Adherent Cell Culture Basics: Cell Seeding, Expanding, and Harvesting | Corning

細胞培養は手間のかかる作業です。高度に専門的なプロセスのため、特定の由来の細胞を別の場所で操作する場合、コンタミネーションから増殖不振まで失敗の可能性は多岐にわたります

一方で、素晴らしい成果もあげています。接着細胞培養実験は、100年以上も前から、現代医学の中でいくつもの画期的な進歩に寄与し、がんなどの疾患に対する理解促進や、安全で有効な治療法の開発支援につながっています。

幸いなことに、in vitro培養の先駆者Ross Harrison氏が、ガラスのスライド上でカエルの組織を分析していた1900年代初頭に比べれば、現在の培養に関する知識ははるかに豊かになっています。本ガイドでは、細胞の播種、拡大培養、回収などの培養法を始め、生体細胞を相手に格闘してきた100年以上の歴史から得られた細胞培養の基本をご紹介します。

凍結保存状態からの細胞播種

培養細胞株を購入する場合、製品は長期的な細胞生存率の維持を目的に凍結保存された状態で提供されます。この状態の細胞を播種するには、まず凍結融解が必要になります。ただし、たとえ早く融解できるとしても、急な融解は禁物。それでも、この重要なステップが往々にして急ぎで進められ、ときにはないがしろにされることもあります。これではコンタミネーションのリスクが生じ、細胞に必要とされる良好な無菌状態を最初から確保できないことになります。

細胞播種プロセスの正しい方法をご紹介します。

  • 実験用品・消耗品の準備:凍結保存バイアル、温水を満たしたビーカーかウォーターバス、あらかじめ平衡化した培地の入ったフラスコが必要です。また、細胞を遠心してDMSOなどの凍結保護剤を取り除く場合は、培地を満たしたコニカルバイアルも必要になります。
  • バイアルの加温:ビーカーに張った温水の中に凍結保存バイアルをつけ、静かに回すように振りながら、中身がほぼ融解状態になるのを待ちます。次に、バイアルをアルコールワイプできれいに拭き、コンタミネーションのリスクを抑えます。
  • 細胞の播種:クライオバイアルからピペットで細胞を取り出し、フラスコに移します。次にフラスコの溶液をピペット操作で混合し、播種しやすい環境にします。これで細胞の融解、移し替えが終わり、インキュベート(または遠心によるDMSO除去)の準備が整うことになります。

細胞拡大培養でスケールアップ

細胞のスケールアップの段階に入ったら、適切な細胞拡大培養法が必要になります。細胞拡大培養は、細胞培養に必要な過程であり、効率と一貫性の両方が重視されます。非効率なワークフローで作業をしていると、消耗品コストや人件費がかさみやすくなります。一貫性に欠けるワークフローでは、細胞に過度のストレスがかかり、死滅させる恐れもあります。

適切なバランスは、選定する容器によって変わってきます。ライフサイエンス系の研究現場の場合、Corning® HYPERFlask® などの多層型容器であれば、限られたスペースで増殖を促進するのに適した条件を整える一助になるだけでなく、作業の負担やコンタミネーションのリスクを抑えることもできます。

容器によって培養面積は異なるため、通常、研究現場では容器選定や試薬量決定の際、1 cm2当たりの細胞収率に基づいて検討します。そのうえで、シードトレインを実験に必要な細胞数になるまで、一貫性を損なうことなく拡大培養を実行します。増殖を最適化させるには、次のように1 cm2当たりの細胞数(cells/cm2)と1 cm2当たりの試薬量(mL/cm2)の比率を同一に保ちます。

  • 容器ごとの細胞数は、次の式で計算します。[(1 cm2当たりの目標細胞数)*(容器の培養面積cm2)]
  • 容器ごとの培地量は、次の式で計算します。[(1 cm2当たりの目標培地量 mL/cm2)*(容器の培養面積cm2)]。最適な細胞増殖とガス拡散のためには、ほとんどのアプリケーションで1 cm2当たり0.2 mL〜0.5 mLの培地が必要です。

培養した接着細胞の回収

顕微鏡で表面全体に細胞が単層に増えているのが確認されたら、回収できる状態になったと考えられます。このとき、一般的には化学的手段か物理的手段で細胞を剥離します。

解離試薬を使った化学的剥離法の場合、試薬で細胞が悪影響を受けないように、細胞タイプやアプリケーションに合わせて最適化する必要があります。一方、セルスクレーパーを使用した物理的剥離法は、接着が強く、解離試薬への感受性が高すぎる細胞に最適です。また、ダウンストリームのアプリケーションや、解離試薬が実験に影響するかどうか、影響する場合、どの程度の影響があるのかも考慮します。

解離試薬を使用する場合、ピペットを使って以下の手順で無菌的に実行します。

  • フラスコから培地を取り除きます。
  • フラスコにPBS(リン酸緩衝食塩水)などの緩衝液を加え、解離剤に干渉しかねない微量の血清を除去します。容器を静かに揺らして内部の溶液を均等にならします。剥離しにくい細胞株は、10分〜15分ほど浸しておきます。緩衝液を取り除きます。
  • 0.02〜0.03 mL/cm2の解離試薬を加えます。細胞株や解離試薬によって違いはありますが、容器を37°Cでインキュベートして解離を促進します。
  • 細胞にまとまりが見られ、凝集の一歩手前になったら準備が整った証拠です。その様子は、ちょうどたくさんの星でいっぱいの夜空のように見えます。液体の混濁は、細胞が脱離して回収準備が整ったことを示す兆候です。
  • 解離試薬に緩衝液か血清含有培地を通常1:1の割合で加えて希釈します。ピペッティングを数回繰り返してから、溶液全体を取り出してチューブに移します。
  • 試薬への感受性が特に高い細胞の場合は、遠心機にかけます。

これで細胞のカウントが可能になりました。細胞密度と生存率を測定します。

目的に合った細胞培養にするために

接着細胞培養は、実験法やダウンストリームのアプリケーションの面で新次元への扉を開くきっかけになり、楽しみも増えます。しかし、生細胞の操作には多くのリスクが伴うため、正しく作業を進めることが大切です。ここに挙げた基本的なアドバイスを守り、さらに洗練されたプロトコールを自ら生み出していけば、たちまち細胞培養のプロに成長できるはずです。