The Intersection of Art and Science: Q&A With Dr. Joseph Regan

アートとサイエンス。あたかも対立概念のように語られることも多いこの2つ。本当にそうなのでしょうか。

こうした考え方を否定するのは、Joseph Regan博士です。生物学者でアーティストでもある同博士は、コーニングのお客様でもあり、コーニングと共同で限定版のポスターシリーズの制作も手がけています。そんなRegan博士は、創造性が研究室での実験に刺激を与え、その逆もまた真なりと言います。複雑な3Dオルガノイドの研究に打ち込むときも、学会誌の表紙用に細胞のイメージをカラフルに彩るときも、アートとサイエンスのぶつかり合いが一番刺激的と博士は言います。

「一般に、アートとサイエンスはまったく別の領域にはっきりと分かれていると思われているようですが、実はアーティストもサイエンティストも、何かを創り出したりイノベーションを起こしたりするプロセスは、非常に似通っています。アーティストとサイエンティストが同じ心理的特性を持ち、多くの分野に対して幅広い関心を持つ博学である傾向が強いと、多くの研究で指摘されています」とベルリンで活動するRegan博士は説明します。

また、研究室の外でも、写真撮影から文芸、音楽まで、クリエイティブな趣味や仕事に打ち込んでいる研究者も少なくないそうです。アルベルト・アインシュタインはバイオリンを嗜み、カール・ユングは視覚芸術に熱中、ノーベル化学賞に輝いた理論化学者ロアルド・ホフマンは戯曲や詩の創作を趣味にしています。このように2つの分野に関心を持つことと、研究に対する理解促進との関連を示唆する事例は決して珍しくありません。

Regan博士が説明します。「カメラが発明されるまでは、生物学者と言えば、腕利きの芸術家でした。自然界の目録化や研究には、鉛筆と絵筆と紙を駆使するしかなかったからです。こうした追求の中で生まれた見事な芸術作品は、展覧会や書籍出版の形で広く世の中に普及しています。例えば、17世紀に(昆虫や植物の)イラストを発表したマリア・ジビーラ・メーリアンは『科学の美しさを引き出した女性』として名を馳せました」

今や最新技術でこうした表現をデジタル化できるようになり、Regan博士を始め、新世代のアーティスト兼サイエンティストが生まれています。Regan博士の作品は、免疫蛍光法と共焦点顕微鏡法で生成した画像がベースで、色彩豊かな手法で生命の基本成分を表現しています。特に、Corning® マトリゲル基底膜マトリックスで作製したオルガノイドを表現したRegan博士の作品は、サイエンスアートの展覧会に出品されているほか、「アートとサイエンス」の観点からオルガノイドをあしらったコーニングのポスターシリーズのテーマとなっています。

Regan博士の作品は、世界各地で出版されるなど高い知名度を誇ります。そこで、制作過程や関心分野のほか、アートとサイエンスと生命の相互の関係について研究者に知っておいてほしいことなどをRegan博士に聞きました。

研究にオルガノイドを使い始めるきっかけは何だったのですか。また、オルガノイドの一番の魅力はどこにありますか。

ロンドンのInstitute of Cancer Researchで博士課程在籍中に初めてオルガノイドを使った実験を経験しました。当時、細胞系譜の階層性や、乳腺発達中・乳腺がん時の幹細胞自己複製・分化の調節メカニズムを研究していました。その研究では、異なる細胞タイプの予期的分離と機能的特徴づけを目的に、細胞タイプ特異的な細胞表面マーカーとFACS(蛍光標識細胞分取)の組み合わせを使用していました。

マトリゲル基底膜マトリックスに単一細胞を播種し、オルガノイドとしての成長・形態を観察することで、分離した細胞タイプ間の表現型の違いを判定できました。オルガノイドは、in vivoでの細胞挙動を忠実に再現し、乳汁産生さえも可能な多系統の「ミニ乳腺」を形成しました。

これを初めて顕微鏡で観察したとき、ヒト生物学への理解を深めるうえで、とてつもなく大きな可能性があると気づいたんです。それに、その知見から治療法への橋渡しとなるモデルにもなります。これはもう驚きの一言で心底感激しました。その気持ちは今も変わりませんね。

このような形のサイエンティフィックアートの魅力はどこにありますか。また、これも仕事にしようと考えた決め手は何ですか。

生物学者としては、研究対象の典型的な姿を写真に収める術は身につけていますが、こうした画像の美的な側面をとことん強調したいという芸術的な衝動もあります。私の場合、この“鏡の国”にたびたび迷い込んでしまうようで、美しい姿を観察したり生み出したりする楽しさだけでは飽き足らず、必要以上に大量の写真を撮ってしまうんです。

そういうこともあって、何千時間も顕微鏡を覗き込んでは、数え切れないほどの免疫蛍光顕微鏡写真を撮影するのですが、学術誌の投稿に使われるのは、そのうちのわずか数点なんです。しかも、その数点の画像でさえ、ほとんどの場合、同じ領域の研究に従事する研究者仲間の目に触れるだけでおしまいです。

こういう画像をもっと多くの人々に見てもらいたいという気持ちはいつも心の片隅にありました。そんなとき、ベルリンの画廊からアートとサイエンスの結び付きを探る展覧会を開催しないかとオファーをもらったり、コーニング ライフサイエンスからはポスターシリーズ制作の企画が舞い込んだりしたのは、本当に思いがけない幸運でした。

アートとサイエンスはどのように影響し合うと思いますか。

アートの世界で創造性を発揮する方法を知ることは、サイエンスの世界で創造性を発揮する手助けになるし、その逆もあると思います。また、研究上の問題を認識したり、その解決策に斬新なアイデアをひらめいたりする際には、直感力も大きな役割を担います。一般に、アートやサイエンスに限らず、幅広い興味を持ち経験を積んで、そうしたさまざまな事柄の間にはっきり認識できる斬新な関係性を生み出す能力があれば、新しいアイデアで問題解決を図る大きな助けとなります。

アート作品制作には、どのような手法を使っているのですか。

マトリゲル培養でオルガノイドの研究に長年従事する中で、私が編み出した蛍光免疫染色法を使って画像を生成します。オルガノイドをホルムアルデヒドで固定してから、Triton X-100という薬品で透過処理します。それから、免疫蛍光染色した一次抗体・二次抗体、DNAを標識する色素でインキュベーションのステップをいくつか経た後、スライドガラスに乗せて共焦点レーザー走査顕微鏡で視覚化します。

ハッとするほどの美しさですが、画像にどういう処理を加えているのですか。

画像に写っているオルガノイドの形態には手を加えていません。細胞内の分子成分を抗体で染色して、可視スペクトル上のさまざまな波長のレーザーで励起して、共焦点顕微鏡で画像化すると、蛍光シグナルが観察されます。この仕組みでさまざまな色が現れるのです。

研究目的では、通常、違いをはっきり観察できるように最もコントラストの高い色が使われます。しかし、私のアート制作では、色を変えたうえで、画像ファイルを撮影後の編集作業に回します。本来の色とは違うかもしれませんが、ポスターの画像は、共焦点顕微鏡でオルガノイドを観察したときの本来の見え方に非常に近いものです(バックグラウンドのレーザー光からグローは取り除いています)。

これらのポスターのプリントはお持ちですか。

もちろんです。額に入れてオフィスに飾ってあります。いい出来栄えです。制作した作品とそこに込めた「サイエンスの真髄が生み出す想像力」というメッセージが伝わるようにコーニングがうまくまとめてくれたんです。

ポスターに関しては世界中の同僚や研究者からの評判も上々で、励みになる声が届いており、驚いています。特に誇らしいのは、コーニングから提示されたポスターのコンセプトなんです。これは、この1年間、パンデミックと戦いながらワクチン開発に取り組んできた研究者たちのイノベーションと信じがたいほどの苦労に敬意を表するものです。

こうしたアート作品を通じて科学界に伝えたいことは何ですか。

科学的な発見への道のりは長く、失敗の連続ということも珍しくありません。その道のりで、研究者というものは、日々の研究につきものの技術的な枝葉末節にこだわるがあまりに立ち往生してしまうことがあり、ときとして、研究上のイノベーションや発見に必要な想像力とか独創性といったものが置き去りにされているなと感じることがあります。

「偉大なる科学者は、芸術家でもある」と語ったのは、アルベルト・アインシュタインです。 私が制作した画像とコーニングが展開するポスターシリーズをきっかけに、研究者の創造性が認められていて、研究者もアーティストであることに気づいてほしいですね。