3D細胞培養は新しいがん研究にどう適するのか
Sherman氏によると、3D細胞培養は、in vivo条件を忠実に再現できることから、がん治療の最先端研究に非常に適しています。「がん研究で特に大きな共通点としては、できるだけ生体を的確に再現できるように、生理学的に最も関連性の高いモデルを構築したいという意向があることです」(Sherman氏)
Sherman氏は、顧客からのフィードバックを基に、3D細胞培養技術が新たながん研究に不可欠であると確信しており、次のように語ります。「特に驚いているのは、患者と、患者由来組織を培養したオルガノイドの双方からの生検サンプルを比較した研究者から、組織学的特徴の共通点が頻繁に報告されていることです。治療への患者の反応を判定する際、こうしたオルガノイドの予測性の高さを示す文献も多数あります」
3D細胞培養では、この正常組織構造との類似性があることによって、生理学的関連性が高い挙動を示すがんモデルを作り出すことができます。新しいがん研究では、増殖に影響しやすい支持細胞に囲まれたin situでの腫瘍の挙動、薬剤への反応、宿主免疫系を調べられるようになっています。さらに、OoC技術を生かした薬物毒性スクリーニングにより、腫瘍のほか、肝臓など他の臓器系統への影響がわかります。
またSherman氏は、3D細胞培養が従来の方式に比べて、時間とコストの節減にもつながると指摘します。「結局、ユーザーがin vivo環境の再現に最良のモデルを構築することと、再現性、コスト、スループットの面で実験目標を達成することを両立するには、どのようなツールが役立つかという点に尽きます」とSherman氏。
特に、3D細胞培養ソリューションは、AACR 2022で取り上げられたがん治療領域での重要な最新動向である個別化医療、早期診断、バイオマーカー探索、創薬を支援します。
個別化医療
患者由来腫瘍オルガノイド(PDTO)を使った3D細胞培養物を作製することにより、特異的腫瘍マーカーの特定や、個々の患者に合わせた治療法候補の評価が可能になります。ハイスループット方式の採用で、薬効評価や薬物毒性の試験が迅速化します。
早期診断とバイオマーカー探索
生理学的に関連性の高い微小環境での腫瘍の挙動が調査できるということは、研究者にとっては、増殖に影響を及ぼす要因や化学療法に対するがんの反応が把握できることを意味します。3D細胞培養は、腫瘍タイプと不均一性をin vitroに正確に反映します。
創薬
オルガノイドのバイオプリンティングとOoC技術の組み合わせにより、一貫性のあるハイスループットスクリーニング方式が可能になり、生理学的に関連性の高い微小環境での化学療法試験や毒性試験の迅速化につながります。
がん研究・モデリング領域での3D細胞培養の今後の動きとは
Sherman氏は次のように語ります。「このところ個別化医療が大きな話題になっています。一部のがんタイプでは、薬剤に対する患者の反応が大きく異なることがわかっています。患者個人にとって最良の治療法を決定するため、その患者の自家細胞を増殖させるという考え方が大きな関心を集めています」
さらに、オルガノイドは患者由来のため、これまで光の当たらなかった希少がん患者が、診断的・臨床的な検討の機会を逸することもなくなります。
コーニングは2022年、ニューヨークシティでバーチャル3D細胞培養サミットを開催しました。Sherman氏は、コーニングのお客様の多くから寄せられている話として、しかるべき患者にしかるべき治療法を届け、はるかに良好なアウトカムを得る取り組みが、オルガノイドモデルのおかげで以前より正確に進められるようになったと話しています。
この点についてSherman氏は、「将来のがん研究やがん治療にとって大きな成果」と説明します。
もちろん将来を予測することは容易ではありません。しかしながら、3D細胞培養技術の進歩やがん治療の最新動向を背景に、今後のがんモデルに求められるニーズが予測しやすくなりました。
Sherman氏は、「オルガノイドモデルのさらなる高度化と再現性向上が、今後の方向性だと思います」としたうえで、次のように続けます。「具体的には、治療での個別化医療の推進という面もありますし、あるいは薬剤試験用のライブラリーを多様化し、多種多様な集団に対する薬剤の反応について理解を深めることも考えられます」
これを現実のものとするため、コーニングでは、オルガノイド培養用のマトリゲル基底膜マトリックスやスフェロイドマイクロプレートなど、先進の3D細胞培養ツールを引き続き供給し、がん研究の新たな進展に向けて取り組んでいます。進展状況の詳細については、e-book『How to Get Started in 3D Cell Culture』をご覧ください。