Stem Cell Source Impacts Cancer Treatment and Other Therapies

幹細胞ソースの影響を受けるがん細胞などの治療法
ひとくちに間葉系幹細胞(MSC)と言っても、すべてが同じように作られるわけではありません。MSCの主なソースはいくつかあり、治療の成否に及ぼす各ソースの影響を考慮することが大切です。ソースは、細胞の機能性に影響を及ぼすことがあり、がん治療など、さまざまな臨床応用の最終目標だけでなく、治療用量へのスケールアップにも影響しかねません。コーニングのシニアアプリケーションサイエンティストであるHilary Sherman氏は、幹細胞ソース選定の際にこのような最終目標を考慮することが重要とアドバイスします。

治療のための幹細胞

Stem Cells Translational Medicine誌によれば、幹細胞治療は、移植片対宿主病(GvHD)の処置やクローン病に伴う痔瘻の治療に有効であることが臨床的に証明されています。他の病態に関するバリデーションにはさらなる臨床試験による有効性の証明が必要ですが、一般的に、治療へのMSC利用は安全性があり、患者への高い忍容性が認められています。

幹細胞治療は多くの病状の処置において治療の要となり得る大きな可能性を秘めています。Stem Cell Therapy誌では、研究が活発な領域として、パーキンソン病、MS(多発性硬化症)、ALS(筋萎縮性側索硬化症)、糖尿病、黄斑変性症、脊髄損傷などの神経変性疾患を挙げられています。歯科やがん治療でも幹細胞治療の利用に関心が集まっています。BioMed Research International誌には、標的腫瘍抑制やがん幹細胞への作用によるがん治療で、MSCが有用であるとの言及があります。

これまでの研究で、各治療用途に免疫調節、抗炎症作用、局所再生効果といったMSCの機能を生かして、再生医療の成果をあげていることが示されています。治療対象の状態や臨床的成功への細胞自体の寄与度が、ソース選定に相当な影響を及ぼす可能性があります。例えば、がん治療では、主病態の治療にとどまらず、治療によって腫瘍増殖が促進されることのないようにすることが大切です。

幹細胞ソース:臍帯由来か骨髄由来か

再生医療に使われる幹細胞は、ソースによって優位性が異なります。例えば、Nature誌掲載の論文によれば、ヒト臍帯由来MSC(HUCMSC)は、骨髄から採取される従来のMSC(骨髄間質細胞、BMSC)と比べ、軟骨形成能が高いことが認められます。

ソースの違いによる適合性研究は、まだ揺籃期にありますが、いくつかのケースでは、特定のソースを選ぶことに有用性があります。Sherman氏は、ヒト臍帯由来MSCや他の胎盤由来MSCの方が、増殖能が高い傾向があると指摘します。BMSCに比べると、いわば「若い」細胞のため、培養細胞数が多くなり、連続継代に伴う変化に対する抵抗性も強くなるのです。また、採取もはるかに容易です。採取元の組織は、出生時廃棄物と考えられているからです。

採取がはるかに容易であることに加え、HUCMSCや胎児関連MSCの方が培養の寿命が長くなります。BMSCの方が研究が進んでおり、実験データも多く入手できますが、HUCMSCに関する初期の研究では、幹細胞治療において、より優れた抗炎症作用が示唆されています。

MSCのソースの選び方

採取の容易性: Sherman氏は、採取の容易性や、意図した治療が自家か同種間(他家)かを考慮すべきと助言します。例えば、HUCMSCや他の胎児関連幹細胞は採取が比較的容易であるものの、採取のタイミングから考えれば、自家治療には利用できないことになります。BMSCは治療法の有効な選択肢ですが、回収に当たっては、骨髄腔に穿孔するために全身麻酔が必要です。採取術後の回復は時間がかかり、苦痛を伴います。

治療の成果と最終目標: 治療の成果と最終目標:最終目標を把握し、疾患の経過や、MSC治療が治療成功にどのように寄与できるのかも理解しておく必要があります。有効性を確保するためには、MSCが特定の細胞タイプに順調に分化するか、サイトカインや細胞活性調節因子など、周囲組織に治療的に作用する因子を分泌するか、直接接触で宿主細胞作用に影響を及ぼすかのいずれかが不可欠です。

スケールアップに向けた細胞の特性を検討: Sherman氏は、十分な細胞の採取に伴う問題を回避するため、最初から細胞の特徴付けを行うようアドバイスします。培養条件について先行研究を参照することに加え、MSCソースの増殖特性を把握しておくことも重要です。細胞の機能性が重要なだけでなく、増殖能からMSC培養スケールアップの難易度もわかります。

Stem Cells Translational Medicine誌に掲載された治験914件に関する2020年のレビューによれば、平均有効範囲は用量当たり1億〜1億5000万個のMSCであることが明らかになりました。静脈投与したMSCは、急速に消滅するため、頻回投与が必要になります。MSC培養によって達成可能な密度範囲が異なるため、適切な細胞量に達する正しい培養プロセスを計画するうえで必要な細胞数を把握しておく必要があります。

継代を重ねると有益な細胞特性の損失につながるなど、培養条件はMSCの機能に影響することが多いため、細胞集団の増殖特性を生かすことが大切です。Corning HYPERテクノロジープラットフォームなど大容量システムを使用すると、胎児骨髄をソースとする正常機能のMSCを十分な数に達するまで効率的に培養できます。どちらも、HYPERStack 36段システムでの培養が成功しており、胎児関連由来の場合で10億個、骨髄由来の場合で8億7000万個のMSC収量を実現しています。

細胞治療でのMSC利用に関心が高まる中、大量の高品質細胞に対するニーズが今後も増え続ける見通しであることは、データからも見て取れます。コーニングでは、さまざまな細胞タイプやアプリケーションを対象に細胞スケールアップを支援しています。こうしたソリューションの詳細やコーニング営業担当者へのご相談は、弊社までお問い合わせください。