非ウイルス性の遺伝子導入法に関する研究の大部分では、2D細胞培養での遺伝子導入機構の解明に主眼が置かれています。しかし、Integrative Biology誌によれば、3D細胞培養での遺伝子導入に関わる細胞内機構はほとんど解明されていません。一部の研究では、細胞遊走と基質分解速度のバランスを取ることにより、3D培養での遺伝子導入効率が改善されることや、細胞と基質の相互作用を操作することで遺伝子導入が調節できることがわかっています。
トランスフェクションプロセスの改善を目指し、さまざまな3D細胞培養法の開発・研究が進められています。例えば、 Molecular Therapy: Nucleic Acids誌で2019年に発表された研究では、患者の骨髄由来の治療用細胞作製に非ウイルス法として、濃縮したmRNAを使用する方法を最適化しました。同研究では微小粒子を用いてmRNA複合体を導入しています。この結果、3D培養も含め培養状態の「細胞代謝活性とトランスフェクションの向上が可能になった」とMolecular Therapy誌では報告されています。
Scientific Reports誌に掲載された2018年の研究では、3D培養でsiRNAを用いて、標的遺伝子の長期的な発現抑制という課題の克服をめざしました。同研究グループによれば、従来の低血清培地で調製したsiRNAはマトリゲルを透過することができませんでしたが、標準の血清添加培地で形成・導入したsiRNAはマトリゲル、スフェロイド、オルガノイドを透過できることがわかりました。
トランスフェクションは、遺伝子治療・再生医療への応用に当たって、極めて重要な手順となります。その未来を語るうえで、3D培養細胞が重要な役割を担います。同時に、3D細胞培養法の発展は、プレシジョンメディシンや個別化医療の進展に欠かせません。