優れた細胞カウント性能を実現するクラウド型テクノロジー

研究者の声から生まれた自動セルカウンター。他製品とは一線を画する製品の開発背景を探ります。

従来の手動の細胞カウントでは、顕微鏡でサンプル中に存在する細胞を1つひとつもれなくカウントする必要があります。しかし、このような人手頼りの方法は、どうしても結果にムラが出やすい、再現性に乏しい、作業に時間がかかるといった問題が付きものです。今回、SelectScience®では、コーニング ライフサイエンスのプロダクトラインマネージャー、Alex Toomey氏をゲストに迎え、自動カウントを実現したCorning® セルカウンターの概要のほか、同製品がマニュアルカウントにありがちな問題を解消し、迅速、正確に再現性ある結果を導き出す仕組みについて聞きました。

本誌(以下SS):ご担当の職務について簡単にご紹介いただけますか。

Alex Toomey氏(以下AT): プロダクトラインマネージャーとして、イメージング製品、分子生物学ベンチトップ機器、プラスチック製の実験器具を担当しています。プロダクトラインマネージャーという仕事は、一種のビジネスオペレーション業務です。社内のあらゆる部門と連携しながら、製品やソリューションをエンドユーザーに提供します。コーニング ライフサイエンスに入社して3年近くになります。当初は、サイエンティフィックサポート部門に配属されました。

SS:マニュアル細胞カウントと自動細胞カウントの最大の違いは何でしょうか。

AT: マニュアルカウントは顕微鏡を覗きながら、サンプル内の細胞を1つひとつ数えていく従来型のカウント方式です。しかし今、自動細胞カウントの導入が広がっています。このグリッドライン入りの血球計算盤(図1)がマニュアルカウント方式の例です。まず、カウンティングチャンバーに10 μLの細胞懸濁液を注入します。次にグリッドの4つの区画ごとに細胞をすべてカウントし、続いて各区画の平均を求め、細胞濃度を特定します。

さらに、多くの場合、生細胞と死細胞のそれぞれの濃度も導き出します。その場合、細胞染色法で細胞の健康状態と増殖率をモニタリングする生存率測定を実施します。生存率とは、細胞集団のうち生細胞と死細胞の割合を指します。生存率のデータをモニタリングするのは、次工程となる下流のアプリケーションでこの細胞を使用する前に、懸濁液の健康状態を見極めておくためです。細胞カウントに使用する染色法で最も一般的なのがトリパンブルー(TB)で、死細胞に取り込まれる性質があります(図1でブルーに染色されているのが死細胞)が、この作業もマニュアルカウントの複雑さに拍車をかけています。

再現性を考えた場合、マニュアルカウントには少々曖昧な面があります。マニュアルカウントの場合、たとえきちんとトレーニングを受けた研究者2人がカウントしても、結果に差が出ることが多いです。このように、研究者ごとにカウント結果やそれに基づく計算結果が違ってきます。また、マニュアルカウントは自動カウントに比べてはるかに多くの手順が必要で、これもミスを誘発する原因になります。カウント結果に違いが出やすいことを考えると、自動セルカウンターへの移行を検討する価値があります。機械学習アルゴリズムにより計測するため、最短時間で最も再現性のある結果が得られるからです。

SS:自動細胞カウントの導入効果を教えてください。

AT: 大きく分けて3つあります。第1に自動カウントのスピード、第2に精度、そして第3に、長く使えば使うほど低コストになる点が挙げられます。 

  • 特にコロナ禍から日常生活に至るまで、最近は、世の中のあらゆる面で時間がものをいいます。どのような形にせよ、時間を節約できることは、研究現場にとってメリットとなります。具体的に言えば、マニュアルカウントの代わりに、カウントのアルゴリズムと直感的に操作可能なソフトウェアの組み合わせで、迅速に結果を導き出せるわけです。 
  • 2つ目の導入効果は精度です。レンズのフォーカスを設定しておけば、あとはカウントのたびに対象物に対して完璧な精度が確保されます。マニュアルカウントの場合、個々の研究者の細胞カウントに10%以上の誤差があるのはごく普通のことで、多くの場合、それで良しとされてきました。自動カウントはこのようなばらつきを抑え、誤差を低減します。
  • 3つ目が低コストです。コーニングのカウンティングチャンバーは使用後に洗浄して再利用可能です。コーニングのセルカウンターは、高さ0.1 mmであれば通常の血球計算盤や使い捨てチャンバーにも対応しているので、研究室の年間支出を大幅に押し上げる可能性があるシングルユースの使い捨てチャンバーは必要ありません。なお、クラウド上のストレージは購入時から無制限に設定されているため、今後、時系列でカウント結果を追跡する場合でもストレージの追加費用は不要です。

SS:Corning セルカウンターを使った場合、一般的な問題をどのように解消できるのですか。

ATコーニングの自動セルカウンターは、クラウド上の機械学習アルゴリズムに基づいて計測します。このため、研究者間で常に一貫したデータが得られます。実は、このクラウド型の技術は、個々のユーザーニーズに応じて改良したいというお客様の声から生まれたものです。さまざまな機能改良を重ねながら、自動セルカウンターを強化し、お客様のニーズに絶えずお応えすることができています。

例えば、ヒストグラム機能の追加もそんな取り組みの1つです。画面上でヒストグラムのタブを選ぶと、生細胞と死細胞の集団が確認できます。これはセルカウンターの発売当初にいただいたご要望で、追加費用なしで実装できます。ほかにも、追加機能としては希釈濃度計算機能があります。この機能は、下流工程での利用に当たってバッファーを何ミリリットル加えればいいのか、実験にどのくらいの量の細胞が必要なのかを算出できます。

2021年7月には、やはりお客様からの声を基に、Corning セルカウンターにオートフォーカス機能を搭載しました。操作は、「オートフォーカス」のアイコンを選び、使用するカウンティングチャンバーを選択するだけです。操作が終われば、チャンバーに注入した懸濁液に合わせて最適なコントラストを捉え、オートフォーカスのアルゴリズムに沿って視野がスキャンされます。

とはいえ、この領域では今後も新たな課題が持ち上がるでしょうから、コーニングのソリューションは製品ライフサイクルの中で改良していける設計になっています。

SS:Corning セルカウンターの際立った特長をわかりやすくまとめていただけますか。

AT: 今挙げたスピード、精度、低コストに付け加えるとすれば、クラウド型という点ですね。実際、お客様固有のニーズに合わせて対応できることがすでに裏付けられています。こうした追加機能によって、この装置の価値やスループットが大幅に向上しています。また、プロジェクトや実験の内容は、クラウド上のcloud.cytosmart.comでも閲覧できます。ちなみに、このリンク先はマイクロソフトのクラウドサービスであるMicrosoft Azureにホスティングされています。このクラウドを生かしたオプションは、リモートデータや無制限ストレージが利用できるため、やはり大きな利点と言えます。この製品を使って研究室で細胞をカウントした後、リモートアクセスで結果を確認するといったことが可能になるわけです。つまり、iPhoneやAndroid端末はもちろん、自宅のノートPCからもデータにアクセスできるのです。

SS:この領域は、今後、どのように展開すると見ていますか。

AT私が一番興味を持っているのは、オルガノイドカウント用ソフトウェアの開発です。2021年第4四半期に発売を予定しています。

3D培養の細胞回収時には、オルガノイドかスフェロイドか腫瘍オルガノイドのいずれかになります。CytoSMARTがCorning セルカウンター向けに開発しているソフトウェア拡張機能があるのですが、これを使えば、対象の3D細胞集団の外観・形状に基づいてデータを取得できます。例えば、3Dの姿が形態的に変則的か、または球状様の外観をしているかなどがわかるわけです。

球状ではないオルガノイドを扱っているお客様であれば、オルガノイドカウント用ソフトウェアのversion 1がお使いいただけます。これは、オルガノイド全体を全方向から捉え、表面積と濃度のデータを計測するよう設計されています。一方、アッセイで球状のスフェロイドを扱うお客様は、オルガノイドカウント用ソフトウェアのversion 2が適しています。こちらのバージョンは、細胞塊の球状部分の検出能力に優れています。

このように、クラウドを利用した自動カウント方式には大きなメリットがあり、この領域で実際に効果を発揮しています。そして、現在開発を進めている製品は、2D、3Dの細胞解析用のデータを取得できるなど、さまざまな分野に対応した製品です。

Corning セルカウンターの発売以来、短期間のうちに多数の改良を加えてきました。これを後押ししているのが、コーニングの販売チームや組織横断型チームの精力的な活動です。お客様のもとに出向き、さまざまな声に耳を傾け、自動細胞カウントに関連する次期ソリューションづくりに注力しています。