Allogeneic Cell Therapy: Options To Scale Up | Corning

他家細胞治療薬(同種細胞治療薬)業界が原理証明実験の段階を超えて、ヒト臨床試験へと歩を進める中、スポンサーの行手には、大量の細胞培養という大きな課題が待ち構えています。

例えば、間葉系幹細胞治療薬の場合、患者に投与する単一用量でも、必要な細胞数は数億個以上になります。細胞自体が産物であり、この産物が下流工程を経て患者集団全体に届けられるため、細胞の生態を維持しつつスケールアップできる方法を見つけることが不可欠です。

コーニング ライフサイエンスの事業開発マネージャー、Angel Garcia Martin博士(Ph.D.、MBA)によれば、これは長い間実現が困難とされてきました。初期段階の細胞治療薬研究に用いられた培養技術は、研究室スケールの生産には問題なく対応できましたが、臨床段階になると、そこまでうまく対応できません。このことは、特に接着細胞に当てはまります。

「他家細胞治療薬に必要なスケールになると、とたんに手に負えなくなる可能性があります。開発者は、膨大な量の細胞を生産できるプラットフォームを考える必要があります。一部の細胞株は浮遊細胞培養に対応できるよう適応されていますが、ほとんどの細胞は基質に接着して増殖する必要があります。このような接着細胞に対して必要なスループットを実現できる優れた技術は、つい最近までは皆無でした」とGarcia Martin博士。

スケールアップの課題に挑む

Garcia Martin博士が「つい最近までは」と言ったとおり、新たな動きがありました。優れた費用対効果で大量の細胞の生産・回収を効率的に実現するCorning® Ascent® Fixed Bed Bioreactor(FBR)システム(日本未発売)が誕生したのです。従来のFBR(固定床リアクター)でも接着細胞の培養には対応できていましたが、リアクターから直接細胞を回収できない点が問題でした。これは回収を必要としない一部の細胞ベースの産物には利用できますが、自家・他家細胞治療薬には適していません。最終的に細胞を効果的に回収する必要があるからです。

Garcia Martin博士は次のように語ります。「Ascent FBRシステムでは、基質に接着する細胞の生態が維持されます。実際にシステムから細胞を回収して使用できることは、大きな利点です」

それに加えて、Garcia Martin博士はもう1つの利点としてカスタマイズ性を挙げています。Ascent FBRプラットフォームは、細胞の生態の違いにも十分に適応できる柔軟性を備えており、目まぐるしく進化する幹細胞治療薬の世界では、これが重要な鍵を握っています。例えば、コーニングでは、FBRのメッシュ基材の表面コーティングと各生物製剤との適合性を判定するための実験を実施しています。増殖が難しい細胞と環境との相互作用を向上させるには、特別な条件が必要になりますが、Garcia Martin博士によれば、このような実験を重ねることで増殖の難しい細胞にも対応できるようになります。

「ときには、基質への接着について特別な工夫が必要な細胞もあります。具体的には、ラミニンやフィブロネクチン、一部のコラーゲンなどです。しかし、当社の実験では、これも対処可能であることがわかっており、Ascentのカスタマイズ性の良さが際立つ結果となっています」

スケールアップ自動化の運用上の利点

細胞タイプの中では増殖・維持がほかの細胞タイプと比べてわずかに容易とされるMSC(間葉系幹細胞)など、幹細胞を利用した治療薬開発に従事する研究者の間では、Ascent FBRシステムが大きな関心を集めており、Garcia Martin博士はこの反響に手応えを感じています。というのも、こうした産物のFIH(ファーストインヒューマン)試験が近づくと、多くのスポンサーが市場参入の遅れにつながりかねない生産上のネックに気づくようになるからです。なお、Ascent FBRシステムは、遺伝子治療など他領域でも有用性があると考えられます。

バイオリアクターは、元来自動化が可能で、技術的に利点(pHや酸素のモニタリング機能など)があり、運用面の利点も発揮されます。材料コストや必要な人員数を抑えられるため、こうしたアプリケーションで大きな効果を生む可能性があります。

「研究室で培養作業に必要な人員数を削減できるのは、大きなメリット」とGarcia Martin博士は言います。

持続可能なシードチェーンの構築

研究者は、第I相試験からの他家細胞治療薬のシードチェーンのデザインや実施について、常に先を見据えておく必要があります。ほとんどの研究室は、初期段階の実験であればバイオリアクターなしでも進められますが、投与量の飛躍的な増加が見込まれるのであれば、Corning® CellSTACK®容器などの多層型容器から、Ascent FBRシステムへの移行について考えておくべきとGarcia Martin博士は助言します。

「1用量当たりの必要細胞数や、臨床試験で必要な投与量から逆算して考えるのが一番。通常、第I相試験では患者数もそれほど多くなく、量産型のソリューションがなくても乗り切ることができます。現在の市場は、まさにこのような状況にあります。しかし、第II相・第III相試験となると、バイオリアクターなしには十分な細胞を生産できません」とGarcia Martin博士。

このような事情からGarcia Martin博士は、第I相試験を計画して、第II相以降で求められるスケールを考える際に、Ascent FBRプラットフォームの検討を推奨しています。新薬承認については規制面のハードルが高く、IND(新薬臨床試験開始届)提出時点で、プロセスを強化しておくことが望ましいと言えます。つまり、十分に余裕のあるスケジュールで、スケール変更の計画を立てておくことにほかなりません。何しろ、幹細胞治療薬の世界では、生産は一筋縄でいかない難題なのです。早めの計画づくりは、問題や遅れの回避につながります。

幹細胞治療の可能性を探る

このプレイブックでは、幹細胞研究および細胞治療製造における状況の変化と、新しいソリューションがより効果的かつ効率的なワークフローの新時代をどのように促進したかを、コーニングの専門家に探ってもらいました。

このe-bookのレビュー:

  • 幹細胞のアプリケーションと治療
  • 細胞の品質に影響を与える要因
  • スケールアップ戦略による拡大障壁の打破
  • 幹細胞イノベーションを最大限に活用するために
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