がん研究というキャリアを考える

数十年前は、がん研究の仕事のありようは今とはまったく違っていました。当時の研究者は、がんを1つの疾患と捉え、その治療法の最前線を追い求めていました。

今日では、がんは100以上の疾患を総称するものと認識されており、研究者はそれぞれの疾患の予防・診断・治療に向けて、革新的な手法の開発に取り組んでいます。しかし、科学は立ち止まってはいません。画期的な研究を推し進めることに関心を寄せる研究者にとって、がん研究の世界は可能性に満ちあふれています。

この研究領域の進展に伴い、研究者の活動範囲もまた広がっており、がん研究者としての仕事にも数多くの道があります。

なぜがん研究なのか、なぜ今なのか

がん研究は、研究分野の違いを超えて、研究者を惹きつけます。そしてその理由はさまざまです。おそらく最も一般的な理由は、他人事で済まされない切実な問題と受け止められているからでしょう。

米国がん協会によれば、生涯にがんに罹患するリスクは、男性で40%、女性で39%に及びます。たくさんの人々の人生に関わる領域に貢献できることに、多くの研究者がやりがいを感じています。特にトランスレーショナルリサーチに参画し、研究成果を臨床に応用することは、研究者にとっては喜びなのです。

またがん研究は、多種多様な研究領域の関心に応える側面もあり、今は特にそう言えます。Dana-Farber Cancer Instituteによれば、分子レベルでがんの理解が深まる中、遺伝子治療や免疫療法などの領域で研究に参画する新たなチャネルが生まれていて、どれも個別化医療に発展する可能性を秘めています。

また、Institute of Cancer Researchによると、がん研究の新しい最先端領域には、これまでにない分析やイメージング、データセットが伴うため、STEM(科学・技術・工学・数学)というエコシステムのさまざまな分野に裏打ちされた多様なスキルの研究者が求められています。例えば、Science誌は、がんの新たな研究領域では、今後ますます数学的なスキルが求められる点を強調しています。しかし、がん研究の新領域の魅力を生み出しているこのような特徴は、同時にハードルを高める要因にもなっています。がん研究の現場では、新たな職務が増えた結果、これに対応するスキルを持った研究者の確保に追われていますが、こうしたスキルは引く手あまたとあって、研究者は少しでも報酬のいい業界に流れても不思議ではありません。例えば、データサイエンスに長けた人材であれば、銀行業界や保険業界の方が高収入を期待できます。がん研究に対する国の財政支援がインフレに追いついていないことも一因とScience誌は報じています。

もちろん、がん研究のあらゆる仕事が、低賃金で過酷な長時間労働などと言うつもりはありません。大手製薬会社の採用条件を見ると、賃金面でのインセンティブこそ大きいかもしれませんが、その反面、学術的な好奇心をそそる要素は限られるなど、妥協が必要になります。そこで自分に合ったキャリアパスを見つけられるように、選択肢を慎重に検討することが大切です。

最初の足がかり

がん研究に関心があっても、手始めにどこをめざすべきなのかわからないという方もいるはずです。そんなときは、米国国立がん研究所指定の総合がんセンターを狙ってみてはいかがでしょうか。ここで実施されているプログラムの多くは、博士研究員対象の各種賞、専門トレーニング、実証実験などを通じて、細胞、臨床、疫学などの研究分野を支援しています。ただし、NCIのプログラムや助成金は、競争も厳しいと言われます。別の道として、乳がん研究基金など非営利団体でのポジションに応募する手もあります。

どの道に進むにせよ、オープンな姿勢を持ち続けることが大切です。特に、がん研究のようにやりがいのある領域に取り組んでいると、それまで思いもしなかった自分の情熱に気づくかもしれません。