接着細胞スケールアップの課題を克服する

接着細胞は、細胞培養ディッシュやフラスコのような平面上で培養されるのが一般的です。ガス交換や栄養供給は培養培地を介して行われるため、細胞の増殖をサポートするにはその条件を徹底的に最適化する必要があります。接着細胞培養に特有の問題としては、接着不良、回収率や生存率の低下、不均一な播種などがあり、細胞増殖時にこの影響はさらに大きくなります。本稿では、こうした問題に共通する原因に焦点を当て、日常的な細胞培養時でもスケールアップ時でも問題の予防に役立つアドバイスをお届けします。

接着細胞培養の課題

接着細胞培養における一番の課題は、細胞を培養容器に接着させることです。細胞の接着や増殖には、血清中の接着タンパク質(ビトロネクチンやフィブロネクチン)が必要になることが多いため、特に低血清培地や無血清培地で細胞を培養する場合に問題が発生しやすくなります。それ以外には、生存率の低下や表現型の変化が引き起こされると、下流工程に影響が及ぶ恐れがあるため、こうした状況にならないように、細胞に十分な酸素と栄養を供給しなければならないことです。また、細胞を均一に播種することも重要です。均一な播種は、単に一貫性のある細胞増殖を促進するだけでなく、培養容器から回収可能な細胞数を最大化する効果もあります。

増殖に共通する問題を回避する

上に挙げた問題は、接着細胞培養のベストプラクティスを遵守することで簡単に解決できます。細胞を何回か継代して、低血清や無血清の条件に適応できるようにするか、特殊加工表面のある培養容器を使用することで、接着を促進できるからです。有効なコーティングとしては、ポリ-L-リジン、ゼラチン、コラーゲン、その他各種独自組成などがあり、細胞タイプに合わせて慎重に選択する必要があります。培地は、あらかじめ加温してガスを加えながらpH調整しておくと、細胞接着を早め、特に大型の培養容器使用時に効果があります。

容器サイズや培地量は、接着細胞のガス交換と酸素供給に大きな影響を与えかねないため、特に培地の高さを慎重に最適化する必要があります。培地の高さについては、高すぎると、ヘッドスペースから細胞まで酸素が自由に移動できなくなり、逆に低すぎると、正常な細胞増殖に必要な栄養を十分に確保できなくなります。一般に、接着細胞培養の場合、培養面積1 cm2当たり0.2〜0.4 mLの培養培地を使用することをおすすめします。

細胞を均一に播種するには、培養容器に播種したら、やさしく十分に培地と混合します。その際、培養ディッシュを慎重に左右に傾けながら混ぜるか、広口のセロロジカルピペットで吸引・吐出をゆっくり数回繰り返します。また、培地交換時や、安全キャビネットとインキュベーターの移動時に細胞に負荷が生じないように配慮することも大切です。培地が激しく揺れると細胞に負荷がかかり、単層の一部が剥離することがあります。丁寧な扱いを心がければ、こうした問題を回避できるだけでなく、気泡の発生も防ぐことができます。気泡が生じると、播種したばかりの細胞が接着できなくなったり、すでに接着している細胞の壊死を招いたりします。

スケールアップにベストプラクティスを適用

研究者にとって、接着細胞培養をスケールアップする理由はさまざまです。例えば、ウエスタンブロットやELISAなどのイムノアッセイ用途に用いる細胞可溶化物の調製、モノクローナル抗体開発時の抗体産生クローン増殖、多様な細胞治療薬の製造などが挙げられます。最終的なゴールは何であれ、スケールアップに当たって、容器サイズが大きくなっても増殖スピードを一定に保つ必要があります。これが細胞特性を変えないポイントになります。

典型的なスケールアップ操作では、マルチウェルプレートから細胞を取り出し、細胞培養ディッシュやフラスコに移し、最終的に多層フラスコで増殖させます。この多層フラスコは、CO2インキュベーター内で過剰にスペースを占有することなく回収率を最大化できるように設計されており、底面積175 cm2の従来のフラスコと同じ占有スペースでありながら、接着細胞を最大10層まで培養できるモデルもあります。こうした多層フラスコには、Falcon® セルカルチャーマルチフラスコ(細胞培養面積は525 cm2と875 cm2の2種)やCorning® HYPERFlask® セルカルチャー容器(細胞培養面積1,720 cm2)などがあります。さらに大規模なスケールアップなら、他にも選択肢があります。例えば、ローラーボトル(最大1,750 cm2)、Corning CellSTACK® 培養チャンバー(最大25,440 cm2)、バイオリアクターに接続可能な高機能の閉鎖型灌流システム(最大85,000 cm2)などです。

小型容器であれば、スケールアップに先立って培養条件を徹底的に最適化できる点を知っておくことが重要です。例えば、マルチウェルプレートやディッシュは、フラスコなど大型容器での細胞培養に移る前に、培地組成同士を比較することで、最良の播種濃度を決定することができます。スケールアッププロセスを通じて、培養培地量(培養面積1 cm2当たりの培地量mL)を一定に保たなければ、スケールが大きくなったときに、明白な影響を生じかねないほどの変動を招く恐れがあります。

コーニングでは、単層・多層フラスコに加え、マルチウェルプレートや培養ディッシュなど、多彩な接着細胞培養用容器を取り揃えています。詳細については、細胞培養ソリューションのページをご覧ください。また、Falcon® セルカルチャーマルチフラスコのサンプルは、こちらでご請求いただけます。