Cell Culture Protocol: Best Practice in Spheroid and Organoid Cultures

3D細胞培養モデルは、過去20年間に大きな進歩を遂げました。生物医学研究に欠かせないツールとしてスフェロイドやオルガノイドというモデルが登場し、研究者はトランスレーショナルリサーチでこれまで以上に現実に即した結果が得られるようになりました。スフェロイドやオルガノイドの培養において、こうしたモデルの可能性を最大限に引き出すうえで極めて重要なのが、適切な細胞培養プロトコールの選定です。

スフェロイド培養とオルガノイド培養の違い

スフェロイドは、比較的単純な3D細胞モデルで、細胞同士が接着する性質を生かし、細胞を球状に凝集させて形成します。一般にスフェロイドモデルは、単一の細胞タイプで構成されます。

これに対してオルガノイドは、複雑な3D細胞モデルで、複数の臓器特異的な細胞タイプで構成されます。コーニング ライフサイエンスのシニアアプリケーションサイエンティスト、Hilary Sherman氏は、次のように語ります。「オルガノイドには方向性があるという意味で、オルガノイドのほうが臓器の再現性に優れていると言えます。つまり、内側と外側があるのです。例えば、人間の腸は中空になっていて、栄養を吸収する細胞はこの中空側の面に並んでいます。一方、腸の外側には、別のタイプの細胞が並んでいます。オルガノイドには、これと同じ機能があります」

スフェロイドの3D細胞培養プロトコール

前出のSherman氏によれば、あらゆる研究室のニーズに応えられるような万能の3D細胞培養プロトコールは存在せず、さまざまな要件を考慮してバランスを取らなければならない場面も多々あるそうです。実験に当たっては、取り扱う細胞タイプ、分析手法、スフェロイドのサイズや形状に求められる均一性、必要なシグナル量を考慮します。

従来の方法としては、Corning® マトリゲル®基底膜マトリックスなどのハイドロゲル内に細胞を包埋する方法が挙げられます。「例えて言えば、フルーツゼリーの中にあるフルーツです。マトリックスが細胞を閉じ込めて包み込むのです」(Sherman)

もっと新しいところでは、Corning 超低接着(ULA)表面などの低接着表面を使ったスフェロイド培養に移行している研究室もあります。こうした表面には細胞が接着できないため、細胞同士が凝集してスフェロイドを形成します。

オルガノイドの3D細胞培養プロトコール

オルガノイドは、増殖因子やタンパク質に関してスフェロイドよりも要件が厳しくなる傾向があり、オルガノイド培養の大半は、細胞外基質(ECM)にオルガノイドを包埋する方法が取られています。その理由の1つとして、オルガノイドには極性があり、内側と外側で異なる細胞タイプが配置される点が挙げられます。

「オルガノイド培養に携わっている方のほとんどは、適切な方向性を確保したいと考えているため、ULAのみでは十分と言えません。ECMとULAが必要な場合もあれば、ECMだけで足りる場合もあります」とSherman氏は述べています。

これを最も簡単に実現する方法として、マトリゲル基底膜マトリックスに細胞を混ぜたものをプレートに滴下し、ハイドロゲル全体に分布させます。Sherman氏によると、これはオルガノイドの量産には適しているものの、さまざまな焦点面にオルガノイドが配置されるため、イメージングがより難しくなります。

そこで一部の研究者は、次のような方法を用います。まずプレートにマトリゲル基底膜マトリックスをコーティングし、平坦な厚い層を形成します。続いて、この層の上にオルガノイド細胞を加え、ゲル化しない程度に希釈したマトリゲル基底膜マトリックスとの混合液を作ります。この手法は「サンドイッチ培養法」と呼ばれます。セットアップにいくつかの手順が必要ですが、オルガノイドが単一の焦点面にあるため、イメージングは容易です。

もう1つの選択肢は、ドームアッセイで、液滴アッセイとも呼ばれます。細胞と混合したハイドロゲルの微小液滴(5〜10 μL)をプレート表面に配置する手法です。液滴が微小なため、イメージングではどうしてもオルガノイドの視野が狭くなるものの、播種は単純な1段階のプロセスで済みます。この手法は、微小液滴を播種するので、必要な細胞数もわずかで済むことから、患者細胞由来のオルガノイドなど、貴重なオルガノイドを扱う際に特に有効とSherman氏は話します。

さらに新しい手法が、ULA製品に培地添加剤としてマトリゲルを組み合わせるもので、すでにいくつかのタイプのオルガノイドで実証されています。ULAは、細胞の接着を防ぐ一方、マトリゲルは、オルガノイドが正しい方向に組織化するようにシグナルを送ります。この手法であれば、希釈したマトリゲル溶液しか使用しないため、コスト削減につながり、研究室のイメージングと簡略化という2つのニーズを両立させる一助となります。

スフェロイドとオルガノイド培養のトラブルシューティング

3D培養には特有の要件があるため、スフェロイドとオルガノイドの培養手順は2D培養よりも最適化が必要になる場合があります。そこでトラブルシューティングでの検討ポイントを見ていきましょう。

細胞懸濁液の均一性

プレートへの播種プロセス中、細胞懸濁液の混合状態を適切に保てなければ、不均一なスフェロイドにつながります。この点についてSherman氏が説明します。「細胞懸濁液が不均一だと、細胞は接着しやすいところにばかりに集まるようになります。その結果、細胞凝集塊が入るウェルもあれば、単一の細胞しか入らないウェルもできてしまい、スフェロイドのサイズにばらつきが生じかねません。どのようなスフェロイドのプロトコールでも、均一な懸濁液から着手することが本当に重要なのです」

オルガノイドに必要な最適化

また、Sherman氏によると、患者由来細胞からオルガノイドを培養する際、オルガノイドを分割して継代するうえで1つひとつの細胞株が最適な濃度、最適なサイズかどうか確認する必要があります。こうした因子が生存率を大きく左右するからです。「患者由来のオルガノイド株は、たとえ同一の臓器であっても、それぞれ振る舞いが異なります」(Sherman)

スフェロイドの場合も、播種濃度を最適化して、最終的なサイズをコントロールする必要があります。「スフェロイドが大きければ、それだけ栄養も必要になるため、培地交換の頻度が増え、それが生存率に影響を及ぼすこともあります。培養中の細胞に適切な養分が供給されていて、老廃物が蓄積していないか確認することが大切です」とSherman氏は説明します。

溶解とイメージングの考慮事項

2D培養から3D培養に移行する際、溶解やイメージングに関わる考慮事項を意識しておく必要があります。例えば、2D構造よりも3D構造のほうが溶解は難しくなります。

3D細胞には、強力な溶解化合物を使った市販の細胞溶解キットがあるため、分析前にスフェロイドを丸ごと溶解できます。細胞イメージングに関しては、2Dより3Dのほうが色素浸透も固定化も時間がかかる点を考慮しておく必要があります。

3D培養を取り巻く近年の進歩と実臨床応用

近年の進歩を受け大きな期待が集まる3D細胞培養の分野で、新たなアプリケーションに道が開かれつつあります。研究が活発な領域をいくつか見てみましょう。

インサイドアウトオルガノイド

オルガノイド培養手法の興味深い発展の方向として、オルガノイドの極性を表裏反対(インサイドアウト)に培養する手法があります。Sherman氏は、次のように説明します。「気道オルガノイドの場合、マトリゲルを使って培養すると、私たちの身体と同じ極性を持つので、繊毛はオルガノイドの内側に存在し、じかにアクセスできません。ところが、ULAで培養すると、表裏が反転して繊毛が外側に現れるのです」。腸オルガノイドも、反転極性で培養されるため、対象となる細胞に容易にアクセスできます。

『Viruses』ジャーナルに発表された論文では、研究チームがインサイドアウトの気道オルガノイドモデルを作製し、肺のSARS-CoV-2感染のモデル化に使用しています。この手法は、他の呼吸器疾患の研究にも応用できます。

毒性試験のためのスフェロイド

スフェロイドは、がん研究だけに使用されるわけではありません。毒性試験にも使われています。「初代肝細胞をスフェロイドとして培養すれば、(毒性試験で)従来の2D培養よりも高い感受性を示します。肝臓に見られる複数の初代細胞タイプを共培養して、さらに複雑なモデルを作製することも可能です。これはオルガノイドではありませんが、はるかに複雑なスフェロイドです」(Sherman)

新薬候補を対象とする肝毒性作用のテストや、2Dの研究では難しい毒性機序の研究に肝スフェロイドを使っている研究室もあります。

コーニングは、3D培養のリソースやガイド、ヒントなど、3D細胞培養のあらゆるニーズにお応えします。詳細はウェブサイトをご覧ください。コーニングの専門家へのご相談もお気軽にどうぞ。