第3回 細胞の入手と品質管理 質問と回答
セミナーご参加の皆様からいただいた質問に片岡先生(講演者)より回答をいただいております。
細胞や培養条件によっては当てはまらない事もございますので、その旨ご理解の程を宜しくお願い致します。
-
細胞株の継代回数はどのくらいまで使用できますか?
細胞株となったものには継代回数の制限はありません。ただし培養状況によって細胞の性質が刻々と変わるので、ロット管理あるいはリスクマネージメントという観点から継代数をきちんと記録しておく必要があります。
-
精子は液体窒素につけた方がいいという例がありました。液体窒素につける方が良い場合というのはどういう理由でしょうか?
液体窒素につけるのは、基本的にはガラス化法を意識した話です。幹細胞ですね。特にヒトのES/iPS細胞は、ガラス化法が基本です。それと、卵子などの生殖細胞は液体窒素につけて保存します。
-
細胞ストックの運用ですが、先生の研究室ではのようにされていますでしょうか。研究室で共通で持たれていますか?それとも個人持ちでしょうか。
私のところは教育を行なっている大学です。教員と学生の技術の差はかなり大きいものです。また学生の中でも差が大きいので、同じ細胞を使うにしても、基本的には個人管理にしています。また、実際に研究室の一番重要なストックは教員が作って、それに関しては一般の学生は使用できないというようにしています。一番大切なストックを守るために、お答えとしては個人持ちとなります。
-
継代を繰り返すことにより細胞の性質が変化していくので継代は繰り返さないことが大事ですが、どの程度まで継代を許容されますでしょうか。また、どのような性質変化をもってよくないとされていますか?(見た目や増え方など)
細胞株となったものには継代回数の制限はありません。むしろ必要な性質と安全性が保障されていれば、何回継代した細胞でも研究には問題なく使えます。ただ、ロット管理あるいはリスクマネージメントという観点から継代数をきちんと記録しておく必要があります。初代培養細胞の場合は継代数が多くなって老化すると増殖が次第に遅くなってくるので、増殖が遅くなった細胞は使用しないようにしてください。例えば線維芽細胞の場合は老化細胞は巨大化する傾向があるので顕微鏡観察によってもわかるとは思いますが、細胞によっては形態の変化があまりないものもあります。
-
細胞凍結時に、細胞生存率を上げるための一番大切なポイントを教えてください。
細胞凍結の時の一番重要なポイントというのは、私は元気な状態の良い細胞を凍結するということだと思います。コンフルエントの細胞ではなくて、7~8割で対数増殖期にある細胞を使用してください。この時期の細胞は非常に元気で、ダメージが多少あっても非常に強いです。そういった細胞を使ってストックすることを心がけてください。例えばたくさん細胞が増えてしまって「コンフレントになったんだけど、凍結しておこう」といってするような凍結が一番良くない凍結の仕方だと思ってください。
-
短期間の場合、クライオジェニックバイアルの代わりにマイクロチューブ(いわゆるエッペンドルフチューブ)で細胞凍結してもよいでしょうか。
これはお勧めできません。一つはエッペンドルフチューブのフタというのは、御存じのように簡単にあいてしまいます。凍結するときは、さまざまな温度の変化によって内容物の容量が変化しますので、自然に空いてしまうおそれが非常に高いと思った方がいいというのが1点です。あとはマイクロチューブの場合は当然ですが、液体窒素保存はできません。液体窒素保存すると壊れてしまう可能性が非常に高いです。そういう点からすると、基本はクライオジェニックバイアルというふうに決めていただいた方がいいかなと思います。
-
細胞凍結温度に関して、-80℃で保存した場合、数か月~1年後には解凍時の生細胞率が低下するとありますが、経時的にどんどん低下していくのでしょうか?例えば、1年後よりも2年後の方が、生細胞率は低くなりますか?
これはほぼその通りだと思います。経時的にどんどん低下していきますので、2年たつと1年よりもかなり落ちる。3年経つともうほとんど増えてこないということになります。つまり、-80℃での保存は非常に強力なストレスを細胞にかけているということですので、長く-80℃で保存するというのは避けてください。
-
細胞のストック作製について、ストックは平均でどれくらい作製するものなのでしょうか?
結構難しいご質問です。一連の流れの実験で必要な分を作成します。半永久的に使える程のストックを作成するというのは、むしろ避けてください。特に株細胞は、一定期間ごとに細胞バンクなどから入手し続けるというのが基本です。それぞれ研究室でストックをし続ければし続けておくほど性質というのは変化しやすいので、論文などでも一定期間ごとにきちんと購入しているかというのを問われることがあります。そういう前提で必要な量ストックするとすると、10本、20本というのは、少ないかもしれませんが、100本ストックする必要があるかというと、そういう実験をしない限りはそれほど多くストックする必要はないと思います。
-
細胞培養に使用する、培地について質問させてください。培地の保存は、通常の冷蔵庫(4℃)でもよろしいでしょうか?それとも、凍結する方が望ましいでしょうか?そのときの保存温度は、何を基準に決めたらよろしいでしょうか?グルタミンやピルビン酸などは変質しやすいですが、どのように管理されていますでしょうか?その都度添加でしょうか?
その都度添加については、基本的にグルタミンとかはその都度添加となってる培地も多いと思います。一般的な培地は4℃保存で販売されて、4℃で保存してくださいとなっていると思いますので、それが望ましいと思います。では凍結できないのかって言われると凍結して販売されてる培地も結構種類があると思います。4℃保存で販売している培地を凍結することは、自己責任であれば悪いことではないと思います。ただ、注意していただきたいのは、凍結する時のフリーザーです。フリーザーというのはものによって大きな差があると思ってください。当たり前ですけど、一番良くないのは家庭用のフリーザーで、温度が季節によって数℃動きます。日によっても動く。ちゃんとした業務用あるいは研究用のフリーザーで保存してください。これに関しては保存の期間と温度というのがかなり大きく関係してくると思いますので、一般的に問題となるのは-120℃から-130℃ぐらいで、それよりも低いと安定的に保存できます。-80℃保存というのは、先ほど細胞がだんだん生存率が下がるのと同じように、タンパク質なども次第にダメになっていってる可能性があります。もちろん、構造が変わるとか、そんな大きな変化は全くありませんが、そういう意味からすると、やはり長く保存するというのは避けた方がいいのかなと思います。
-
-80℃保存適温と言われているものを-150℃のディープフリーザーで保存するのは適切ではないのしょうか?
ケースバイケースですね。基本的には指定された通りにやるというのが細胞培養の考え方です。細胞株など、あるいはプロトコールが決まっているタイプの細胞というのは、そのプロトコールから外れると性質が変化するという風にお考えになった方がいいかなと思います。ですので、添付されてる文書あるいは細胞を譲渡されたところからの添付文書などに-80℃が保存の温度ですと書かれている場合は、その温度-80℃で保存してください。

お問い合わせ