜を損傷し、細胞の生存性を損なう可能性があります。氷結晶の形成を減らすために正しい凍結方法を使用します。
  • 細胞内氷晶の発生: 一部の細胞は細胞内氷晶に対して脆弱であり、細胞の生存性が低下します。過剰な細胞内氷晶は脱水や細胞膜の損傷を引き起こす可能性があります。決められた凍結保存プロトコールや手法を用いることで細胞を保護します。
  • 凍結保護剤: 高濃度の凍結保護剤は毒性を持ち、細胞の機能性や生存性を低下させる可能性があります。凍結保存の成功のためには、凍結保護剤の濃度を慎重にバランスさせ、低い毒性を維持する必要があります。
  • 融解: 不適切な融解は細胞の機能性や生存性を低下させます。細胞を保護するために正しい融解方法を使用します。

凍結保存はさまざまな科学的研究に不可欠です。アプリケーションの幅が広がるにつれて、プロセスの複雑さや課題を理解することがさらに重要になります。