ゲノムワイドCRISPRスクリーニングで探るがんの生物学的特性
2012年にCRISPR-Cas9システムが初めて遺伝子編集に使われて以来、研究者にとってはCRISPRのおかげでゲノム操作の能力や柔軟性が高まり、ライフサイエンス研究の多くの領域で大変革がもたらされました。CRISPR-Cas9により、機能的な遺伝子ノックアウトが可能になり、各種CRISPR技術により、遺伝子の機能獲得、発現上昇、発現低下などの操作が可能となっています。
CRISPRによる遺伝子編集とスフェロイド培養物を組み合わせることで、がん細胞のゲノムワイドスクリーニングを実施できます。研究者にとっては、この組み合わせにより、生理学的関連性の高い3D培養モデル使用して、遺伝子ノックアウトや遺伝子調節の効果をゲノムスケールで研究することができ、2D培養物では検出可能な効果が見られなかった新たながんドライバー遺伝子の発見が可能になります。
スタンフォード大学の研究グループは、2D単層と3Dスフェロイドのそれぞれで増殖させた肺腺がん細胞について、ゲノムワイドCRISPRスクリーニングを実施しました。その結果、2Dスクリーニングと比較して、3Dスフェロイドのスクリーニングは、がんで変異しやすい増殖促進遺伝子を多く見つけることができることがわかりました。同研究チームは、スフェロイドスクリーニングを使い、3Dがんドライバー遺伝子であるとともに潜在的な創薬ターゲット・予後マーカーとなる遺伝子のCPD(カルボキシペプチダーゼD)を特定しました。
ほかにも、スフェロイドに対するCRISPRスクリーニングで肺がん、前立腺がん、その他のがんの生物学的特性を研究する研究チームもあります。
スクリーニングのためのスフェロイド大量作製の検討
CRISPRスクリーニングの場合、研究室で、均一性・予測性を損なうことなく高品質のがんスフェロイドを大スケールで作製する必要があります。昨今の実験技術の進展を受け、高品質スフェロイドの作製が容易になり、このタイプの研究への予算投入が可能になった研究室が増えています。
すでに研究者の間では、さまざまなスフェロイド培養方法が開発されています。超低接着表面のフラスコ、スピナーフラスコ、バイオリアクターで細胞を強制的に浮遊培養させることで、スフェロイド形成を促進できます。しかし、こうした方法では、スフェロイドのサイズの制御や均一性の確保が課題になります。超低接着表面のウェルプレートであれば、スフェロイドサイズを制御できますが、1つのウェルで1個のスフェロイドしか作製できず、スケールアップは困難です。
Corning® Elplasia® プレートのようなマルチウェルのマイクロキャビティプレートでは、ウェルごとに最大で数千個のスフェロイド作製が可能です。このようなプレートはシグナルの増幅や、ウェル当たりのイメージングデータポイント数の増加につながる一方、初期播種密度の変更によってスフェロイドサイズや組成を制御できます。マイクロキャビティプレートのおかげで、特殊装置を用意する必要がないため、より多くの研究室でスフェロイドスクリーニングが可能になります。
スフェロイド大量作製を支える新製品
コーニングは、Elplasia プレートのほかにも、Elplasia 12Kフラスコ、Elplasia 12K オープンウェルプレートなど、スフェロイド大量作製に適したマイクロキャビティ製品を取りそろえています。
Elplasia マイクロキャビティプレートには、6ウェル〜384ウェルのマイクロプレートと同様の各種フォーマットがあり、ウェル当たり79個〜2,885個のスフェロイドを作製できます。また、明視野観察法や蛍光顕微鏡に適合し、プレートでの直接イメージングが容易になります。研究室でこうした製品の導入を検討している場合、Elplasia プレートの無料サンプルをリクエストしてください。簡単なリクエストフォームに必要事項を記入いただければ、コーニング担当者もしくは販売代理店からご連絡を差し上げます。
研究現場では、がんとの闘いに向けた研究が続いており、今後、この領域での新たな進展やブレークスルーが起こることは間違いありません。スフェロイドのアプリケーションや技術に関する詳細については、コーニングのウェブサイトをご覧いただくか、テクニカルサポートにお問い合わせください。