Allogenic Cell Therapeutics: Successfully Creating Master Cell Banks, Working Cell Banks, And Drug Product with HYPERStack Technology

以下は、Waisman Biomanufacturing社(Waisman社)の協力でCell&Gene.comに掲載された記事を翻訳したものです。

どのような細胞培養プロセスでも、細胞株の樹立には初代細胞培養が必要です。この初代細胞培養は足場依存性の細胞か、足場非依存性の浮遊細胞のいずれかになります。足場依存性の初代細胞の場合、増殖・樹立のためには、細胞が接着する支持固体(担体)が必要です。一方、浮遊系の初代細胞は、担体が不要です(細胞は培養液中に浮遊)。

一般に、スケールアップが可能な培養法は浮遊培養だけと考えられていますが、一部のケース(生物学的に初代細胞が接着を必要とする場合)では、接着培養のスケールアップのほうが効果的な選択肢となります。接着培養のプラットフォームは、標準的な細胞培養フラスコから、固定床バイオリアクターに至るまで多岐に渡り、場合によっては、接着培養から浮遊培養に細胞を適応させなければなりません。そのような場合、接着性細胞株と浮遊バイオリアクターの橋渡しとして、例えば、培養液中にビーズを浮遊させ、これを接着細胞が接着する担体に利用するマイクロキャリアなどの技術があります。しかし、現行技術では最終産物からマイクロキャリアを除去しなければならないため、細胞療法にはまだ理想的とは言えません。それでも、研究現場では、将来的にGMP環境下での改良への橋渡しになりそうな新たな動きが毎日のように見られます。

ヒト細胞療法アプリケーション向けの間葉系間質細胞(MSC)、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)バンク、他の同種細胞療法用細胞株(肺がん細胞株など)などを扱った細胞治療サービスを手がけるWaisman社は先ごろ、米国ウィスコンシン州マディソンにある生産施設の生産能力をスケールアップしました。Waisman社は、同種細胞療法を前提とした製造プロセスの大規模化に焦点を絞った拡張計画に、徹底的に取り組みました。その際に着目したのが、HYPERStack 36段セルカルチャー容器でした。これは、迅速で効率的なスケールアッププロセスを支援する接着細胞培養プラットフォームです(図1)。

短期・長期的ソリューションの計画

Waisman社の顧客企業にとって、最大の課題は、細胞療法ソリューションの提供業者が抱える課題と共通しています。つまり、限られたコストと可能な限りの最短期間でスケーラビリティと高収率をいかに実現できるか、ということにほかなりません。またどの顧客も、品質を犠牲にすることなく、売上原価を削減したいと考えています。大手の医薬品製造受託機関(CMO)は、1つのプロジェクトに多くの人員を投入するという人海戦術でスケールアップを実現できるかもしれませんが、そこまで巨大ではないCMOの場合、売上原価に関する顧客の要件に応えるためには、新たな方法を考え出さなければなりません。

Waisman社にとって転機となったのが、HYPERStack セルカルチャー容器の登場でした。生産設備の表面積容量比の向上・最適化のチャンスになると判断したのです。狙いは、コストの大幅な増大を招くことなくスケールを拡大することにありました。それまで使用していたCorning CellSTACK® 10段セルカルチャー容器から、HYPERStack 36段セルカルチャー容器に切り替えたところ、売上原価の圧縮効果は「劇的」でした。このグレードアップにより、生産施設の細胞生産力はおよそ250%増となった一方、営業コストは20〜25%の増加にとどまりました。しかも、この変更に当たって、生産施設の大規模改修も、インキュベーターの追加導入も、人員増もすべて不要だったのです。

つまり、Waisman社にとっては、施設の生産能力が強化され、同種細胞療法製品だけでなく、接着細胞培養で製造されるウイルスベクターにも適用できる新規プラットフォームの導入も実現した結果、長期的な成長に寄与する体制づくりにつながりました。また、短期的には、HYPERStack セルカルチャー容器が顧客固有のアプリケーションの実現に新規採用されました。この顧客は、Waisman社と共同でHYPERStack プラットフォームを用いて細胞を拡大培養し、売上原価を激増させることなくスケールアップを図るとともに、この技術の経験を積めるとあって、大きな期待を抱いていました。

優れたソリューションには特殊なプロセスを

Waisman社では、細胞スケールアップのための一貫性と信頼性に優れたプロセス(マスター細胞バンクやワーキング細胞バンク、さらには同種細胞療法の最終産品の開発に使用)の開発に向け、2つの重要ゴールを掲げて取り組みました。第1に、完全な無菌プロセスの開発・維持です。これがなければ、細胞を最後に無菌化できません。Waisman社としては、清浄度ISO 7のクリーンルームのベンチトップで利用可能なプロセスを求めていました。第2のゴールとして、Waisman社は細胞の再現性を確保する必要がありました。つまり、マスター細胞バンクやワーキング細胞バンクでの生産といったプログラムの早い段階から、最終生産に至るまで、一貫性のある製造体制を確立する必要があったのです。

完全無菌プロセスの開発は、規制の面で不可欠でした。そこで、Waisman社は、複数のHYPERStack セルカルチャー容器を同時に操作できるツールに重点を置きました。スケール変更に対応した完全無菌の状態で、培地の洗浄・交換や、細胞回収を実現するため、複数のHYPERStack セルカルチャー容器を接続する配管マニフォールドシステムを設計しました。実際、生産施設で培地充填を実施する際、バイオセーフティキャビネットの外でも無菌環境を維持できており、HYPERStack セルカルチャー容器が操作可能なことを実証しています。

第2のゴールである細胞の再現性とスケーラビリティに関わる課題には、利用しやすさもあります。例えば、全36段ある容器のうちの18段目の中を覗き込んで細胞の状態を確認するのは、容易ではありません。しかし、Waisman社としては、単一のHYPERStackにとどまらず、15台あるすべてのHYPERStackで細胞が均一に増殖していると自信を持って言える必要がありました。Waisman社がこの問題を克服できたのは、10段のCorning HYPERFlask® 容器と36段のHYPERStack容器を使って細胞増殖を並行して実施し、プロセスを開発している最中のことでした。その際、HYPERFlaskは細胞を監視するいわば見張り用の容器として利用し、HYPERFlaskとHYPERStackの両容器を対象に総細胞数、生細胞数、その他の分化能に関する細胞特性を比較しました。こうした比較を実施することにより、プロセス開発者が設定した培地交換や回収のタイミングについて、効果的でスケール変更可能であることに確信が持てるようになったのです。

結びに

Waisman社は、最初に掲げたプロジェクトの企画概要で、HYPERStack技術を利用し、細胞療法を手がける巨大CMOに対抗する方針を掲げました。こうした巨大CMOには、プロジェクトのスケールアップに潤沢に人員を投じる余力があります。これに対抗してWaisman社は、HYPERStack セルカルチャー容器を導入した結果、競争力が向上し、顧客であるバイオテクノロジー企業に対して、たとえ厳しい納期であっても迅速で高品質なCMOサービスを提供し、顧客企業の売上原価の圧縮にも貢献できるようになりました。

究極的には、細胞療法の顧客企業が自ら独自のプロセスを保有するようになります。各種細胞療法アプリケーションのような顧客企業固有の製品を評価する場合、適用する技術やプロセスで価格設定も左右されます。例えば、Waisman社の価格設定は生産能力に基づいて決定されています。15個の36段HYPERStack セルカルチャー容器をプロセスに使用し、顧客の初期データか一般的な想定に基づいて回収密度を想定し、顧客に成果物の価格を提示しています。ただし、回収密度は正確な細胞成果物というよりも、Waisman社が達成可能なプロセススケールに基づいている点にご注意ください。最終的には、臨床開発に後発で参入した顧客がバッチ記録やその他のデータを収集したうえで、自前施設を建設して事業を継続し、他のCMO施設での教訓を生かしていくことになります。

今回、コーニング ライフサイエンスはWaisman社と共同で、細胞療法用細胞の最適化やスケールアップのプラットフォームを整備しました。同様に、他のCDMO(医薬品受託製造開発機関)やCMOの生産能力や売上原価のニーズにもお応えします。詳細については、www.corning.com/lifesciencesをご覧ください。

寄稿者について

Brian Dattilo博士は、Waisman Biomanufacturing社の事業開発ディレクターです。バンダービルト大学で、組換えタンパク質生産、 精製、解析的特徴付けを専門に研究し、生化学博士号を取得しました。米生物医学先端研究開発局(BARDA)のプログラムマネージャーとして、数百万ドルの開発予算を投じた新規プラットフォーム技術や、これを生かした新型インフルエンザや生物テロ防御アプリケーション向けのワクチン、生物学的製剤、診断開発への応用を担当した後、Waisman社に入社しました。2012年にWaisman社に入社以降、顧客対応、技術製品開発計画策定、プロジェクトの予算管理・原価見積もりを統括しているほか、新規プラットフォーム投資のためのビジネスケース(事業計画)作成も担当しています。

コーニング ライフサイエンスの概要

コーニング ライフサイエンスは、細胞培養、バイオプロセス製品、リキッドハンドリング、ベンチトップ機器、ガラス器具の各種製品を手がけ、グローバルに展開するメーカーのひとつです。コーニングでは、細胞の力を生かして画期的イノベーションづくりに挑む研究者のサポートを目的に、効率化やソリューション開発に取り組んでいます。コーニングは、核となる細胞培養、バイオプロセス、がん研究、初代細胞・幹細胞、創薬スクリーニング、細胞・遺伝子治療、疾患モデル構築、ラボオートメーションなど、いくつかのアプリケーション領域を対象に研究活動を支援しています。詳細については、www.corning.com/lifesciencesをご覧ください。

Waisman Biomanufacturing社の概要

Waisman社は、細胞培養スペシャリストチームの幅広い経験を生かし、製品細胞株ごとに固有の培養パラメーターの最適化を実現しています。各クライアントと緊密に連携しながら、CGMP/ICH要件に適合する細胞培養プロセスや細胞バンク構築プログラムを開発しています。生産施設には、生物製剤製造、細胞・遺伝子治療のためのマスター細胞バンクやワーキング細胞バンクの製造など、細胞療法アプリケーションで使用する哺乳類細胞の培養専用に設計された細胞療法室が5室あります。詳細については、www.gmpbio.orgをご覧ください。