2024年春、米国で牛肉の生産量が減少しているのを受け、牛肉不足につながり、結果として価格高騰に発展する可能性があると警鐘を鳴らす声が専門家の間で上がり始めました。牛肉生産量の減少は、食品業界への影響にとどまらず、ライフサイエンス業界で広く使われているウシ胎児血清(FBS)など、牛肉生産の副産物の流通にも影響が及んでいます。そのため、目下のFBS減少と将来的に予想されるFBS不足に対処するため、研究機関やバイオプロダクション企業は、血清の供給確保に向けて今から対策を講じておくことが求められます。
専門家の間で牛肉の供給逼迫が続くと予測されている理由
米国農務省(USDA)が先ごろ発表した見通しによれば、2025年の牛肉生産量は2024年に比べて約5%減となる可能性があり、この減少傾向は今後数年間続くと見られています。実際、2023年1月の肉用牛の在庫量は、前年比3.6%の減少となりました。米農業局連盟(AFBF)によると、現在の牛肉生産量の減少は、長年の肉用牛飼養頭数の縮小が招いたもので、米国の飼養頭数は1951年以降で最低水準となっています。
この減少は微々たるものに感じられるかもしれませんが、コーニング ライフサイエンスの培地・血清事業担当ディレクターで、国際血清産業協会(ISIA)現理事も務めるMark Koza氏は、次のように説明しています。「肉用牛飼養頭数5%減という予測なら、大したことはなさそうだと思われるかもしれませんが、FBS生産量が30%〜50%の減少となる見通しである点を強調しておかねばなりません。それは、酪農家が加工用に出荷する牛と手元に残す牛の選別にこれまで以上に厳しくなるからです。これは極めて重要な問題で、将来的にFBSの安定供給を確保するために、ライフサイエンス業界としての早急な対応と戦略的な計画立案が求められます」
専門家は、牛肉供給逼迫の背景として、複数の州で進行する干ばつ 、先ごろテキサス州で発生した山火事、投入資材費の高騰、供給問題、これまで縮小傾向にあった飼養頭数規模の立て直しに向けた酪農家の取り組みなど、複数の要因を挙げています。
FBSの供給逼迫を背景とした計画立案のあり方
食品業界が、牛肉の供給逼迫がますます厳しくなると見ているように、血清産業にも同様の影響が及ぶ見通しです。さらに、FBSの需要拡大も、供給状況に一層の影響を及ぼす可能性があります。
ほぼ全ての研究室や生産ラインでは、小スケールの研究か大スケールのバイオプロダクションかを問わず、細胞培養のアプリケーションはFBSに依存しているため、FBS不足に陥れば、ライフサイエンス業界全体に著しい影響が及ぶことになります。ただし、FBSユーザーが供給確保のために今できる対策がいくつかあります。
FBS安定供給の確保策
現在だけでなく将来的にもFBSの安定供給確保に役立つ4つのヒントをご紹介します。
1.先を読んでFBSの主力サプライヤーと計画を立案する
血清の確保状況はサプライヤーによって異なります。例えば、自前の血清調達ルートのない供給に大きく依存するサプライヤーの場合、供給体制が市況の変化の影響を受けやすくなります。逆に、食肉処理場と直接の取引関係を築いているサプライヤーから供給を受けている研究室であれば、より安定した供給体制が確保でき、FBS不足に陥るリスクを抑えられます。
コーニングの培地・血清ビジネスオペレーションズ担当ディレクター、James Carver氏は、厳しい市場環境を乗り切る上でのパートナーシップの重要性を次のように強調しています。「実際のところ、天然物ですから、供給の観点から言えば、ある程度のばらつきや周期的な動きが付きものです。そこで、量や価格の面でこうした変動が生じないようにしてくれる供給元とパートナーシップを構築することが大切です」
コーニング ライフサイエンスのようなFBSサプライヤーは、米国内の主要な政府公認食肉処理場と長期的な供給保証契約を結び、垂直統合型の供給を構築しています。このような体制により安定供給が確保され、コーニングは、採血から処理、輸送に至るまで、すべての段階で手順と品質について厳格な管理体制を維持できています。
FBS供給をこれまで以上に確実にするため、現在取引している血清サプライヤーに、供給の完全な管理ができているかどうかを確認することをお勧めします。そのような体制が確立されていない場合、リスクを軽減し、FBS需要に対応可能な長期供給計画をサプライヤーとともに策定する必要があります。場合によっては、これを機会に、安定した供給を確立している他のサプライヤーを検討してもいいでしょう。
2.FBSのセカンドサプライヤーを検討する
すでにFBSの供給が縮小傾向にあり、FBS不足に陥ることも予想されるため、迷うことなくセカンドサプライヤーの精査・検討に取りかかる必要があります。問題が持ち上がる前に、FBSの有力なセカンドサプライヤーの調査と検証に取り組み、計画づくりにすぐに着手することが大切です。
コーニング ライフサイエンスのシニアプロダクトラインマネージャー、Tate Lavitt氏は次のように言います。「血清生産は食肉消費量に直接関係があり、畜産業からの動物供給の影響を受けます。私は、ISIA(国際血清産業協会)会員でもあり、研究者にとって畜産業とFBS供給のつながりが重要であることを知っています。ライフサイエンスの重要な研究を混乱から守るためには、潜在的なリスクとこれを緩和する戦略を考慮したうえで、検査と調達のスケジュールを策定することが不可欠です。その際、潤沢な備蓄を確保し、需給変動への対策ノウハウを持つ血清サプライヤーと協力することが、適切な出発点となります」
合理化された供給を構築し、確実な血清供給源から直接供給を受けているサプライヤーを選定します。セカンドサプライヤーの条件としては、お客様が円滑なプロセスの流れを確保し、製品の取り扱いの手間を削減できるように、全ての要件にもれなく対応できることが挙げられます。FBS需給の変動を考えると、セカンドサプライヤーと取引契約を結んでおくことは、実際に役立つ事前措置となります。
3.追加の原料原産地を承認する
現在、研究室で米国原産の血清だけを使用している場合、代替となる他地域原産血清の採用を認め、選択肢を広げておくことも検討して下さい。研究室で、追加の高品質な血清候補について確認しておけば、通常の米国原産品の供給が確保できない場合に代替品に切り替えることができます。
コーニングでは、US産 牛胎児血清に加え、AUS産 牛胎児血清とNZ産 牛胎児血清のほか、メキシコ原産や中米の特定国原産の厳選されたFBSを提供しています。非米国原産の血清はすべて、米国への輸入に際してUSDAの安全検査に合格し、食肉処理場まで完全に追跡できるトレーサビリティが保証されたものであり、さらに、コーニングの厳格な品質検査手続きを受けます。お客様の細胞培養ニーズに応じて、複数の処理方法(非働化処理、ガンマ線照射処理、活性炭処理によるFBS)が選択できます。
コーニングでは、血清テクニカルサポートチームとフィールドアプリケーションサイエンティストチームが、お客様に適したFBS候補のリストアップや使用目的に最適な製品の選定をきめ細かく支援します。また、研究用血清業界で数十年に及ぶ経験豊富な当社は、代替となる血清・原料の適格性検証による製品選定のほか、トラブルシューティング、スケールアップ、規制対応業務も支援しています。
4.備蓄戦略を策定する
FBSの有効期間は5年間のため、事前にFBSの大口注文をして、手元で保管しておくことも検討しましょう。あるいは、今後数年間のFBS使用予測をサプライヤーにあらかじめ伝えておき、必要な製品を予約する方法があるかどうかを確認してもいいでしょう。
コーニングでは、ロット予約ツールを用意しており、注文前に血清製品をテストできます。
コーニングとともに、先手を打った計画づくりを
牛肉業界の現状や今後の予想、さらには食料やFBSなど副産物の不足を考えると、今こそFBSの安定供給体制を整備・維持する時と言えます。各種FBSや他の血清製品のラインナップについては、コーニングのウェブサイトをご覧いただくか、直接お問い合わせください。