The Cost and Practicality of Scaling Up and Out in Cell and Gene Therapeutics: An Interview With Mike O’Mara | Corning

以下は、2022年9月16日にRegMedNetに掲載された記事を翻訳したものです。

自動化は治療薬製造の効率化にどこまで寄与するのでしょうか。今回はスケールアップとスケールアウトのコストや実用性を左右する要因について、CDMO(医薬品開発製造受託機関)であるCellipont Bioservices(本社・米国カリフォルニア州)のCOO(最高執行責任者)(2022年時点)、Mike O’Mara氏に聞きました。製造、サプライチェーン、品質保証、品質管理に30年以上の経験があるMike O’Mara氏は、経験豊富なパートナーとの知識共有のメリットについて光を当てます。

この10年間の細胞・遺伝子治療産業の拡大をどのようにご覧になっていますか。また、そこからどのような新たな課題が持ち上がっているのでしょうか。

この産業は、過去10年に参入企業数、技術、総合的な規制上の成熟度の面で大きな成長が見られました。現在、承認された細胞・遺伝子治療薬は20種を超え、業界としては、新規の先端的な細胞・遺伝子治療製品の承認に向けて力を注いでいます。この成長に伴って、私たちが直面している課題の中でも最大のものは、人材確保です。最近参加した会議でも、人材募集でこの領域の経験がある適材を見つけるのが難しいとの声が、委託元のスポンサー企業、委託先のCDMOの双方から聞かれました。

自動化は治療薬製造の効率化にどこまで寄与するのでしょうか。

細胞治療の場合、スケールアップには上限があります。これは、培養容器から細胞回収にかかる時間が、培養細胞の生存に直接影響するからです。ひとたびこの上限に達したら、あとはスケールアウトに切り替えることになります。スケールアウトの目的は、製造コストを低く維持するために必要な設置面積を最小限に抑えることにあります。例えば、Tフラスコは、細胞治療薬製造で定番の培養容器でした。必要な細胞数が増えるほど、Tフラスコの数も増えていきます。それが一定の数に達すると、それ以上フラスコを増やし続けるのは、コストや労働力、設置スペースなど多くの理由から非効率になります。この重大な分岐点に到達したら、Corning® HYPERStack® 36段などの多層型容器に移行する手があります。これは、最大でT-175培養フラスコ102個分と同等の表面積を持ち、作業の手間と設置スペースを大幅に削減できます。

コーニング ライフサイエンスのような経験豊富なメーカーと提携した場合、スケールアップをどのように支援してもらえるのでしょうか。

信頼できるメーカーと率直なやりとりを通じて、双方向の意思疎通ルートを維持でき、常に新しい技術やプラットフォームの動向もいち早く把握できるようになります。当社は最近、Corning Ascent® Fixed Bed Bioreactor(FBR)システム(日本未発売)のベータテストに参加する機会を得ました。これは、接着細胞の培養に関わるスケーラビリティと人件費の課題に対処するためにコーニングが開発したプラットフォームです。私たちは、細胞・遺伝子治療薬製造に関して、当社クライアント企業が抱えている現行のニーズや、将来的に必要になると見られる事項をコーニング側にフィードバックしています。

他のSME(内容領域専門家)型バイオサービスからはどのように教訓を得て、その学びをどのように応用しているのでしょうか。

メーカー側から見れば、パートナーと連携して、対策が必要な業界の欠落部分やニーズをあぶり出せることは好例ではないでしょうか。Corning Ascent FBRシステムの検証はまさにそういうケースに当たります。このシステムは、HYPERStackテクノロジーならではのコンパクトな設置面積と大きな表面積に、バイオリアクターの正確なプロセス制御を組み合わせています。また、閉鎖系のため、グレードC、場合によってはグレードDも含め、清浄度の低い環境でも運用できます。コーニングは、この業界のお客様と連携しながら、上流のバイオプロダクションでの具体的な問題点を発見して解決したこともあります。

マスター細胞バンク(MCB)にはどのような課題があるのでしょうか。最終的な製造スケールについて、どのような点に注意すべきでしょうか。

マスター細胞バンクの課題は、出発材料です。つまり、バンク構築に先立って、こうした細胞について、どこまで深く理解しているのか、そして見つけようとしている特性を決定するためにどのような試験を実施すべきなのか、ということです。場合によっては、マスター細胞バンクを使用するプロセスの成否に、ドナー間のばらつきが関与することもあります。プロセスのステップが細胞増殖速度によって変化することがわかっていますが、これはドナー間でばらつきがあります。

研究スケールから商用スケールまでで、品質保証・品質管理のプロセスはどのように違ってくるのでしょうか。

学術研究プロセスと商用プロセスの大きな違いは、プロセスの実態について、しっかりと理解されていて、はっきりと特徴が把握されているかどうかにあります。商用プロセスでは、重要品質特性と重要工程パラメーターが策定済みですが、学術研究プロセスでは、まだ定義や策定が進められている段階です。商用生産に入ると、膨大な量の各種データに加え、プロセス特性評価、プロセスパフォーマンス適格性評価があります。データ、特性評価、プロセスパフォーマンス適格性評価により、想定患者を対象とした製剤が一貫して製造できるプロセスかどうかがわかります。

大バッチサイズ製造の承認を取得するうえで、時間と行動の面からどのように評価できるでしょうか。

ほとんどの細胞治療は、個別患者の治療に用いられるため、スケールは比較的小規模にとどまり、スケールアップよりもスケールアウトが適しています。しかし、スケールアウトの際、多くのことを並行して実行しなければならないため、研究室が大きな鍵を握ります。具体的には、適応症に必要な量を製造するための原料受け入れやバッチ記録レビューが挙げられます。他家細胞治療の場合、どこかでスケールアップする必要が出てきますが、それでも量は非常に小さく、200Lを下回ります。こうしたケースでは、その量を処理するのに必要な単位作業時間が壁になります。時間がかかればかかるほど、生存率に及ぼす影響も大きくなるからです。

ほかにも薬剤製造コストを左右する要素があります。生産施設の立地が米国の西海岸なのか東海岸なのか、それとも欧州なのかでコストに差が出ますが、プロセスを閉鎖系にすれば、生産施設建設コストの削減につながります。プロセスがすでに閉鎖系になっているのなら、清浄度がグレードAやBである必要はなく、グレードC、場合によってはグレードDでも製造は可能です。また、低グレード区域ではガウニング(更衣)要件が緩和されるため、運用コストも削減できます。往路(採取〜製剤)・復路(出荷〜投与)ともに凍結保存の製品か、往路・復路ともに冷蔵保存の製品かといった点も影響があります。リリース、検査、出荷の際、凍結保存の製品のほうが自由度は高くなります。冷蔵製品の場合、特に採取地と受け渡し・出荷のタイミングに関して、複雑なサプライチェーンや受け渡しに関わる課題を抱えやすくなります。

輸送容器や施設スペースなど考慮しなければならない物流上の課題には、どのようなものがありますか。また、商用スケールに際しどの程度前もって検討しておくべきなのでしょうか。

開発・製造プロセスを確立することと同様に、サプライチェーン最終ステップの評価作業も重要です。第I相試験のプロトコール立案の段階には、細胞・遺伝子領域の知識が豊富な専門ロジスティクス業者との関係づくりをお勧めします。そういう業者であれば、輸送上の適切なソリューション、輸送システムで使用する技術、輸送経路選定への対応について助言してくれます。グローバルな規模での治験を検討している場合、国別の手引きや許認可に基づいて指針細胞治療薬を対象国に輸送する際の必要事項も指導してもらえます。Cellipontは、主要事業者との関係を構築しているため、そのパイプを駆使して当社クライアントのニーズにお応えします。こうした事業者の多くは、訪問時に温度設定済みの適切な輸送用容器を準備しており、検体や薬剤をそのまますぐに梱包できるため、CDMOやスポンサー企業の倉庫スペースを節約できます。

今後5年間に、細胞・遺伝子治療のスケールアッププロセスはどのようになっているとお考えですか。

この領域は、高度な自動化と閉鎖系移行が進んでおり、スケーラビリティのニーズに応じた新しい技術やプラットフォームの開発が活発です。特に接着細胞を使用した他家細胞治療製品に関しては、スケールアップの開発期間を最小限に抑えたいというニーズがあります。

Mike O’Mara:細胞治療薬・遺伝子組み換え治療薬に特化したCDMO(医薬品開発製造受託機関)、Cellipont Bioservices(本社・米国カリフォルニア州)のCOO(最高執行責任者)(2022年時点)。製造、サプライチェーン、品質保証、品質管理の分野での経験は30年以上に及ぶ業界のベテラン。Miltenyi Biotec(本社・独ベルギッシュグラッドバッハ)傘下でレンチウイルスベクターや細胞治療薬の製造を専門に手がけるCDMO事業部、BioIndustry of North America担当バイスプレジデントを歴任。それ以前には、Cytovance(本社・米国オクラホマ州)の製造事業担当シニアバイスプレジデント。米メリーランド大学卒(微生物学専攻)。

 

本インタビューは、RegMedNetの「In Focus」(特集)でスケールアップとスケールアウトをテーマにした記事の1つとして実施しました。このテーマに関する専門的な見解は、RegMedNetの当該特集のページをご覧ください。