生存率を落とさない細胞凍結・融解 の秘訣

凍結保存は、細胞など生体材料を液体窒素(−196℃)に近い温度で保存する実験技術として確立されています。万一、培養中の細胞がコンタミネーションのために失われるようなことがあってもバックアップとなるほか、継代回数の少ない細胞を使用することで、長期培養による遺伝子変異の発生を最小限に抑えることができます。本記事では、生存率を落とさない細胞凍結・融解のベストプラクティスを解説します。

  1. 凍結前に細胞の健康状態をチェックする

    細胞は、継代を重ねると細胞特性が変化するため、少ない継代数で凍結するのが理想的です。細胞凍結前に、トリパンブルーなどを使った生死染色で生存率を確認し、無菌性評価やマイコプラズマ検査でコンタミネーションをチェックすることが大切です。

  2. 対数増殖期に適切な濃度で細胞を凍結する

    凍結の1〜2日前に細胞を継代するか増殖培地を交換することで、細胞が確実に健康な状態かつ増殖が活発な時期に凍結することができます。例えば、凍結用に回収する際、接着細胞がおよそ70〜80%のコンフルエントな状態にあるのが理想的です。細胞凍結時の濃度は培養ごとに異なりますが、一般的には凍結保存培地で1×106 cells/mL〜5×106 cells/mLです。凍結する際の細胞濃度は低すぎても高すぎても生存率に影響が及ぶ恐れがあるため注意が必要です。

  3. 最適な凍結保存培地を使用する

    一般的に凍結保存培地は、培養培地、DMSOやグリセロールなどの凍結保護剤、タンパク質源(通常は血清)で構成されます。凍結・融解プロセスでの細胞ストレスを防ぐには凍結保護剤が欠かせませんが、血清を除くことは可能です。血清を添加しない場合は、培地に無血清条件培地を用いたり、細胞培養グレードBSAを10%添加したりします。

  4. できるだけ早く凍結プロセスを開始する

    生存率を維持するには、凍結保存培地を細胞に添加したら、すぐに凍結プロセスを開始することが大切です。クライオバイアルを細胞凍結容器に移す前に氷の上に置くことで凍結を促進できます。

  5. 細胞は徐々に凍結する

    細胞は、内部に氷晶ができないように、徐々に凍結しなくてはなりません。そのためには、1分間に1℃ずつ温度を下げながら冷却できる細胞凍結容器を使用します。細胞を入れたクライオバイアルをセットしたら、−80℃で最低でも4時間、理想を言えば一晩そのままにしておきます。イソプロパノール不使用のシステムであれば、定期的なアルコール交換のコストや手間を回避でき、均一に凍結可能なため細胞生存率の維持につながります。

  6. 液体窒素タンクに移す前に凍結細胞ストックを確認する

    細胞が−80℃で凍結状態になったら、バイアルを1本使って、ストックの細胞が生存しているかどうか、コンタミネーションが発生していないかどうかを確認してから、残りを液体窒素タンクに移すといいでしょう。ただし、長時間、細胞を−80℃の環境に置いていると、細胞の健康状態に影響が出ることがあります。確認作業が完了したら、なるべく早く液体窒素に移しましょう。

  7. 細胞は液体窒素の気相で保存する

    細胞は、液体窒素がバイアル内に侵入しないように、液体窒素の気相で保存します。液体窒素が侵入すると、コンタミネーションの原因になるだけでなく、侵入した液体窒素が融解時に膨張してバイアルの破裂につながる恐れもあります。

  8. 融解して使用する前に細胞が凍結状態にあるか確認する

    液体窒素から凍結保存細胞を研究室に移す際に通常の氷を使うと、細胞生存率に悪影響が及びます。そこで、細胞を運ぶ際には常にドライアイスか液体窒素コンテナを使います。特にかなりの移動距離や移動時間に及ぶ場合には必ず使用してください。

  9. 細胞はすばやく融解する

    液体窒素コンテナから細胞を取り出したら、37℃のウォーターバスにクライオバイアルを入れ、中身が融解するまで待ちます。融解したら、あらかじめ加温しておいた大量の培地に即座に移します。なお、感受性の高い細胞タイプ(幹細胞、初代細胞)の場合は、液滴で加えると生存率維持につながります。細胞によっては、遠心してペレットにしてから、ピペットで丁寧に再懸濁し、あらかじめ加温しておいた増殖培地を含む細胞培養フラスコに加えることができますが、融解直後に細胞をフラスコに移し、翌日に培地を交換して残っている凍結保護剤を除去するほうが望ましい(穏やかな)場合もあります。

  10. 融解後の細胞が健康であることを確認する

    手早く目視検査するだけでも、例えば接着細胞がフラスコに接着したかどうかの確認など、細胞の健康状態の初期徴候を捉えることができます。最初の継代時に生存率をチェックしておけば、観察結果の判断に役立ちます。
     

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