コーニングの研究者に聞くサンプル温度管理術

一般論として、細胞サンプルの温度は高過ぎても低過ぎても問題が起こりやすいものです。温度が正しく管理されないと、どのようなプロジェクトであれ、下流のさまざまな要素に影響が及びかねず、試薬や他の実験薬の機能が制限されたり、場合によっては正常細胞が死滅することもあります。こうした影響が原因で、スケジュールの遅れ、コストアップ、データ完全性の低下を招くこともあります。

研究室では一貫した温度管理が重要ですが、サンプルの生存率は往々にして、適者生存ならぬ"冷却細胞生存"が大きなテーマになります。ただし、培養細胞が電源や氷といった外部の冷却力に依存していたり、人の出入りの多い環境に置かれていたりする場合、運が悪いと生存率に悪影響が及ぶこともあります。

研究者はこうした問題にどのように対処しているのでしょうか。今回、コーニングのサイエンティフィックサポートマネージャー、Kyung-A(Katie)Song博士を招き、研究室での温度管理方法についてノウハウを聞きました。

Q: 温度は細胞生存率にどのような影響を及ぼすのですか。

どのようなタイプの細胞でも、接着や調製に合った所定の最適温度というものがあります。そのような最適温度で細胞を培養できない場合、健康な状態を維持できず、必然的に死滅に至ります。

もっとも、ここで問題となるのは、細胞生存率にとどまりません。試薬、酵素、その他の実験用の担体も、温度条件の変動に高い感受性があります。温度管理が不適切な場合、細胞の死滅だけでなく、試薬や酵素も同様に影響を受け、使用できなくなることもあります。これはコストアップにつながります。

だからこそ、温度管理が非常に重要とされるのです。ここに問題があると、実験結果の信頼性や予測性が失われる恐れがあり、言い換えれば、実験に費やした時間や労力、コストが無駄になりかねないのです。

Q: 過冷却は過熱と同じように大きなリスクになりますか。

はい。細胞は、高熱に概して弱いタンパク質で構成されていることから、過熱について配慮するのが一般的ですが、過冷却も細胞に危険を生じさせることがあります。例えば、摂氏0℃以下の温度では、細胞内部に氷晶が形成され始め、培地の濃度が変化します。その結果、細胞外に水分が移動し始め、脱水・収縮が始まり、やがて細胞の損傷や死滅に至ります。

Q: 研究室の環境で温度管理に意外に手を焼くのはなぜですか。

通常、研究室環境は、さまざまなアプリケーションに合わせて安定した一定温度を確保する必要があります。例えば、真核細胞の培養条件は、通常、二酸化炭素ガス中で37℃に設定する必要がありますが、試薬や酵素は−20℃か−80℃で保管します。

これだけの幅広い温度条件に対応するため、研究室にはいろいろな冷蔵庫、フリーザー、インキュベーター、ウォーターバス、ヒートブロック、その他のツールを用意するのが一般的です。ただし、こうした方法はいずれも障害発生時の影響が大きくなりやすく、定期的な点検、保守、監視が必要です。また、こうした装置は、通常は電力に依存することから、停電時に問題が発生しやすくなります。

このような要因とは別に、研究室はいつもせわしなく人々が動く共用スペースのため、どうしても人の出入りが多くなります。たとえ最良の設備が整っていても、常に研究室のドアを開けたり閉めたりしていると、温度を一定に保つことは容易ではありません。

Q: 従来の温度管理装置に関する既知の問題としては、どのようなものがあるのですか。

バッテリーや商用電力を使う機器、その他のツールを保有すると、頻繁な監視や交換が必要になるため、コストも時間も労力もかかるという問題があります。

同様に、冷却に氷を使う容器も、頻繁に氷の交換が必要なため、製氷機まで何度も足を運ばなければなりません。しかも、氷が解けてバイアルに入り込むコンタミネーションのリスクも常についてまわります。氷冷も温度の安定性に影響を及ぼすことがあります。氷の上に直接置いたプレートの温度を測定すると、ウェルごとに温度が均一でないことがわかります。

また、従来のイソプロパノール(IPA)利用の凍結容器にも課題はあります。IPAは、多くの研究室で低温凍結に使われていますが、5回使用するごとにイソプロパノールの点検・充填が必要になるなど、いくつかのデメリットがあります。また、アルコールの劣化で温度変動が生じることがあるほか、凍結後にスクリューキャップが外しにくくなる短所もあります。

Q: 冷却ツールの購入で失敗しないためには、どのような点に気をつければいいでしょうか。

氷浴、IPA、バッテリー駆動機器や商用電力使用機器は、使用に際して電池や電気への依存やデメリットがいろいろとあります。そのような依存やデメリットの少ないシステムを選ぶことが大切です。また、携行性に優れたツールを選ぶこともいいアイデアです。そこで選択肢に挙げられるのが、アルコールフリーのシステムであるCorning® CoolCell® 細胞凍結容器です。この凍結容器は、冷却特性にムラがないうえ、従来のIPA凍結容器に付き物の短所もなく、ランニングコストも発生しません。

同様に、氷上にチューブを置く際、チューブを氷に直接置かずに温度を一定に保つCorning CoolRack® モジュールもあります。この製品に使われている熱伝導性素材は、コーニングが独自に開発したもので、氷などの温源にチューブやウェルを直接置いた場合に生じる温度変動を低減させる効果があります。氷に依存しない別の選択肢として、Corning CoolBox™ モジュールもあります。こちらは、Corning XT Cooling CoreやCorning XT Freezing Coreと合わせて使用すると、冷却の場合は最長16時間、冷凍の場合は最長8時間まで維持できます。

Q: 研究室でのサンプルの温度管理について、研究者がほかにも知っておくべきことはありますか。

基本的なことと思うかもしれませんが、温度管理の原則は非常に重要で、これまでの経歴や経験の度合いを問わず、どの研究者にとっても見直してみる価値があります。トラブルシューティングの際には特に言えることですが、重点をサンプルの温度管理に置くのか、試薬・酵素の温度管理に置くのかといった違いはあるにせよ、とにかく温度変動への対処まで突き詰めることが問題解決の鍵を握ります。ちょっとしたことであっても、大きな影響につながる可能性があるのです。